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ifエピソード あのとき、目を逸らさなかったら

 〝風籠〟の宮殿でブラックと白雪が話し合っていたとき、ブラックの瞳が輝いた。白雪はその際、またノイズが走るのを恐れ目を逸らしたのである。


 もし仮に、目を逸らさなかったらこんな映像を見ていたかもしれない────


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


(しゅ)よ。私の知らない時間軸が一つ、観測されました。どのようにいたしますか」


(…………またなのね)


 そう、ブラックの目あるいは眼を見たことにより、白雪はまたもやノイズが走ったのだ。今、こうして脳内に流れてくる映像を見ているのも、それのせいである。

 正直、白雪は嫌になっている。この誰かの記憶のようなものを見たって、精神がおかしくなるだけだ。それでも、それは襲ってくる。


 半透明な黄金のローブを着ている女性が見えた。きっと、この映像を見ているのが霄なら誰か分かるだろう。


「ウォトゥムが動き出したのか……。無駄なことを」


「『青』め……。他に『黒』も協力関係にあるそうですが、他の使徒たちはいかに?」


 ローブを着た者がもう一人──主と呼ばれた者に問う。だが、彼が答える前に言葉が放たれた。


「あの子たちなら大丈夫だわ。シェオルとヴェルナートが他の子をまとめてくれてるから」


「月の始祖……」


 過去に白雪が何度も見た姿だった。名は確か──リュミエール。


「私を月の始祖と呼ぶの、やめてくれるかしら。リュミエールという名があるのだから」


「すまぬな、リュミエール」


 はぁ、とリュミエールのため息が聞こえてくる。


「あなたのその███様の真似、やめてくれる?███様の前だと口調や一人称まで変わるのも、何だが気持ち悪いわ」


(ん……?ところどころ、聞こえないのはなぜかしら)


 白雪は嫌々ながら聞いて見ていたわけだが、怪しいほどに時々、ノイズで聞こえなかった。何が原因なのか。

 まるで、その名を隠したがっているような──


「ッ。なんだ、貴様。この我に喧嘩を売っているか」


「やめろ。始祖同士で争いなど、愚かだ。それと、リュミエール。貴様も我の事を敬称で呼ぶのはやめろ。口調と一致しておらぬ」


 主と呼ばれた者が面倒くさそうに止めに入る。


「ふっ。ごめんなさい。それで、フィアたちはどうするの?」


「あやつは滅ぼすべきだ。我らが主と同じ『意味』を持っておきながらも、それを侮辱し穢す悪魔にすぎない」


「まぁ、そう言うなクロノス」


「あの子たちにも、何かあったのでしょう。時の始祖たるあなたなら、分かるんじゃないの?」


 リュミエールの言葉に、彼女は反抗的であった。


「フン。あやつらのことなど…………待て」


 突然として、一気に緊張が走る。


「見̀て̀い̀る̀な̀」


(──?!そんな、嘘でしょ。私が分かるの……?)


 時の始祖──クロノスが見えるはずがないものを見ている。そう、映像の中の白雪の視線とクロノスの視線が入り混じったのだ。


「未来からの観測か。いや、これはただの観測ではない……?」


 クロノスが何やら深く考えたのち、腕を高く上げ、振り下ろした。

 すると、刹那に空間に裂け目が現れ侵食を始める。裂け目からは、元いた宮殿の姿が。やがて、すべてが裂かれて辺りの景色は完全に〝風籠〟の宮殿となったのである。

 クロノスと主と呼ばれたブラックに似た者、そしてリュミエールと呼ばれた白雪に似た者が相変わらずそこに立っている。

 クロノスは再度、口を開く。


「並行世界からの観測か。しかし、なかなかどうしてリュミエールに似ているな」


「そうね。ということは、あ̀れ̀は成功したのね」


 彼女たちの発言はまるで、ノイズの映像内では幽体的な存在である白雪を、実体として見えているかのようだった。

 白雪はそこで気づく。視界の中に、自身の手が映っていることを。


(ま、まさか、私……。それに、あれって──)


「さようならだ。並行世界の者よ。いつか、どこかでまた会うだろう」


 その言葉を合図にしたかのように、白雪の本来ならないはずの身体が徐々に薄く消えていく。


 そして最後に、ブラックに似た者が口を開いた。


「白雪、造られた現実を超えろ」


(ッ?!!私の名前を……。やっぱり、ブラックなの……っ?!)


 彼の瞳が闇色に輝き、グリッチのようなノイズが走る。

 ──それを最後にして、白雪は完全に消えた。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


「……?」


 やがて気づいた。自分は目を瞑っていたのだと。ゆっくりと、まぶたを開く。


「どうしたのだ?白雪」


 目の前では、不思議そうに声をかけるブラックがいた。

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