第十五話 これは、時と命の物語⑩
「「「?!」」」
周辺の木々を枯らした封命主を見て、ブラックを除くが、皆が驚いた。牙瑜や麗那も、険しい顔をしている。ホワイトはわずかに目を見開いていた。
やはり、霄が言っていた森の異変の原因は、彼女にあるようだ。
「……やっぱり、あなたなのね」
「その口調から察せば、どうやら、このことを知っていたのか。……おかしいな。私が情報を漏らしたこともないし、バレるような場所と範囲でしかやっていないのだが」
深く考え込むように、封命主は視線をズラす。
確かに、ここは森の奥深くだ。上空から見ない限り、木々が枯れていることなど知りようがない。
なぜ、霄が知っていたのか。なにやら関係がありそうだ。
「この近くの国が〝風籠〟である事は知っているか?」
「もちろんだ。この世界にある国はすべて把握している」
「森の異変を解決して欲しいと言ったのは、そこの国王、いや、代理の国王なのだ」
「……名は何だったか。時雨 霄と言ったか」
「その通り」
ブラックが縦に首を振る。
「あぁ、そうか。あいつの能力は【時命なる刻継】という名前だったな。時と命に関わる能力だ。まさに、法則らしい」
「時と命って、クソチートじゃねぇか」
玲兜が声を荒あげて言った。
その文字だけを見るなら、いや、そうでなくともチートと言われるのは仕方ないように思える。
時、すなわち、時間と生命に関与する能力というのは、それらを操作する能力と言い換えれる。はっきり言って、反則だろう。
時を操れるならば、時間停止という誰もが夢見るアレを可能にし、命を操れるならば、即死技も可能である。
そんなことが、霄に可能だとは驚きだ。
「どこまで操れるかは、私も知らん」
「……封命主さん?って、呼べばいいかな」
尽世が割り込むように話しかけた。封命主は吐き捨てるが如く答える。
「好きに呼べ。封命主でもNo.06300でもな」
「じゃあ、封命主さん。霄さんのように、君も命を操る力を持っているんだよね。封命という言葉や、元の秩序から考えるとそう思うんだ」
「そうだな。このガキが言った通り、私は命を封じることができる」
「誰がガキだッ!!我はとっくに成人しているわ」
ガキと呼ばれたことで、怒り叫ぶブラック。いちいちこういうのには、反応してしまうのが彼なのだろう。
戦闘時やいつもの冷静さはどこへいったのか。いや、これが平常なのか。
「私の目に狂いがなければ、お前は女の高校生にしか見えないが」
「ッ!はぁ、麗那!!我は変装せずとも良いと言っているだろうが!」
「だから、念のためにと」
麗那は静かに答える。その様子を見た封命主は口を挟む。
「変装?何だお前ら。姿を変えているのか」
「訳ありってやつ」
葉対が説明になっていない説明をする。
「フン。どうでもいいが、それで小娘、私の力と霄の能力がどうした」
「単純に似ているなぁって感じたんだ。何か関係性があるんじゃないかって思った」
「……」
(コイツ、勘が鋭いな。別に隠しているわけでもないが……。特段、言う理由にもならない)
一通り考えると、口を開いた。
「私がここで生まれたとでも思っているのか?」
「ここは、時と命の国。〝風籠〟の伝承は、知ってる?」
「伝承……?」
「そう、伝承。『時より人は生まれ、人より物語が生まれる。風がそれを世界へと蒔き、やがて再び、時が育てる』」
これほど、詩という言葉が似合う文はきっとない。時と命の国と呼ばれる所以か、それとも、だからこそなのか。
「そんなものがあったとはな。知らなかった」
「ここは、時と命を司るような国。なら、君とも関係ありそうだなって思ったんだ。ほら、君は死者を蘇生しようとした人を阻むために生まれたんでしょ?」
「多分な。明確な使命はないが、奴らから封命主と呼ばれてるのと、私の記憶を探る限り、そうだろう」
尽世はうん、と頷いた。
「なら、〝風籠〟のある人が死者蘇生をしようとした。死という理を破ろうとしたわけだね。それを止めるために君が生まれた。だから、命を封じる力を持っている」
「確かに、筋は通ってんな」
玲兜も尽世の意見に賛成のようだ。
「……私が生まれた瞬間、それは暗い空間にいた。ゆえに違うと思うぞ。あれは、俗に言う宇宙のどこかだ。なぜ、死者などとは一切関係がないように思える所で生まれたのか。そんなもの、私の知ったこっちゃないのだ」
「人の死なども、かのう?」
「……ん?何を言って────ッ?!!時雨 霄!!!」
誰も予想だにしなかっただろう。驚愕すべきことに、霄がそこにいた。
瞬間移動あるいは空間移動能力を持っていたのか。
「霄さん、どうしてここに……?」
「驚きました……」
白雪や優司がポツリと呟く。
最近は、驚いてばかりな気がしてくる。
「封命主、お主はそういう名じゃったか。あの時は教えてもらえなかったのう。だと言うのに、白雪殿たちにはあっさり教えるとは。白雪殿らの話術には参ったものじゃ」
うっすら笑ってはいるが、その目は確実に冷たかった。まるで、家族の敵を見るような。
「どうしてここに。霄」
「お主が言ったように、妾の能力は時と命を操る。〝方位の都〟と〝風籠〟は協力関係にある。そこで妾は昔、白雪殿たちに彼女らの命の変数を感知できる効力を付与した。その反応に、奇妙な変化が見えたのだ」
ただただ、冷静に霄は語る。それは、どこか機械のようだった。
「封命主よ。お主は相対する者の命をすべて手中に収めることができる。そうじゃな?」
「……そうだが」
「マジかよ……」
思わず、玲兜が言葉をこぼす。
「お主と出会った命という概念を保有する存在は、その命のサ̀イ̀ン̀が変化する。つまりじゃ。平常なときと、お主が相対したときとでは、命の在り方が変わるのじゃ。わずかでは、あるがな」
「私の力の範疇にあるものを、サインとして感知できると」
「うむ。そして、その変化の要因を探りために近くの命の変数を探ってみたのじゃ。すると、どこかで見覚えのある波長が見つかってな」
「それが私か」
側から見れば、静かな語り合いだが、その実、確かに殺意が混じっていた。
白雪たちのような一定の実力を持つ者であれば、それがヒシヒシと伝わる。
「お主の波長など、絶対に忘れもせぬ。お主が、我らが王を殺したこともッ!!!」
突然、声を荒あげ叫ぶ霄。
王を殺したとは。霄は以前言った。王は昨日、急用で出て行ったと。まさか、昨日殺されたとでも言うのか。
「しょ、霄さん……?」
恐る恐る霄の名前を言う白雪。だが、それが届くことはない。
「……万物は理から逸脱しない。逸脱すれば──」
たちまち、封命主の姿が変化し、周りの空間も変わりゆく。
夜になったのかと思わせるほどに暗くなり、深緋色の髪と枯草色の瞳が深く輝く。
服装すらも変わり、両手首には崩れたような『ℵ』の文字が浮いている。ところどころが破れた黒いドレスを身に纏い、その周りを鎖が飛び交う。
「滅ぶのみだ」
目の前にいるのは、APONo.06300 『封命主』という、人̀外̀なのだ。
続く




