表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/57

第十五話 これは、時と命の物語⑩

「「「?!」」」


 周辺の木々を枯らした封命主を見て、ブラックを除くが、皆が驚いた。牙瑜や麗那も、険しい顔をしている。ホワイトはわずかに目を見開いていた。

 やはり、霄が言っていた森の異変の原因は、彼女にあるようだ。


「……やっぱり、あなたなのね」


「その口調から察せば、どうやら、このことを知っていたのか。……おかしいな。私が情報を漏らしたこともないし、バレるような場所と範囲でしかやっていないのだが」


 深く考え込むように、封命主は視線をズラす。

 確かに、ここは森の奥深くだ。上空から見ない限り、木々が枯れていることなど知りようがない。

 なぜ、霄が知っていたのか。なにやら関係がありそうだ。


「この近くの国が〝風籠〟である事は知っているか?」


「もちろんだ。この世界にある国はすべて把握している」


「森の異変を解決して欲しいと言ったのは、そこの国王、いや、代理の国王なのだ」


「……名は何だったか。時雨 霄と言ったか」


「その通り」


 ブラックが縦に首を振る。


「あぁ、そうか。あいつの能力は【時命なる刻継(タイムライフ・クロノリンク)】という名前だったな。時と命に関わる能力だ。まさに、法則(ルール)らしい」


「時と命って、クソチートじゃねぇか」


 玲兜が声を荒あげて言った。

 その文字だけを見るなら、いや、そうでなくともチートと言われるのは仕方ないように思える。

 時、すなわち、時間と生命に関与する能力というのは、それらを操作する能力と言い換えれる。はっきり言って、反則だろう。

 時を操れるならば、時間停止という誰もが夢見るアレを可能にし、命を操れるならば、即死技も可能である。

 そんなことが、霄に可能だとは驚きだ。


「どこまで操れるかは、私も知らん」


「……封命主さん?って、呼べばいいかな」


 尽世が割り込むように話しかけた。封命主は吐き捨てるが如く答える。


「好きに呼べ。封命主でもNo.06300でもな」


「じゃあ、封命主さん。霄さんのように、君も命を操る力を持っているんだよね。封命という言葉や、元の秩序から考えるとそう思うんだ」


「そうだな。このガキが言った通り、私は命を封じることができる」


「誰がガキだッ!!我はとっくに成人しているわ」


 ガキと呼ばれたことで、怒り叫ぶブラック。いちいちこういうのには、反応してしまうのが彼なのだろう。

 戦闘時やいつもの冷静さはどこへいったのか。いや、これが平常なのか。


「私の目に狂いがなければ、お前は女の高校生にしか見えないが」


「ッ!はぁ、麗那!!我は変装せずとも良いと言っているだろうが!」


「だから、念のためにと」


 麗那は静かに答える。その様子を見た封命主は口を挟む。


「変装?何だお前ら。姿を変えているのか」


「訳ありってやつ」


 葉対が説明になっていない説明をする。


「フン。どうでもいいが、それで小娘、私の力と霄の能力がどうした」


「単純に似ているなぁって感じたんだ。何か関係性があるんじゃないかって思った」


「……」


(コイツ、勘が鋭いな。別に隠しているわけでもないが……。特段、言う理由にもならない)


 一通り考えると、口を開いた。


「私がここで生まれたとでも思っているのか?」


「ここは、時と命の国。〝風籠〟の伝承は、知ってる?」


「伝承……?」


「そう、伝承。『時より人は生まれ、人より物語が生まれる。風がそれを世界へと蒔き、やがて再び、時が育てる』」


 これほど、詩という言葉が似合う文はきっとない。時と命の国と呼ばれる所以(ゆえん)か、それとも、だからこそなのか。


「そんなものがあったとはな。知らなかった」


「ここは、時と命を司るような国。なら、君とも関係ありそうだなって思ったんだ。ほら、君は死者を蘇生しようとした人を阻むために生まれたんでしょ?」


「多分な。明確な使命はないが、奴らから封命主と呼ばれてるのと、私の記憶を探る限り、そうだろう」


 尽世はうん、と頷いた。


「なら、〝風籠〟のある人が死者蘇生をしようとした。死という理を破ろうとしたわけだね。それを止めるために君が生まれた。だから、命を封じる力を持っている」


「確かに、筋は通ってんな」


 玲兜も尽世の意見に賛成のようだ。


「……私が生まれた瞬間、それは暗い空間にいた。ゆえに違うと思うぞ。あれは、俗に言う宇宙のどこかだ。なぜ、死者などとは一切関係がないように思える所で生まれたのか。そんなもの、私の知ったこっちゃないのだ」


「人の死なども、かのう?」


「……ん?何を言って────ッ?!!時雨 霄!!!」


 誰も予想だにしなかっただろう。驚愕すべきことに、霄がそこにいた。

 瞬間移動(テレポート)あるいは空間移動(ワープ)能力を持っていたのか。


「霄さん、どうしてここに……?」


「驚きました……」


 白雪や優司がポツリと呟く。

 最近は、驚いてばかりな気がしてくる。


「封命主、お主はそういう名じゃったか。あの時は教えてもらえなかったのう。だと言うのに、白雪殿たちにはあっさり教えるとは。白雪殿らの話術には参ったものじゃ」


 うっすら笑ってはいるが、その目は確実に冷たかった。まるで、家族の(かたき)を見るような。


「どうしてここに。霄」


「お主が言ったように、妾の能力は時と命を操る。〝方位の都〟と〝風籠〟は協力関係にある。そこで妾は昔、白雪殿たちに彼女らの命の変数を感知できる効力を付与した。その反応に、奇妙な変化が見えたのだ」


 ただただ、冷静に霄は語る。それは、どこか機械のようだった。


「封命主よ。お主は相対する者の命をすべて手中に収めることができる。そうじゃな?」


「……そうだが」


「マジかよ……」


 思わず、玲兜が言葉をこぼす。


「お主と出会った命という概念を保有する存在は、その命のサ̀イ̀ン̀が変化する。つまりじゃ。平常なときと、お主が相対したときとでは、命の()り方が変わるのじゃ。わずかでは、あるがな」


「私の力の範疇(はんちゅう)にあるものを、サインとして感知できると」


「うむ。そして、その変化の要因を探りために近くの命の変数を探ってみたのじゃ。すると、どこかで見覚えのある波長が見つかってな」


「それが私か」


 側から見れば、静かな語り合いだが、その実、確かに殺意が混じっていた。

 白雪たちのような一定の実力を持つ者であれば、それがヒシヒシと伝わる。


「お主の波長など、絶対に忘れもせぬ。お主が、我らが王を殺したこともッ!!!」


 突然、声を荒あげ叫ぶ霄。

 王を殺したとは。霄は以前言った。王は昨日、急用で出て行ったと。まさか、昨日殺されたとでも言うのか。


「しょ、霄さん……?」


 恐る恐る霄の名前を言う白雪。だが、それが届くことはない。


「……万物は理から逸脱しない。逸脱すれば──」


 たちまち、封命主の姿が変化し、周りの空間も変わりゆく。

 夜になったのかと思わせるほどに暗くなり、深緋色の髪と枯草色の瞳が深く輝く。

 服装すらも変わり、両手首には崩れたような『ℵ』の文字が浮いている。ところどころが破れた黒いドレスを身に纏い、その周りを鎖が飛び交う。


「滅ぶのみだ」


 目の前にいるのは、APONo.06300 『封命主』という、人̀外̀なのだ。


続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ