第十五話 これは、時と命の物語⑦
次々と料理が並んでいく。
やがて、すべての料理が並び終わり、シェフたちは去っていった。
そのタイミングを見計らったように、霄は口を開いた。
「さて、もう妾たち以外に人はおらぬのじゃ。声も聞こえることはなかろうて。ならば、国̀家̀の̀元̀首̀同̀士̀で語り合おうぞ」
「やはり、私たちが帝王だということに気づいていたのですね。霄さん」
「もちろんじゃ。白雪殿」
これで、霄にバレていることは確定事項に変わってしまった。
彼女の能力で見破られたのだろうが、その効力の詳細を白雪たちは知らない。
特別な眼を持つブラックならば、きっと分かるだろう。
「どうして、分かったんですか?麗那の【技能】を破ったとしか考えようがありませんが……」
「麗那殿の【技能】は感覚改変だったかのう。敵に回ったなら、実に厄介だったじゃろうて。だが、妾の能力も《法則技能》。対抗することは可能じゃ。お主の言う通り、妾は麗那殿の【技能】を超えたわけじゃな」
そんなことが、といった表情を浮かべる白雪。
霄とは、すなわち、〝方位の都〟と〝風籠〟という国家間での交流は何度もあったが、霄の能力を詳しくは教えてもらえなかった。
もちろん、白雪たちも黙っていたわけで、互いに秘密にしていたはずなのである。しかし、霄には麗那の能力がバレている。
ブラックのように、情報を特定できる能力なのかもしれない。
「……〝風籠〟の巫女、時雨 霄。国王に続く地位だ。そんな巫女が持つ能力それは──」
彼の眼が闇色に輝く。深い深い深淵を探るようで、世界の真理に届くまでの道筋にも見えた。
(なぜ、こうも彼が眼を光らせるとき、そのときだけ、そのときだけ時間が少し止まっているように思えるのかしら。音もなく、すべてを覗き込むような……。それに、もし彼の眼を見てしまえば、私はまたノイズに襲われる)
そんなことを思うのは白雪だけかもしれない。頭が冴える牙瑜などでも、このような気持ちは伝わらない。そのように思えて仕方がなかった。
今は食事の時間で、こんなことを思うのはおかしいのだろう。空気を考えなければ。
白雪はブラックから目を逸らす。
「《法則技能》【時命n……【風籠】か。国の名を冠した【技能】とは面白い」
「ん?…………ああ、そうじゃな。珍しい部類じゃろう。しかし、なぜ分かったのじゃ?」
ブラックが【技能】名を言い直したのか。その不自然さに霄は引っかかる。そもそも、言い直すという概念があること自体、訳が分からない。
白雪たちは気にしていないようである。
「この我の眼だ。少し特別でな。見たもの全ての情報を取得できるのだ」
「ほう。すべての情報を……」
「何か気になることでも?」
「いや、何でもないのじゃ。ところで、お主の名を聞いていなかったな。聞いても良いか?」
ブラックはわずかに目を細めて、霄を見つめた。何を思っているのか、何が言いたいのか。それらが分かるからだ。
「ふむ。ククク、偽名が必要か?」
イタズラっぽく笑い、そう言い投げる。
「フッ。本名で頼むのじゃ」
「エターナル・ブラック、旅人だ」
「ふむ。地球から来たのか?外国の名前のようじゃが」
「そうだな。ここではない、異なる国からやって来た」
ブラックが一口、フィユタージュを食べる。もうデザートに入っているとは、驚きである。
「ブラック……。珍しい名じゃ」
「そうだろうな。同じ名など、聞いた事も見た事もない」
「そこにいる、ホワイトもな」
「やっほ〜」
ブラックの隣に座っているホワイトがブラックの前の席に座っている霄に、手を振りながら挨拶をする。
「エターナル・ホワイトだよ。んー、僕も一応、旅人ってとこかな。よろしくね、霄さん」
「幾分か前から世界樹の中にいたと聞いたときは驚いたのじゃ。それにしても、同じエターナルとはな。ブラックとホワイトで対になっておる。実に面白いのう」
「僕たちの関係は特別でね」
ホワイトが霄に向かってウィンクをした。可愛らしいものだ。
「付き合っている、あるいは結婚しているわけではないのか?」
「うん。だって、ブラックがそうしてくれないんだもん」
「は?」
「フッ。仲が良いのじゃな」
「どこがだ!」
ブラックがすぐさまに否定する。本当に、素直ではない性格である。いわゆる、ツンデレなのだろうか。
「まぁ、とにかく。ブラックとは家族や親戚というわけではないけど、それが一番近しい表現かな」
「…良く分からぬな。家族ではないが、それが一番近しい?」
「もしかしたら、いずれ分かるかもしれぬ」
「……」
白雪たちのときのみたく、彼は本当に己のことを何も話さない。
一体、何がしたいのか。
「さて、そろそろ戻った方が良いだろうな」
「貴様ら、食べ終わったか?」
「なわけないでしょう?あなた、食べるの早すぎよ。まだ二十分しか経っていないわ」
「何せ、スイーツしか食べておらぬからな」
その言葉を聞いて、白雪はため息を吐く。
そんな食生活をしていて、大丈夫なのだろうか。糖尿病以外にも、栄養失調などで倒れそうであるが。
どうして、このような食生活で生きいけるのか、本当に不思議だ。
「白雪様〜」
「何?」
優司に呼ばれて、ブラックから優司の方へ体を向ける。
それから数十分か、下手をしたら一時間程度、食事を楽しんだ。
食事が終わり、白雪たちは霄に礼を述べる。
「ご馳走様です。本当にありがとうございました」
「美味しかったです!」
「玲兜様、私のデザート奪ったのやめてくださいよ」
「悪い悪い。つい美味くてな」
「ありがとうございました!霄さん」
「本日は誠に結構なお食事を賜りまして、心より御礼申し上げます」
「霄さん、美味しかったよ」
「お心づくしの料理を賜り、深く感謝申し上げます」
「本当に美味しかった〜」
白雪たちやホワイト全員が、異なるとはいえそれぞれの口で言った。
最後に、ブラックが口を開く。
「フィユタージュ。感謝しよう。夜は苺テリーヌだと尚良い」
「ふふっ。分かった。そう伝えよう」
「「こら/こーら、あなたね/ブラック」」
白雪とホワイトの言葉が重なる。
「良いのじゃ。いくら、世界樹に侵入した法律違反者であっても、魔王の脅威から護ってくれたのであろう?世界樹をめちゃくちゃにしたのは、いささかどうかと思うがな」
どうやら、
「ッ。そう言えば此奴、麗那の【技能】が通用せぬのだった」
「妾たちが修復作業に取り掛かっておる。案ずるでない」
「ありがとう。霄さん」
「ホワイト、と言ったかのう。我々は戦争が嫌いじゃ。それは、些細な争いごともじゃ。世界樹の責任は我々にある。ゆえに、何も言わずに直す」
「霄さん。それじゃあ、夕食また会いましょう」
白雪の言葉に霄は頷く。
「うむ。気をつけるのじゃぞ」
「では、行こう」
再び、あのときのように指を鳴らし姿を消す白雪たち。
霄だけが、そこに取り残されていた。
霄は自室、つまり王室に戻り、時の始祖から渡された本を開く。
始祖について良く知るために。
続く
タイトルの時と命の物語とは一体、何を意味しているのでしょうね。そして、ブラックが言いかけたアレは……。
面白いと思っていただけましたら、ブクマや評価、感想をお願いします!
では、次回またお会いしましょう!Davidでした。
追伸
出すの遅れました!!!すみません!!




