第十五話 これは、時と命の物語⑤
「ダメって、本気で言ってる?」
そろそろ本気で帰ろうかと思ってしまう。風呂にもトイレにも行けない。そんな辛い環境、耐えられるわけがない。
「全く、仕方ないな。交代で行くならば許可してやろう」
「それが普通なのよ……」
はぁ、と白雪はため息を吐く。
「今は……午前十一時過ぎか」
「え、時計見てないのに分かるの?」
驚いたように葉対が言う。ブラックは時計を着けていないし、能力が何かで時計を出現させたわけでもなかった。
「ああ。言っただろう?我のこの眼は凡ゆる情報を取得できる。それは、時間も例外ではない。時を対象に視れば良い話だ」
「はい。確かに合っています。どうやら、本当に正確な情報を知れるようですね」
牙瑜が身につけていた腕時計を確認する。相変わらず、完璧な人間だ。
「ククク。当たり前であろう?さて、十二時頃にはあの宮殿に戻る必要があるだろうな。残り、約一時間。まずは、森の中を踏査したい所だが……。一時間では不可能に近いだろうな」
そのブラックの言葉に玲兜が口を挟む。
「おいおい、ブラックさんよぉ。最近、俺らの影が薄いが、俺らって本当はすげぇやつらなんだぜ?不可能っつぅわけがねぇ」
「フッ。そうだったな。貴様らは《法則技能》保持者だ。確かに、貴重で強力な存在かもしれぬ。だが、その能力を上手く扱えていないのも事実。白雪よ。霄も《法則技能》保持者であるが、貴様らよりも強いことは明白であろう?」
白雪は悔しそうに喋る。
「……ええ。確かに、私たちが全員で戦えば勝てる程度ね」
「ある程度森を踏査したら、世界樹に戻るとしよう。《法則技能》についての書物を探す」
「最初の目的へ戻るわけだ」
尽世が言う
「なるほど。ブラックは全部説明していないんだね。この世界のことを」
ホワイトが何やら不思議なことを言うので、綾と優司はそれを聞こうと思ったが、ブラックの方が先に口を開いてしまった。
「取り敢えず、森へ進むぞ」
ブラックの言葉に全員が頷いた。
「そういえば、ブラック様。ずっと気になっていたのですが、あの──」
殺し屋はどこへ?と綾が問おうとしたとき、突然声が出なくなってしまう。
どれだけ、声をだそうとしても出ず、掠れ声がやっとである。
「どうした?綾。まさか、トイレはどこにあるって?」
「違うだろうが」
尽世のふざけた調子にツッコむ、ブラック。
綾はいまだに声が出なかったが、もう伝えるのをやめようとしたとき、やっと治った。
「いえ、何でもありません──あれ?声が……」
「たく、体調でも悪いのか?」
「え?大丈夫?綾くん」
尽世の言葉を間に受けるホワイト。これには、他の者たちが呆れる。
「いえ、本当に何でもありません」
「そっか。なら、良かった」
「進むぞ」
白雪たちはブラックの言葉に合わせて進んでいく。
綾の不可解な現象はなかったことになった。
しばらく進んでいくと、ブラックが立ち止まる。
「どうしたの?」
ホワイトが言う。
「おかしい。ここまでは小鳥や小動物の気配を感じるが、ここから先は一切存在しない」
「……危ない場所ってこと?」
「いや……」
ブラックがもう少し前に進み、前に向かって手を伸ばす。
──すると、驚いたことにただの虚空であるはずが、壁のように触れれた。
透明な壁であろうか。
「え?!」
優司は思わず叫び、言葉を続ける。
「透明な壁があるってことですか?!!」
「恐らく、そう言う類のものだろうな」
ブラックは頷いたのだった。
続く




