第一話 終わり?否、始まり
「白雪様〜、もうしませんから、ゆるしてくださいぃ」
淡い緑髪に金色の瞳。完全に日本人の容姿とはかけ離れている。
そんな彼は、理由は分からないが、なぜか正座をしていた。
そして、彼を見下ろすように立つもう一人の女性──白雪と呼ばれたその人物が、ゆっくりと口を開く。
「はぁ。あなたね、私がどれほどあの皿を大切にしていたか、知っている?それを割るなんてあり得ないわ」
はっきり切り捨てる白雪。
白い髪と白銀の瞳で、可憐な容姿をしているが、口調は厳しい。彼女が彼を正座させているのだろう。
「だから、ごめんなさいって言ってますよね!?わざとじゃないんですよ?!」
「優司、あなた、これで何回目かしら?」
「……三回目です…………」
はぁ、と再度ため息を吐かれ、ジト目で彼──優司を見る。優司は目を泳がせて、首を横に向ける。
少し静寂が続いていると、扉の音が響き、誰かが入ってきた。
「よぉ、白雪。来てやったぜ……って、何してんだ?」
高身長イケメン男子。そんな言葉が似つかわしいだろうか。
されども、俗に言う『柄が悪い』印象を受ける。赤い瞳がより一層、それを引き立たせていた。
「玲兜……今日のパーティのためのお皿を、優司に運ばせたら割ったのよ」
「あぁ、お前がよく使ってるアレか」
今日は日歴2145年二月十一日、〝方位の都〟の建国記念日だ。
クロノフィアに住む者、地球に住む者において、〝方位の都〟を知らない者はいない。なぜなら、中̀学̀生̀が̀国̀を̀治̀め̀て̀い̀る̀からだ。
そう、今いる白雪と玲兜こそが、四人居る帝王の二柱──
北の帝王 雨叉 白雪
南の帝王 永不 玲兜
である。優司は白雪直属の部下、最高幹部だ。
今日が建国記念日ゆえに、白雪はお気に入りの皿を用意して、パーティの準備をしようとしたのだろう。
「玲兜様ぁ、酷いと思いませんか?僕はわざとじゃないのに、もう一時間も正座ですよ」
「お前らマジ、無駄なことに時間使ってんな」
全くもってその通りだろう。いくらその皿に想いがあったとしても、一時間も割った相手を正座させて黙り込むのは、無意味他ならない。
おまけに今日は、建国記念日だ。時間は有限。大切にしなければならない。
「うるさいわね。あなたには分からないことよ」
「はいはい。んで、葉対たちは?」
「葉対はもう直ぐ着くって言ってたわ。尽世は花に水やりをしてるから、もう少し時間がかかるって」
白雪は優司に、もう立っていいわよ、と告げると、そこに居たメイドの一人に、ケーキを運ばせる。
「やっと立てた……あ、莉紗さん、僕も手伝うよ」
「ありがとうございます」
そうやりとりし、優司もケーキを運ぼうとする。
「優司、あなたはダメよ。また、落としたらシャレにならないもの」
「し、しませんって!!」
「……ところで、玲兜。綾はどこかしら?」
「ああ、あいつか。今、警備隊の修理をさせてるぜ」
「あなたね…………」
ジト目で白雪が呆れていると、ガチャ、と再び扉の音が聞こえる。
「やっほー」
「来たよ」
「遅れました」
「「失礼いたします」」
計五人、新たに入ってきた。雰囲気からして、先ほど言っていた葉対達だろう。
〝方位の都〟はその名の通り、方角の国だ。帝王は北、南、東、西の四人いる。国もそれぞれに分かれる。そして必ず一人、帝王は部下を連れていなければならない。
白雪が優司と共に行動しているように、玲兜達も同様に、部下と共に行動している──はずだ。
「お、綾。来たか。随分と早いな」
「ええ。貴方様方を待たせるわけにはいきませんので」
玲兜の最高幹部 和園 綾。身体のところどころが金属のようなもので覆われている。
「これで、全員揃ったな白雪」
「ええ。では、パーティを始めましょうか」
「お、やったー。僕、白雪のとこのケーキ好きなんだよねー」
全員が席に着く。
西の帝王 視反 葉対。左髪が栗色で、右髪が薄緑のハーフカラーの髪に、ディープグリーンの瞳。他とは異なった美しさがある。
その最高幹部たる夜狗 牙瑜。白髪に黒いメッシュ、深淵を見通すような黒い瞳。その服装は執事のようだった。
東の帝王 亜覇理 尽世。白髪のショートヘアで、玲兜とはまた違う、紅い瞳をしていた。
最後に、尽世の最高幹部である詞演妄 麗那。白雪とは別の物静かさで、微笑みを浮かべていた。その髪は青銀で、瞳は深い蒼である。
これにて、四人の帝王とその最高幹部が全員集った。白雪がティーカップを手に取り、前に掲げる。
中学生なので、中身は無論、ジュースや紅茶、コーヒーなどのお酒ではないものだ。
「では、建国を記念して……乾杯」
「「「乾杯!!」」」
一斉に乾杯の声をあげ、食事や雑談などをする。
優司や葉対など、中学生らしい人物も勿論いるのだが、それでいて根本は中学生らしくない。その作法もそうであるが、帝王、すなわち国を治めているという事実こそが、彼らが子どもであることを捻じ曲げていた。
なぜ、中学生にして国を治めることになり、なぜ、治められるのか。それはきっと、彼らが《法則技能》を保有しているからだ。
「どうしたの、優司。そんなにそわそわして」
「えっと、あの、白雪様……先ほどはすみませんでした」
「もういいわよ。私も過剰に反応したわ。ごめんなさいね」
「白雪様っ!」
うるうると涙を浮かべる優司。
「ほら、そこ。いちいちイチャつくな」
そのさまを見て、玲兜がすかさず言い放つ。
「そんな、玲兜様。僕が白雪様の彼氏だっていいたいんですか?…………いい」
ボソッと、小さく呟く。優司は特段、白雪に恋愛感情を抱いているわけではない。だが、思春期真っ只中の男子中学生で、白雪のような容姿端麗な同̀級̀生̀がいるのだから、『いい』と思うのも仕方ないのかもしれない。
男子は可愛い女子が好きなのだ。
しかし、白雪はすぐさま否定する。
「あなたたち、殺すわよ」
流石、北を司っている、というのは皮肉だろうか。三人の空気が凍る。というより、実際凍っているかもしれない。
白雪の周りから冷気が滲み出ていて、冷たさが伝わってくる。このさまを見て、彼女らが帝王などとはにわかに、否、大いに信じられない。されども、事実だ。この冷気も、彼女の【技能】なのだろう。
普段は余裕を保っている玲兜も、少し焦っていた。
「おいおい、ちょ待てよ、白雪さん。冗談だっての」
「すみません!白雪様。僕如きが彼氏などと畏れ多いことを」
白雪は黙って食事をする。
「あちゃー、こりゃ、マジで怒ってんな」
「静かに怒る白雪様も、素敵なのは変わりませんけどね」
「お前な……。そういうこと言うから、ああなるんだぜ」
「それは玲兜様もです」
「一時間も正座させられたやつには言われたくねぇよ」
「うっ」
バツが悪そうに俯く。
「ああ、そうだ。葉対」
「ん?どした?」
今まで、綾や牙瑜と話していた葉対が、玲兜達の方へ顔を向ける。
「私企業が主催のイベントはどうなってるんだ?」
「ああ、DL社主催の〈建国記念会〉だっけ」
株式会社Direction Love、通称DL社。〝方位の都〟が建国二年目に誕生したツアー会社だ。その名の通り、〝方位の都〟をこよなく愛しており、主軸は旅行事業だったが、グッズ制作や特産品を使った食品製造など、多岐にわたって事業を展開している。
玲兜のような俗に言うチャラい帝王は記憶にないのだろうが、DL社は政府(帝王)公認であり、その協力もあって公式グッズ等の独占販売などが可能となっている。もはや、私企業ではなくなっている。
〈建国記念会〉はそんなDL社の初めての試みであり、他社や帝王の部下達もスポンサーとして付き、大規模なイベントとなる。
具体的には、国民に参加を呼びかけ、班でまとまって森や川などに行き、食材を採取し、それを調理して食べる。
参加人数が総勢約二千人という、DL社が予想していたように、非常に大規模となった。
理由の一つとして、〝方位の都〟は特産物が多いからだろう。
ここでしか取れない食材が豊富で、それが実に絶品であるため、それを目当てに参加する人が増える、というわけだ。
「そう、それだ。上手くいってんのか?」
「うん。順調みたいだね。食材調達も、一班につき、最低でも一人は採取家がいるし、安全だよ」
採取家は、食材が可食なのか否かを判断する能力だけでなく、少なくとも《強力技能》あるいは《強力技法》を取得している。
危険な状況になることはほぼないと言えるだろう。
「だといいな」
「もしかして、心配してるの?」
葉対は笑みを浮かべる。
「食材調達とやらの範囲は、〝方位の都〟の森と山、全域だろ?登山が危ないだとか、熊や川が危ないだとかってわけじゃねぇ。白雪の領域、〝北の帝〟はア̀レ̀があるだろ」
「アレ……?あっ、ア̀レ̀ね。それを心配したってしょうがないよ。第一、アレの封印が解けるには、僕ら帝王の【技能】が必要不可欠だ。解けるわけがない」
「わぁってるよ……しっかしなぁ。一般人がアレに近くのは避けるべきだと思うんだが」
「そう心配しないでよ。解けることはないんだから。それと、政府以外は存在も知らないでしょ?」
「ま、そうだな」
心配ごとの九割は起こらない、と誰かが言った。今は残りの一割を引かないことを祈ろう。
続く
こんにちは!Davidです。すぐに一話の続きを出すので、ブックマーク、評価をして待っていてください!お願いします。
え?タグに異世界転生とか書いてあるのに、してねぇって?フォアシャドウィングってやつですよ。ちゃんと、要素あるんでご心配なく!!!