僕が貧乏だったころ
ぼくが貧しかった時代の話
仕事もうまくいかず、妻や子どもに心配をかけながら、日雇いの仕事なんかでなんとか食いつないでた。もう10年以上前の話になる。
類は友を呼ぶというのか、関係を持った女性もみんな、それぞれにハードな生い立ちや人生を背負っていた。
そんな中でも、ほんの少しだけ心が触れ合って、長く付き合うようになった女性がいる。
そのまま、彼女の名前は「美沙ちゃん」としておこう。
出会った当時、彼女は23歳くらいだったと思う。
幼稚園に通う娘が2人いるシングルマザーで、ぼくより12歳年下。
出会いは出会い系サイトで、いわゆる“援助交際”の投稿だった。
子どもがいない間に、家で男と会って売春。まあ、まともな女じゃないと言われれば、それまで。
でも、顔がほんと綺麗で可愛かった。
150cm弱の小柄で、綺麗なお尻。化粧はケバい元ヤン系。
ただ、たまにすっぴんで会うと一気に幼く見える。そのギャップがたまらなかった。

自宅に呼ばれたこともあったけど、部屋は驚くほど整ってて、子どもの学習教材や賞状、おもちゃなんかがきちんと並べられてた。
子どもを大事にしてるんだなって、伝わってきた。
美沙ちゃんはオープンな人で、家族や子どもの悩みごとを、友だちに話すみたいにぼくにも打ち明けてくれた。
売春の客でも、親戚のおじさんでもない、なんか不思議な距離感で頼られてた。
お金を払うときは、いつも理由があった。
「電気が止まりそう」とか「学校の納付金が払えん」とか。
逆に、たまに「やりたいだけ」って連絡があったときは、お金を受け取らないこともあった。
結局、付き合いは10年以上続いた。
身体じゃなくて、心の相性が良かったんだと思う。
その関係の中で、今でも忘れられない出来事がひとつある。
⸻
知り合って5年くらい経った夏の、暑い日。
久しぶりに美沙ちゃんから連絡が来た。
「明日の午後、2〜3時間、時間もらえんかな?」
ちょうどその頃、ぼくはようやく生活を立て直しつつあって、買春にもあまり興味が持てなくなっていた。
「いいけど金ないよ〜」とだけ返すと、彼女からこう返ってきた。
「違う、弟が警察に捕まって、面会行かないかんと」
美沙ちゃんは5人兄弟の長女。自分も覚醒剤で逮捕歴がある。
弟2人はヤクザ、残りの弟と妹は真面目にやってるらしい。
「誰かが行かないかんけど、家族みんな“あんなバカとは縁を切る”って言いよる。私も行きたくないけど、長女やし、そういうわけにはいかんやろ?」
ぼくは「組の誰かに頼めば?」って言ったけど、どうやら暴力団はクビになって、フラフラしてたらしい。
今回の容疑は、印紙偽造による詐欺だった。
⸻
翌日、彼女のアパート近くで待ち合わせ。
面会まで1時間くらいあるってことで、まずはセブンイレブンで差し入れの買い出し。
下着を3セットに、お菓子なんかもカゴに入れる。
「ヤクザでも、可愛い弟なんやねえ」って、ちょっとほのぼのした気持ちになった。
でもまあ、そんなもんをスーパーじゃなくコンビニで買うあたり、やっぱり貧乏になるよなあ、とも思った。
結局、ぼくが5千円弱を払って、南警察署へ。
ぼくは駐車場で待機してたけど、40分くらいして美沙ちゃんが戻ってきた。
めちゃくちゃ機嫌が悪くて、なんも関係ないぼくの車まで蹴り飛ばしそうな勢い。
「早く出して!」と、元ヤン特有のドスの効いた声で言われて、慌てて南警察署をあとにした。
⸻
車で出発するなり、美沙ちゃんが言った。
「自分やりたいっちゃろ? パチンコ屋の駐車場でも行こうよ」
「いや、今日は別にせんでもいいかな〜」とぼく。
「じゃあ、触らんでいいけん。とにかく挿れて。挿れるだけでいいけん」
そう言われて、パチンコ屋の駐車場で彼女のズボンとパンツを下ろした。
立体駐車場とはいえ、まだ真夏の真っ昼間。
明るい場所で裸の真っ白な下半身は、なんか新鮮というかまあいいものだった。
美沙ちゃんのそこは、ぐしょぐしょに濡れてた。
ただ、その日は匂いがきつかった。今までに感じたことのない、強烈な匂い。
女性器の匂いを海の匂いと喩える人がいる。
海の匂いは、アミノ酸が腐敗した匂いだと聞いたことがある。
海の濃い匂いに、アンモニア臭を混ぜたような匂いが浮き上がっていた。
それでも、それだからか、興奮してすぐに挿入した。
美沙ちゃんも、いつもより興奮してた。
そういえば思い出したが、美沙ちゃんはいつも深く挿入するのを嫌がる。
「あんたのデカいけん、あんま奥まで入れんで! 痛い!」
正直言って、ぼくのチンポはデカくない。
その反応は、ぼくの潜在的な加虐嗜好を満たした。
しかし怒られたくないので、亀頭1個から2個分のストロークに留めるのが常だった。反応がとてもとても可愛らしいので。
詳細はあんまり覚えてないけど、とにかく「臭かった」ってことと、汁で車のシートが汚れないか、そればっかり気になってた。
で、ぼくがいつもより早めに限界を迎えて、彼女に伝えると──
「なんでいつもいつも早いと! わたしまだイッてないんよ! 我慢しいよ!」って、なじられた。
でも、結局撃沈。
そそくさと立ち去る準備をしてると──
「早いんなら2回しいよ…」って、ボソっと吐き捨てられた。
⸻
その日の夕方、美沙ちゃんから長文LINEが届いた。
行為中の暴言は本心じゃなかったって、丁寧で重々な謝罪。
弟の悪口と、車と差し入れへのお礼。
⸻
今まで、彼女と比べたら平坦な人生を過ごしてきた自分にとって、
その日の経験はとても処理できるものじゃなかったのだろう。
帰宅後、ぼくは夕食も摂らず、泥のように眠った。
彼女の、愛する家族への怒り、失望、諦め、それでも残したかった希望。
それらすべてを性欲に昇華させて、暴力的に性を貪る。
でも、そのあとの反省の言葉は、取り繕ったようには見えなかった。
美沙という女性の、また別の魅力を見たような気がした。
……今でも整理はつかない