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ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜始まりのプリンシオ〜
9/33

9頁 魔法使いの休暇

 学院に来て一週間を迎えた私。学院にも生徒達にも少しづつ馴染んできた。

そんな馴染んできた記念を楽しんだ私は、変な夢を見たのでした。

そしてまた時間は流れる。


 

 時の流れは無情にも早く、臨時教師として学院に来てからもう3ヶ月が経ち、空模様は毎日毎夜、粉雪が降り続くようになってきていた。

 

 最近プリンシオ周辺で魔物が連鎖的に発生し、国外の魔法使いも魔物討伐に参加しており、いろいろな国の魔法使いが、このプリンシオに滞在している。

 

 魔物は魔力溜まりと呼ばれている謎の物体から発生し、そこから生まれる魔物は、生まれた瞬間から体を構成する魔力が失われる為、魔力を体内に宿す人間を見境なく襲うようになる、というのが今の世界での魔物に対しての共通の認識である。

 

 では、その元凶である魔力溜まりとは何なのかというと、それは世界に

      

     コンコン


 「先生!いらっしゃいますか?」


 学院の生徒達にも、ましてやシスタンに宿の場所など、話した覚えはないのだが、聞こえてくる声は確かにシスタンのものだ。

 

 学院には冬の時期に短い休暇があり、その期間をホリデーとして、家族や友人で過ごすという習わしがある。私の故郷もそうだった。魔物が発生したのならば休む暇なんてないが、一年の中で数少ない纏まった休暇である。もちろんそれは王族にも言えることのはずだ。


 では何故シスタンがここにいるのか、そんなのわからないけれども、毎度の如く嫌な予感はしている。

私は火のついた炉から離れ、掛けてあった外套を羽織り、扉を開く。

  

 「おはようございます、シスタン」 


  「ブルハ……先生?」


 シスタンは何かがおかしいという表情で、私の顔を眺めている。私の顔に何か付いているのだろうか、それともこのボサボサすぎる髪が気になっているのだろうか……髪……


 「あぁ、ごめんなさいシスタン。これが本当の私の姿なんです」

  

 「――――とっても似合ってます!ブルハ先生!」


 やはり、このシスタン・レンティスという少女は、色んな意味で私の想像を超えてくる。シスタンからしてみればこの世界に根付く常識なんて関係ないのだろうか。

――私は色んな意味でシスタンに感謝を伝える必要があるのかもしれない。


 「ありが……」


 「ブルハ先生!デートに行きましょう!」


――――前言撤回。


 経緯なんて存在しない始まり方。何故か急かされるように支度をされられ、またいつものように腕を掴まれて街中に引っ張り出される。学院ではいちいちシスタンを呼ぶ声はないのだが、いざ街中にシスタンと出てみると、シスタンを呼ぶ声がそこかしこから聞こえてくる。


 シスタンは人当たりがよく、それに加え太陽のように明るく愉快な人間性をしている。そしてシスタンはプリンシオの王女様だ。まぁ国民から好かれていて当然なのかもしれない。

 

 いろいろと街中にある商店を巡り、シスタンに連れられあるお店に入っていく。入ったお店は服屋で、かっこいい外套や、かわいい洋服などが陳列しているが、シスタンが普段から来ることがあるのか、お値段がとても高い。


 楽しそうに服を見て回るシスタンとは対照的に私は選んでいるふりをしながら、店内をチビチビ歩くことしかできない。まぁ、せっかく王女様が城から出て自由に楽しんでいるんだ、私よりも、シスタンが楽しければ私もそれで満足だ。

 そんな楽しそうなシスタンに私は呼ばれ、試着室の方に向かう。

 

 「今から見せる二つの服装で、どちらがブルハ先生の好みか教えてください!」


 そう言ってシスタンは試着室のカーテンの奥に消えていく。

一着目は、スカートの付いた可愛いガーリー系の服装でとてもよく似合っている。

二着目は私が着ているようなシンブルな外套に、明るめのインナーを組み合わせたような服装だった。

 

 どちらが私の好みなのか、と聞かれているのだが、私は自身の服装ですら特にこだわりもないので、好みなんて無い、というのが今のところの正直な気持ちなのだが、それと同じように一着目の服装は私の好みかは分からないが、とてもシスタンに似合っている、というのが正直な気持ちだ。

 

 「一つ目の服装の方が、シスタンによく似合ていると思いますよ」


 二着目の服装を着ていたシスタンは、私が言ったことを聞くとすぐにカーテンの奥に消えていき、またすぐに出てくる。

 

 「これですね!ブルハ先生!」


 そう言いながらシスタンは、一着目のガーリー系の服装でカーテンから出てくる。その後シスタンは、その服を買ったのだが、元着ていた服装に着替えるとどこからともなく現れたメイド服を着た女性に服を預けてしまった。てっきりこの場で着ていくために買ったのかと思っていた。一応は王女様なのだから決められた服装というものがあるのだろうか。何はともあれ、シスタンは満足そうにしているので良しだ。

 

 いろいろと歩き巡っていると、次第に昼になっていく。昼食をとるためにとシスタンに連れてこられた先は、私がよく来るような一般的なレストランだった。


 「シスタン、ここでいいんですか?」


 「普段食べることのできないお味なんですよ!いいに決まってますよ!」

  

  普段から良いものをたくさん食べているであろうシスタンにとっては、一般的な味というのは珍しいのだろう。私も特に異論はないので、レストランに入ることにした。

  

 店内には、普段よりも客が多くおり、その中には学院の生徒達もちらほらと見受けられる。テーブルに案内してくれたお姉さんは、シスタンの顔を見るや否や、凄いびっくりしていた。まぁ、そういう反応にもなるだろう。

  

 席につきシスタンにメニューに載っている料理のことを教えながら、何を頼もうか考えていると、奥の方のテーブルから怒鳴り声が聞こえる。


 「俺達魔法使いは、命を懸けてお前たちを守ってやってんだ!こんな飯くらいただで食わせろってんだ!」

 

 極々少数だが、あんな風に魔法使いだけが偉いと勘違いしているバカもこの世界には存在する。ああいうバカには関わらないのが一番ではあるのだが、私の隣の王女様はというと、今にも飛び出してしまいそうな感じで、声の方向を見ている。王女様に出て行かれるのは、多分流石に面倒なことになるので、何とかシスタンを落ち着かせようと説得する。だが男の声の勢いは徐々に増していく一歩で、同様にシスタンも説得どころじゃなくなってきた。

 

 「(ゴクン)こんな飯くらい……やと?」

 

  そんな時、男の近くの席の方で白髪の少女が声を上げる。


 「誰だてめぇ」

 

 男は席に座ったままの白髪の少女の方に向かい、少女に触れようとする。男の手が少女に触れるより早く少女の腕が、男の方に伸びたかと思うと男は不自然に足元から崩れ落ちていく。


 それはあまりにも一瞬の出来事で、その場にいた誰もがその光景に唖然となって静まり返る。前にも少し話したが、男魔法使い(厳密には男性だが)には、身体的なアドバンテージがある。それは私があの小屋での一件を話せない理由の一つでもあり、普通は魔法の介入なしでは、女魔法使いに勝ち目はない。勝てるとするならば理由は、ほぼ一つ。


 「ブルハ先生、あの方のお顔が少し見えたのですが、もしかしてあの方、ルメ様ではないですか?」


 「えっと……ご存じなんですか?」


 私はあまり世情というか、他の魔法使いについてあまり詳しくない。過去の英傑達に関しては、ある程度学んだので知っているが、現代の有力な魔法使いなんていうのは、ほとんど知らない。まぁおそらくは、国外から来た魔法使いの一人だろう。


 「エルシアドールの魔法使いですよ!あたしご挨拶に行ってきます!」


 ちょっと、という暇なく駆け出していくシスタン。なんというか、本当に気のままというか、一直線というか……まぁ相手に失礼になるようなことはしないだろう。


 あのルメという白髪の少女がエルシアドールの魔法使いだというならば、あの不思議な強さも納得だ。エルシアドールの魔法使いは、魔力を介する魔法で戦うのではなく、剣や槍のような武器のような魔法媒体を持ち、己の体を使って魔物と戦う魔法使いだ。

 

 その理由は、エルシアドールという国に属す、もしくはそこで研鑚を積む魔法使いのほとんどが魔力に恵まれなかった者であるから。特殊な魔法媒体を持ち、己の体で魔物と対峙する必要がある為、他の魔法使いと比べると、理不尽くらいに対人戦は強い。いや、本来は対人なんて起こりえないのだが、今回のような例も存在する。


 向こうのテーブルから戻ってきたシスタンは、目を輝かせながらルメという魔法使いについて語ってくる。ルメ様とやらと話せたことが相当に嬉しいのか、30分程ご飯を食べながら語られた。その後もやっと落ち着いたかと思えば、次は料理の味に関して語られ、食事の時間は終わっていった。

 

 レストランを出た後も色々とぶらぶらしていると、次第に空も暗くなっていき、シスタンを見送るために学院に向かい、そこで別れた。去り際に『また明日も会いましょうね』なんて言われ、それっぽく返事をしたのだが、本当に明日もデートするのだろうか。

多分言いたいだけだろう。……多分。


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