表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜始まりのプリンシオ〜
6/33

6頁 魔法使いの名は

 オカシクなった私は、学長の言葉を聞いて、その学長に杖を構える。

その後、私はある決断を下しその場を後にした。



 素晴らし目覚めである。まるで昨日に起こった出来事のすべてが、夢であり目覚めれば、良いことも悪いこともすべて忘れている、そんな素晴らしいめざ……

   

      ぐうううううううううう

  

 私は目覚め、ベッドから起き上がろうとするのと同時に、体がエネルギーを求めて鳴き始める。昨日はあの出来事の後、さすがに限界過ぎた為、宿に着いた後すぐに鍵を受け取り、部屋に入るや否や、ベッドに倒れ込むように眠ってしまった。


 お腹は空くし、倒れるように眠ってしまったせいで、風呂にも入れずすごく不潔であり、それに加えて今日は朝から用事もある。やはり全くもって素晴らしい目覚めではない。

  

 兎にも角にも、ぐーたらしている時間はなので、まずはパッパッと風呂に入って、魔力の流れをキレイにしておこう。魔法使いは、常に体を清潔にしておかなくてはならない。汚れてしまっていると、少しでも魔力の流れが悪くなってしまう。魔力の流れが悪くなると、判りやすく魔法の出力が低下してしまう。まぁ、単純に考えても不潔より清潔の方がいいに決まっている。 

 

 忙しい朝だとしても、少しだけでもバスタブに入ることは私の決め事だ。お風呂あがりの体をタオルで拭き、体の柔らかい今の状態で伸びをする。これもとっても気持ちがよいのでお勧めだ。その後、火魔法と風魔法を組み合わせた温風で、短くなった髪の毛を乾かしていく。だいぶ短くなったので乾かすのもだいぶ楽になった。

  

 替えのインナーに着替え、一張羅の外套を羽織る。

一張羅の外套は穢れに強い守り付きであり、魔法学院の入学祝にと、親か貰ったものだが、恥ずかしげもなく今も着ている。


 私は宿の外にでで約束の場所に向かう。お腹も空いているので道中でたまたま見かけたパン屋に入り、小さいころからの好きなものであるバケットを買い、歩きながらむしって食う。

このなかなかに食べ心地のある硬い食感がたまらない。案内された約束の場所へと近づくにつれて、同じような服を着た若い少年少女が多くなってきている。


 「というか珍しいですね、アナログな案内だなんて」


 約束の場所への案内にと、昨日渡された紙切れを部屋で見たことを思い出し、ポケットから紙切れを取り出す。今時というか、何事においても魔法で塗り固められている世界故に、アナログは物珍しさを感じる。

そんなこんなで歩き続けていると、街並みを行く人々の比率は変わっていき、同じような服を着た子達がほとんどを占めている。

  

 たしか……地図の案内によると、目的地はもう目と鼻の先だ。バケットの最後の一切れを口に入れ飲み込む。 

私の目的地であり、同じ服を着た子達が入っていくのは魔法学院だった。校門の看板には【第一魔法学院クレセール】と書いてある。私は当然ここの生徒ではないので、門をくぐることはできない。ので、私は校門の傍に立っている人物、学院の校長先生に挨拶する。 

  

 「おはようございます、学長先生」


  私があいさつしたこの学長は、昨日私を誘拐した張本人だ。

  では何故、私はまたこの男と会っているのか。

  昨日の出来事の続きはというと、こうだ。

 

 「君に魔証を発行しよう!ただその代わりに、やってもらいたい事がある」


 私は学長に向けて構えていた杖を下ろし、消えた”ヒノト”をもう一度灯す。

学長の方に振り返った私は、気づくと学長の方に向かっていた。学長の言う事を信じていいのなら、その提案は見過ごす事のできない。この国に入る際にも、私は魔証を持っておらず止められ、この男に助けられた挙句、誘拐され、あのざまだった。もしかすると、プリンシオに入れただけでもマシだったのかもしれない。

 

 普通の魔法使いであろうとするならば、基本的には学院の卒業が絶対条件だが、もう一つだけ魔証を授かることのできる方法はある。

正式に魔証を授かることのできるもう一つの方法は、魔物討伐やその他の特殊事例において、国のお偉いさんに認められる。雑な説明ではあるが、要は自分に秘められた類まれなる才能を見せつければいい、そんな強引な話だ。

 

 私は、魔証を得る方法の残り一つである、何かしらの特殊事例で国のお偉いさんに認められ、魔証を授かることができる、という機会が巡ってきたというわけだ。私はその提案を当然了承すると、学長に地図だと言われ紙切れを受け取るり、明日ここに来て欲しいと言われる。その後、宿の手配やら傷の治療してくれる診療所の紹介を学長に「お願い」すると、学長は二つ返事でいいですよ、と言い、用意してくれた。

 

 そしてこの今に至る、という訳だ。

  

 「よく来てくれた!待っておったぞ」


学長は大手を広げて私を迎える。学長はこんなにも歓迎してくれているが、昨日のことは忘れたわけなんかじゃない。いち魔法学院の学長ともあろう者が犯罪まがいな事をしたのだ、説明くらいしてもらわなくてはならない。

別に謝罪を求めているわけではないのだ、下手したらそれ以上の事を私がしそうになっていたから。説明を求める私に返ってきたのは謝罪三割ふざけ七割も返答だった。


 「なに、昨日も言ったが、郊外であの謎の大規模魔法を目視し、急いでその方向の城門で待っていると、頬に魔力の帯びた切り傷がある君を見つけた。

――もし怖い思いをさせていたら申し訳ない」 

 

 ……何も説明になっていない。この学長はあのレベルの魔法を使える者を見つけたら毎回誘拐でもしているのだろうか。努力のし過ぎでどこかがおかしくなってしまったのだろうか。それとも学院の校長はみんな同じような人なんだろうか。


 「もう二度と、誰であれ誘拐なんてしないでくださいね」

                      

 「本当に申し訳なかった」


そう謝る学長は、コホンと、息をすると学院に案内するよと、私の先を歩き学院の門をくぐる。学院の敷地は故郷と比較すると、とても広く校舎も大きい。そして生徒の数も結構多い気がする。


――気のせいかもしれないが周りの生徒達がすごく私を見ている気がする。単純に同い年くらいの奴が、制服を着ずに学長と並んで歩いているのだから、注目されるのはしかたないし、もしかしたら注目の的は私ではなく、学長なのかもしれないし。


 けれども注目の的は私だったらしい。学長と共に職員室に入ると、先に入った学長に職員の皆が挨拶をするが、後から入ってきた私に対して教師陣の視線が集まる。それ自体は当たり前の事だろうが、注目されている確かな原因が私にはあった。

  

 「校長先生、そちらの髪の短い女性はどなたですか?」


 この職員室にいる女性、そしてここに来るまでに見かけた女の子の生徒たちは、皆例外はなく長髪のヘアスタイルであり学長に質問している教師も長髪だ。それに比べて私はあの一件で短髪になっている。注目されている原因はそれだ。


 学長は落ち着いた様子で、私のことを過大評価するような話し方で教師陣に説明するが、この世界に根付いている常識というのは、簡単には揺らぐことはない。記録されている過去の有力な魔法使いは、その殆どが長髪であり、それに加え、この世界において魔力を量る方法というのは、女魔法使いの場合に限り髪の長さではかられる。

  

 魔力の最大量は前提として個人差がある。魔力は血管に流れる血のように体に巡るものであり、その体という範囲には髪も含まれ、魔力が流れる場所が増えればそれに伴って魔力も増加していく。理論上、髪が長ければ長いほど魔力の最大量は増える。が、魔力が万が一にも体という器より増えてしまうと、体の方が魔力に耐えられなくなり、死んでしまう。厳密にいうと爆散する。ドカーンである。

  

 男魔法使いの場合、潜在能力の高さであったり、身体的な優位がある為、髪によって魔力が増えることはない。けれど、魔力の最大量や潜在能力、それらは男や女に関係なく生まれた時に備わる才能が一番大きく影響する。


 『まぁ、とりあえず短くなければ満足してくれるのだろう』


 私は喧騒の中で体全体に意識を巡らせるために深く集中する。体全体に意識を巡らせ魔力を髪に集中させる。すると髪がどんどんと伸びてくる、なんていう訳はないが、魔力で疑似的に髪のようなものを作り、体の一部とする。一本一本作り出しているのではなく、疑似的な髪の束を髪に張り付けているようにイメージだ。この方法で伸ばした髪では魔力が増えることはなく、むしろ減っているくらいだ。

――まぁこれくらいは別に。

  

 「これでどうでしょうか?ご満足頂けますか」


 異様な光景を目の当たりにしたかのように、教師陣は驚きの表情というより異物を見るような目で私を見る。ちらっと隣にいる学長を見てみると、何故だか目を輝かせながら私を見ている。そんな学長においっ、と肘を入れる。本来の目的を思い出した学長はコホン、と息をすると私がここにいる理由を教師陣に説明しだす。ここに至るまでに私は何をするのか聞かされていなかったが、流石に察する。

  

 「この魔法使いを、臨時教員として我が学院で教師を務めさせる」

 

 教師陣はまだ嫌そうな顔をしているが、学長のその言葉に同意する。

臨時、というのはいつまでの期間を指すのか分からないが、役目を全うすれば約束の魔証が手に入るというわけだ。

 

 時間にして9時ごろ、教師陣への私の紹介は終わり所教師として担当する教室に向かう。この世界の主流は魔法学院なので生徒の数も多い。一クラスおよそ32人、10クラスほどある。クラス分けはランダムではなく、大まかな適正で分けられている。 


大きく攻撃魔法、そして補助魔法の二つ。私の担当は一年生であり、二年生以上はより細かくクラスが分けられていく。クラス札のついた扉を何個か通り過ぎ、私の担当するクラスの前まで来る。

  

 扉を開け入っていくこの教室の先生の後に続き、私は教室に入る。  

教室内に誰だ誰だと、ぱっとみ転入生の私に対する声が、そこかしこから聞こえてくる。隣にいる先生が私に挨拶をしろと目配せをしてくるので、私は教壇に立ち自己紹介をする。  

  

 「ブルハ・レクエルド。短い期間ではありますが魔法実技であなた方の教師をさせていただきます」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ