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ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜始まりのプリンシオ〜
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5頁 魔法使いは何難目?

 急に現れた魔物相手に、髪の毛を捧げ勝利した私は短髪になり、その姿で隣国に向かう歩を進めるのだった。


 激しすぎる嵐のような一日は、まだまだ始まったばかり。太陽では未だに頭上で輝き、月は薄く空に丸をかいて浮かんでいる。虚ろな目で空を見上げ、私は歩く。そんな目に映るのは隣国ではなく、整備された道の横にある農場だった。農場の中は、豊かに実っている小麦色の何かの作物があり、農家の人以外にもゴーレムがおり、ゴーレムはその豊かに実りきった作物を収穫している。

農場の端の方には小さな倉庫があった。農場の横を通り抜ける際に、穀物のほのかな匂いが鼻をくすぐる。


 長い長い旅路の果てに、ようやくたどり着いたのは、隣国【プリンシオ】

この国を治めている国王は、第一大戦で一番の戦果を挙げたとされるレンティス家の子孫。名前は……ま、まぁとにかく、この国の魔法教育レベルは高いらしく、魔物討伐者や新たな魔法を開発した者達がプリンシオ出身だと聞くことが多い。

まぁ、私の故郷と一番近いから情報がよく入るだけかもしれないが。


 この国には魔法学院と、魔術学院の両方が存在する。魔術学院とは、魔法学院と違い、魔法の研究を第一にする学術院である。けれども、偉大なる魔法使いを至上の目標としている点に関しては同じである。魔法を使い魔物を討伐するために魔法使いを目指すのと違い、新しい魔法、そして太古の時代の魔法を現代で再現することを目指している。

   

 「おい、とまれ」


 気が付くと検問が私の番に来ていようで、門番に止められる。国に入るためには、自らが正式な魔法使いであることを証明する【魔証】を提示する必要がある。


 魔証とは、魔法学院を卒業する際に十分な成績とその実績を認めるものとして貰えるもの。他にも魔証をもらう方法はあるのだが、もっていないと野良の魔法使いとして国に入ることはできない。

かくいう私も、学院を2年で中退してるので、当然そんなものは持っていないわけである…………どうしようか…… 

  

 「郊外で怪我をしてしまって治療だけ、させてもらえないでしょうか」

 

 忘れていた頬の怪我を指差し、どうにか交渉をしてみる。それでも尚,ダメだ!と言い張る門番に対して、穴の開いた外套から傷を見せようと、インナーを少し上げ包帯を取ろうとインナーに手をかけた。

  

 そんな時、門の奥から見た感じ年のとってそうな男がでてくる。男は門番をちょいちょい、と呼ぶと、ひそひそと何かをを話し始める。門番の男は年のとってそうな男に、なぜです!と声を荒げるが『まぁまぁ』といい門番の男を宥める。どうにか話は落ち着いたのか、門番の男はこちらに戻ってくる。


 「通っていいぞ」


  門番は、少し不満げな顔をしながら敵意をむき出しにしながら私に告げる。私はそんな門番の男に感謝を伝え、通り抜けた門の先で待っていた年のとってそうな男にも感謝を伝える


 「大変助かりました。どうお礼をすれば良いか」 


 話しかける私に対し男はなぜか、私の頬に視線を注いでいるような気がし、不思議に思う私は何か気になるところでもあるのか問おうとするが、先に発せられた男の声にかき消される。


 「怪我を治しに来たのだろう。わたしが案内するよ」


 出かけた言葉を飲み込み、男に感謝を伝え私は男の後を追い街中を進んでゆく。街中には大勢の人が溢れ活気に満ちている。市場で作物を売っている人、肉を売っている人、そしてそれらを買いに来るたくさん人々。そして、連なる飲食店や洋服店、その他にもいろいろ、故郷では見ることのないもの、見たこともない洋服の人も見受けられる。故郷と違い思ったよりも人がおり、少し窮屈に感じるくらいだ。 

  

 そうした街並みを男の後をついていくままに歩いているが、未だに診療所のような怪我を治すような場所は見えてこない。そして男の歩む先はどんどんと道が細くなっていい、もう誰ともすれ違うこともなくなっていくが、まだ進んでいく。

  

 「お嬢さんに聞きたい事が……あるのだけれども」  


 背を向けて進んでいた男は、ある路地の壁で足を止め、こちらに振り向く

そう問いかけてくる男に、私は、なんですか?と聞き返そうとするも、またもや声は出なくなり、脱力するように膝をつき、また意識が薄れてゆく。必死で抗うものの、なす術はなく暗闇に落ちてゆく 

  

 目覚めた私は、見事に椅子に拘束され、手も足も動かせない状態だった。  

拘束を解けないわけではないが、相手に危害を加えるつもりがないなら、一々疲れることをしなくて済む。  


 目覚める私を待っていたのか、私を拘束した年のとってそうな男は目覚めた私を見ると、遠くに座っていた椅子から立ち上がり、口を開く。

  

 「今から約30分前、郊外で謎の魔法が放たれた。あれは君なんだろう?」


 男の問いかけに答えることことはなく、私は黙秘を続ける。

それは紛れもなく私だが、あれはただの偶発的な事件のようなものだ。

もし私が『そうだ』答えたら、男は私に何かしらの危害を加えるのだろうか。 

私は拘束されるままに男の話を聞いている。

  

 「私には魔法の才能がない。だが努力をし、魔法学院の学長の座に座ることが出来た」


 開いた瞳は、男を見つめているような、虚空を見つめているような。

何処とも定まらないその瞳には、うっすらとぼやけた光景が映っている。

今日だけでも様々なことを見た瞳は、もう休んでもいいのではないだろうか。

私は拘束されるままに男の話を聞いている。

 

 「だが、偉大なる魔法使いを諦める事は出来ない。故に私は、自らのすべてを誰かに託し、偉大なる魔法使いをこの手で生みたいのだ」


 ここがどこなのか分からない。男以外の声はせず、周りも暗くほとんど見えない。助けを呼べども、誰も来ないだろう。

静かなこの空間に響くのは、もう男の声だけだはない。爆発しそうなそれはまるで沸騰したケトルのようにふつふつと蒸気のようなものを漂わせている。

 

 この時の私は、様々な出来事の応酬によりストレスの許容量を軽く超えており、私にとって今一番聞きたくないその言葉を皮切りに何かが切れてオカシクなっただけで、私の本性がああではない……はずだ。

  

 耐えた、耐えたんだ。家出の先は、もちろん厳しいものなのだと、分かっていた。だとしても、そうだとしても!あの理不尽な出来事の数々!        

奸計に……不可解な空間に……魔物に……そして誘拐に!!! 

 

 「――――――――」


 何とかの顔も三度まで、だ。

どこを見つめているのか分からない瞳は、先程とは打って変わって明確な意思を持って、男を捉える。 

 

 鬱陶しい拘束具を外すため、拘束具の表面だけを火魔法で段々と、焼き尽くしていく。黒いチリとなった拘束具だったものが私の傍から落ちてゆく。外套にも多少移り火はしたが、この程度問題はない。

  

 「”ヒノト”」


 私の持ち物である、杖とカバンを探すために、手の一点に魔力を集中させ、あたり一面を照らす光源をつくる。


 「素晴らしい!君ならに本当に偉大なる魔法使いに!!」


 自分の杖とカバンを見つけて拾っている私の後方で、男が興奮気味に喋り出す。私はそんな男を無視するように、男の横を通り、”ヒノト”を頼りに出口を探す。本当は心の感情に従って行動を起こしたいが、相手が魔法学院の学長では分が悪すぎる。それこそ本当に、野良の魔法使いになってしまう。

私は抑えきれていない感情を必死に抑えつつ、見つけた出口を通りこの場を後にしようとする。


 「待ってくれ!君にいい話がある」


 出口への歩みを進める足は、その言葉と共に止まり、ゆっくりと私は振り向く。左手には”ヒノト”を灯しながら、右手に握っている杖を男の方に構える。

静かに、そして明るく灯る”ヒノト”は、ゆっくりと役目を終えるように……消えていく……


  「―――――――――――――――――」


 こうして私は家出の先にあった一つの過程にたどり着く。

時には頷き従うしかない選択肢も存在する。けれどもこの選択、この運命こそが、のちの大切な存在となる【ある少女】と出会うことができたのだった。

とりあえず、序章の序章は終わりです。

展開的な勢いは、この先少々沈んでいきますが、良ければよろしくお願いいたします。

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