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ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜プロローグ〜
4/33

4頁 魔法使いの三難目

 宝の眠る場所とやらに行くと、変な空間に入ってしまい、その空間からでて本来の宝の眠る場所に入るものの、中には何もなく成果は一冊の本だけだった。


        ぐうぅぅぅぅぅ


―――成果はほとんど無く、長い時間をかけてようやく手に入れたものは一冊の本だけであり、得るものはほとんどないくせに体のエネルギ―は持っていかれ、お腹が空いてしまう現状。あの男達と会ってからここに至るまで、かなりの時間何も食べていなく、持ってきた食料もほとんど残っていない。少しだけ衝動的に家出したことを後悔してしまっている。 

 

 しょぼくれた顔で洞窟の外を目指してとぼとぼ歩く。これだけの時間が経っているのだ、もしかするともう日が暮れているのかもしれない。

そしたらまた外で寝泊まりする羽目になってしまう。せめて夕暮れ前であってくれ、と願いながら洞窟の外を目指す。

 

 外を目指し歩いていくと、段々と洞窟の暗闇より外の光の存在感が強まってくる。もういいか、と”ヒノト”を解除し、太陽が完全に沈んでいないことに安堵したのも束の間、外の景色を直接見るまでもなく、ある事に私は気付く。

 

 「いくらなんでも、明るすぎませんか」


 それもそのはず木々の隙間から見える太陽は、今だに沈むことはなく、鬱陶しいほどに空で輝き、こちらを照らしているのだから。 

洞窟の外に出た私は、木々の隙間から空を見上げ、そのまま脱力するように膝をつき、もはや思考は完全にショート寸前。あの謎の空間には、時計はなかったものの、少なくとも数時間は経っていたはずだ。

 

 私の目に映る空は、来た時と変わらない明るさであり、まるで時間なんて経っておらず、先程の空間での出来事が本当に夢なのではないかとすら思わせる。思い出せないぼやけた記憶、進んでいない時間、私の許容を超える理解不能のオンパレード。 

  

 腹も、忍耐も、思考も、色々と限界を迎えてきている。そんな今にも倒れてしまいそうな私を叩き起こしたのは、気合でもなく、理性でもなく、生物の生存本能だった。 

   

           グオオオオオオッッ  

  

 膝をつく私に、鋭い爪がついた足が叩きつけられる。土埃が木々の間に巻き起こり、その中から狼のような魔物の姿があらわになる。咄嗟に回避行動をとった私は、追撃がないことを確認すると持ち続けていた本をカバンに入れ、杖を持ち防御態勢をとる。


  魔物とは、本来魔力溜まりから発生したのち、生きるという本能に従い、この世界の人々に襲いかかる。そんな魔物を討伐するのは魔法使いの役目であり、そもそも魔法というのは魔物に対する対抗手段として生まれたのだが、今回は割愛する。


 様々な要因により討伐から逃れた魔物は、魔生体から生体に成長し、動物などの生き物と変わらない身体構造に変化する。そして、こちらを睨んでいるのは、その生体となった魔物だ。 

 

 魔物には魔法しか効かない。その理由は、魔生体は魔力のみで構成されているため、物理的な攻撃では効果が薄く、魔法の質量による対消滅によって、体を構成している魔力を奪うことでしか倒す方法がない。  

 

 私の攻撃魔法でも、低級の魔物であれば少し苦労するものの倒すことは出来る。だが、私の目の前にいるのは生体に成長した魔物であり、なかなかに巨体な魔物だ。魔生体と比べて生体は、完全に生き物の身体構造なので、肉体という障壁が存在する。つまり、直接核である魔力を奪う事が出来ないという事だ。生き物の性質も持ち合わせつつ、魔力も行使し、それに加えて魔力による自己修復も可能。

  

 「くっっ……」

 

 魔物がこちらに向かって動き出したのを見て、咄嗟に防御魔法を展開する。瞬時に至近距離に到達した魔物は、魔力を帯びた爪で防御魔法を貫くと、そのままの勢いで私の頬をかすめる。 

補助魔法に関してはそれなりに自信があるつもりだった、だというのにちょっと慢心していたらこれだ。いいや、簡易詠唱のくせにかすり傷で済んだんだ、これが最善なんだ。だけれども、完璧な防御魔法を展開できたとしても、相手にダメージの一欠片も与えることはできない。拘束魔法でも、60秒ほどしか時間を稼ぐことはできない。60秒稼げたところで、近くに逃げ込める場所がない時点で、逃げるなんて選択肢は無い。

 

 生存する方法はただ一つ。だが、懸念点かあるとするなら、その方法により、この森林地帯を大きく破壊しかねないということだ。

 

 「――まぁ、死ぬよりかはマシでしょう」 

 

 この状況では生き残ること、それこそが一番の優先事頁だ。再び私は簡易的な防御魔法を展開し、詠唱を始める。完璧な詠唱をしている暇はない。

魔法にとって詠唱というのは、最大限のパフォーマンスを発揮させる以外では不要ではあり、よくて簡易詠唱で済まされる。ただし、最大限のパフォーマンスを発揮させるためには、詠唱とともに使用者が深い集中に入ることで、その者にとっての最大限の魔法を使用することが出来る。故に、魔生体であっても魔物相手に単独で挑むものではなはない。  

 

 魔物がこちらの魔力の動きに気付き、攻撃を仕掛けてくる。当然避けることはできず、防御魔法を貫通して右腹部を爪が抉る。単独での詠唱のくせに死なずに済んだ。災難に塗れた一日だが、もうそろそろ終わる。

 

 ”刻は止まることはない、が、この力を持って其の自由を奪う„

 

 「”バインド”」


 魔物は、私の前で見えない力で動きを止められ、ただただ唸ることしかできない。私は、腹部の傷に構う事なく、急いで魔物と距離をとる。ある程度の距離を取ったところで、地面に膝をつき杖を置く。カバンから何かの為にと用意したサバイバル用のナイフを取り出した後、長く伸びきった髪を頭の後ろで束ねる。


――少しだけ逡巡した後、髪を持っている手と反対の手でナイフを持ち、無造作に髪の束をまるっと断ち切る。痛いやら悲しいやら、いろいろと巡るもの、感傷に浸る時間はない。ナイフを地面に置き、断ち切った髪を両手で握ると、私は自分の髪だったものに魔力を流す。重力に従い垂れてた髪は、線のような一直線になり、魔力を帯びて少し光る。

  

 魔法使いの持っている杖は、魔法媒体と呼ばれるものであり、詠唱以外で魔法の出力を無条件に上げる装備の事などを指す。その上昇効果は、自らの魔力を杖にどれだけ馴染ませているかによって、効果が変わっていく。

そのさらに上の効果を求めるとなってくると、魔法媒体に使用する素材自体を、使用者の魔力に馴染ませている必要がある。 

女魔法使いの場合、男魔法使いと違い、髪の長さまでもが自らの魔力の最大値を増やす要因になる。そして、髪は自らと長い時間を共に生きている。それは自らの魔力に馴染んでいるどころの話ではない。

  

 魔力媒体となった髪を、拘束魔法が解けかかっている魔物に向かって構える。目に映らない拘束が解けた魔物は、逃げることなくこちらに全速力で向かってくる。あのスピードで来られたら詠唱は間に合わない。が、詠唱するまでもなく、魔法を唱えるだけで完全に倒すことが出来るだろう。 


 魔物が爪を振り上げ、こちらを攻撃するのと同時に、魔法を唱え、放つ。 

発した声は魔法による爆音にかき消され、私はその異様な出力の魔法に驚愕し、立ち尽くすのみだった。 

 

 「あっつ」


 手にしていた髪の杖が、魔法の負荷に耐え切れずに焼けて崩れおちる。あの光景を見て、ぼうっとしていた瞳を、熱が目覚めさせてくれる。焦点が合った瞳が映すのは、穿たれた大穴から、満点の蒼空と太陽の光が差し込む、そんな晴れやかな景色だった。魔法を放った後の景色は想像していたよりも、大幅に逸脱してはいるものの、流石にもう魔物の姿は見えない。 

ふぅ、と一息つき安堵するが、右腹部の傷が今になって痛み出す。 

  

 「いたた……”ハイ・ヒール”」 


患部に手を軽く添え、呼吸を整え魔法を唱える。魔力を痛みのクッションにするようにして、強引に体の怪我を治していく。傷口の出血を止め、自己治癒力を高めるヒーリングも一緒に唱えておく。


 治癒途中の腹部を怖いもの見たさで見てみると、自分視点でも思ったよりグロッキーだったので、カバンから包帯を取りだし、痛くないように、それでいて解けないように巻いてく。頬の傷だけ少しヒリヒリするが、とりあえず治さずに放置する。


 ようやくもう何も憂うことがないことに安堵し、立ち上がる。 

杖を持ち、穿たれた大穴の方向に向かって歩き始める。目の前に広がる景色は、ここに来た時とだいぶ違うが、目的地の隣国の方向は分かる。 

歩き始める私は、短くなった髪の毛を触りながら、また違う面倒事に巻き込まれるという、いやぁな予感を感じるだった

  

 「はあぁ……」 

  


 「入学生挨拶、魔法学院入学主席 シスタン・レンティス」


 「ハイ!!」

 

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