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ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜星見のレトロセデール〜
37/37

30頁 魔法使いは蒼空を目にする


 一冊の本を取りに戻り、また戻ってくるこの数分間、考えなしに走っていたせいでとても疲れた。心臓の拍動は息を吸うたび速く、喉は冷えた空気の焼かれるようだった。ルナ達の宿に着いた後、部屋に戻るまでの道のりをゆっくりと一歩ずつ踏みしめるように歩き、息を整え部屋の扉を開ける。


 「はぁ、はぁ、はぁ……戻りました……」


 扉を開くと、再び肺を焼かれそうになる重圧が襲いかかる。静まり返っていたその部屋に入る事を私は少し躊躇したが、意を決し恐る恐る足を踏み入れた。そのままゆっくりと歩き、なるべく音を立てないように椅子を引き、様子を窺いながら座る。険悪なムードを放つ二人を横に、椅子に座ったまま動かないもう二人は、顔を強張らせ俯いていた。


 「……何かあったんですか?シスタン」


 「そ、それが、ルナさんが、すごく怒っていらっしゃって――」


 「怒ってなんかないよ……? これは叱ってるだけ。ね……エステラ?」


 「問われた事を答えることに何が不満なのだ? それくらい構うことないだろう?」


 「反論をしろなんて言ってないんだけど?」


 ……これは、入っていける雰囲気ではない。エステラとは長い間一緒にいて、魔法を教わった時や初対面の際の変わった言葉遣いやらで、かなりヤバい人なのだと分かったていた。けど、今のルナはそれより遥かにヤバい……背筋を正せられるというか、言葉一つ一つが重い鈍器のような……ヤバい、というより最早怖い。とはいえ、どうしたものか。今この本の事を切り出せばより怒らせる事になりそうだし……しかし、この本についても聞きたい……。


 「あ、あの……ルナ? 不躾なお願いかもしれませんが、先ほどのことについて尋ねたい事があるのです。どう……でしょうか……?」


 「どうでしょうか、って……わかった。特別だからね」


 「っ!ありがとうございます!」


 「それで? 尋ねたい事って言うのは、突然飛び出して行って持って帰ってきたソレのこと?」

 

 「はい、そうです。私にはこの本に書かれている内容を読む事ができなくて、もしかしてルナさんなら読めるのではないかと……どうぞ」


 本を私から受け取ったルナは、表紙まわりを一通り見終えると右開きで読み進めていく。ゆっくりと何かを確かめるように読むその姿に、私の中の期待感はどんどんと上がっていく。しかしそんな期待も束の間、ページはひらひらと舞い、程なくして本は閉じられた。


 「これ、ブルハは読んだことあるんだよね?」


 「は、はい、一応は読みました」


 「じゃあ……はい。エステラもティエラも、シスタン君も。せっかくだからこの本読んでみてくれない?」


 そう言ってテーブルに置かれた本をシスタンが広げ、エステラとティエラは覗き込むように見る。……最初こそゆっくりじっくり読んでいた三人だったが、だんだんとページを捲るスピードが早くなり、呻き声のようなものも聞こえてきた。


 「どこかでみた事があるような気もしたんですが……あたしには何と書いてあるかすらよく分かりませんでした……」


 「吾輩も同じ……」


 「……同じくも吾もだ」


 「ま、そうだよね。ちなみにブルハ、僕もなんて書いてあるかは読めなかった」


 「そう、ですよね……」


 あるいは、なんて期待していたが、私自身もあの本をどこで手に入れたのか朧げにしか記憶していない。そもそも読めない文字があるなんて聞いた事も……


 「僕にも読めはしないし、書けって言われて書く事もできないんだけど、書いてある事自体は雰囲気ではあるんだけど一応は理解できたよ」


 「そうですよね……」


 「あれ、あんまり嬉しくなさそう?未知を知れる事って、結構嬉しいことの筈なんだけど、そうでは無い?」


 「そうですよ先生! 読めはしなくとも、理解はできていらっしゃるんですから! もう少し喜ぶ……いえ、もしかして先生も理解はしているんですか?」


 なんとも捉え難い思いをのせた視線が私に集まる。何ということでもないのに、体が熱くなり、つらっと汗が滴るような感覚に襲われる。


 「……ふぅ。私も雰囲気での理解はしているつもりなんです。これは魔法について書かれている本、書物なのだと。一番最後のページを見てもらえばわかると思いますが、魔導歴一年と、そう書かれていますから」


 皆一様に驚いた顔をすると、踵を返すようにまた本に視線を向け、ぎゅうぎゅうになりながら開いた最後のページを食い入るように見る。最後のページは片面しかなかった筈だが、かなりじっくりと精査していた。


 「あの……ブルハ先生、どこにも読める文字で書いていないんですが……」


 「ちょっと良いですか……ありがとうございます……ほら、ここの端っこの方、大きめに書いてあるじゃないですか」


 私が指差す場所をみんながじっと見つめるが、次第に緩んだ紐のような顔をし始めると、お互いに顔を見合わせていく。


 「えっと、多分あたしたちには魔導歴一年と書いてあるのか分かりません……」


 「そう、ですか」


 謎が解けるどころか一層深まってしまった。現状何故か私だけが読める箇所がある……それなのに本文と思わしき箇所は殆どは読めない理解できないという始末。これも、ハウリアンの森とやらに行けば解る事なのだろうか。


 「少し話を戻すけどさブルハ、僕が雰囲気で理解したのは魔法っていう漠然的で大きな括りじゃなくて」


 ルナはテーブルから離れ、少しだけ開けた場所に行くと、おもむろに空間に指を這わせ始める。指先を追うように光が軌跡を描き始めると、やがて一つに繋がり長方形の枠が現れた。


 「例えばほら、こういうふうにドアを作ってあげて……」


 目の前の異様な光景に呆然としていると、それは段々と内側を埋め尽くし、ルナの宣言通り赤色のドアへと変貌していった。


 「開けると……ほら」


 ルナがドアノブを引くとそこには無機質な部屋の壁は無く、思考すら置いていくような煌々とした蒼き空に緑が舞い上がる澄み渡った世界が広がっていた。


 「――これ、は」


 「ブルハが見せてくれた本にあった魔法の一つ。空間転移……空間接合? どっちかよく分からないけど、それに連なる魔法」


 「ふん、些か懐かしい場所だな」


 「お、おぉ、エステラもちゃんと覚えててくれてるんだ。僕ちょっと感動しちゃうかも……」


 「では先のことも許すが良い」


 「それは別。さあ、せっかく魔法を使ったんだ、広々とした空をみんなで満喫しようじゃないか」


 そう言ったルナはいつもの三人で青と緑の世界に足を踏み入れる。私とシスタンを置いて。それほどあの三人には大切な場所なんだろう。


 「お先に行かれますか、ブルハ先生?」


 「いえ、最後でも構いませんよ。でももし、あの扉の先に行くのが不安と言うなら、先に行ってあげますよ?」


 「む……そんな事思ってないですーだ! ふんっ!」


 「……とりあえず行きますか」


 怒らせたシスタンを追いかけようとすると、扉の前から草原の少し苦い匂いが鼻腔を掠めていく。当たり前のことだが、目の前に広がっている景色が本物だと教えてくれているようだった。境界を超え、向こう側へと足を踏み入れると、一瞬なにか見知った感覚が襲って来る。


 「お、やっとブルハも来たね。ようこそ、ここは僕達が知る世界の絶景ポイントだよ。残念ながらもうすぐ暗くなり始めるけど、ぜひこの光景を目に焼き付けてくれ」


 「あぁ、この景色は世にも高き至高の絶景である。ルナに倣うわけでは無いが、この晴々とした景色を心に残しておくといい。ティエラもだぞ」


 「もちろんですエステラ様! このように広々として清涼な絶景、決して忘れる事はありません!」


 目の前に広がる蒼穹、見渡す限りの緑の大地。生きている間に一度見れるかすら分からない最高の景色。気がかりな事は一つあったが、それでもこの景色には劣るものに思えた。私はルナ達に軽く視線を交わし会釈した後、置物のように立つシスタンの方に向かう。


 「どうしたんですか、シスタン。こんな果ての見えない空があるというのに、ずいぶん窮屈そうにしていますね」


 「……先生も当然感じた筈ですよね。体感して初めて分かりましたけど、あの魔法を自由に使えるなんて」


 「もちろん気付きましたよ。でもそれは、また部屋に戻ったタイミングで訊けばいいこと。今はこの空、この場所を満喫しないと。色々あって忘れてるかもしれませんが、あくまでこれは旅なんですから。重要な事は寝る前にでも考えればいいんですよ」


 シスタンは軽く空を眺めると、視線を下ろし目を瞑ってしまう。うまれた暫しの静寂すらも、風音と草花が奏でる音が耳を撫で、心地の良い時間となっていた。


 「おーい二人とも、あんまり長くは持たせられないから、あと三分くらいしたら扉の前まで戻ってきてくれー」


 「はーい、分かりましたー……だ、そうだよ」


 「……ふわぁ」


 眠りから目覚めるように目を開けたシスタンは、横目でこちらを見て微笑みを浮かべると、空を仰ぐように地面に力無く倒れる


 「っく!シスタン?!」


 ところを間一髪で間に合い、私はシスタンを肩を抱きかかえ、今までに無いくらい近くで顔を見合わせることになった。


 「このところ、ほんとに色々なことがあって休まる時間も無くて……それはブルハ先生も同じだと分かっているんですが、今だけは...180秒だけは甘えていてもいいですか……?」


 「だからって、急に倒れたりしないでください。毎回こんな風に受け止められるわけ無いんですから」


 「はぁい」


 表情を緩ませながらシスタンは陽光に微睡むように目を閉じる。肉体的な疲労で言えば、一ヶ月に及ぶ魔法の修練がありはしたが、まだそれは魔法使いとしての必要な過程だと飲み込む事はできるだろう。が、昨日と今日の情報による精神の圧迫。これらは余計なおまけが過ぎるというもの。


 「…………」


 草原に座り、少女を抱えながら暖かな風に吹かれる。ふと目をやってしまうその穏やかな顔に、私はついつい頬を緩ませてしまう。けれど、心はそれを良しとせず最悪の状況への警鐘を鳴らす。


 目の前の眠り姫をどう守るのか、と。


 「――おーい2人ともーもう時間だよー早くこっちにきてくれー」


 「っ、はーい、今行きますー。起きてください、シスタン、もう行きますよ」


 「んむ……分かり、ました」


 張り上げられた声に導かれる様に警鐘は消え、私は抱えた手で虚ろな目のシスタンを起き上がらせ、共にルナの方へと戻る。


 「ん……せんせ?」


 「? どうかしましたか?」


 少し足を止め、微かな呼び声に顔を向けると、シスタンのまだ少し虚ろな目と目が合う。囚われるように数秒、瞳を見つめてしまうが、ふと手にじんわりとした温かさを感じる。手汗でもかいたのか?ふとそう思い手を上げようとすると、妙に力を要し手ではなく腕まで上がってしまい、固く繋がれた手が視界を覆う――


 「きゃっ」


 「ちょっ! あっ」


 手を繋いでいたことに驚く暇もなく、バランスを崩し倒れるシスタンを受け止めようとする。が、直後、アクセントとして感じるより強く青臭い草花の匂いと、風に揺れる音が腹立たしいほど鮮明に聞こえた。しかし草花がクッションの役目を果たしてか、じんわりと背中が痛む程度だった。


 「大丈夫でしたか、シスタン? せっかくゆっくりしてもらっていたのに……本当、申し訳ないです……シスタン?」


 「いっ、いえ! あた、あたしは大丈夫ですから!!」


 いつの間にか繋いでいた手を解き、仰け反るように慌てて私から後ずさっていく。それを追う様に起き上がると、力無く座り込むシスタンの鼻先から血が滴り落ちようとしていた。


 「シスタン!それ! 鼻血出そうになってますよ!」


 「えっ?......!!」


 「ちょっと、手で押さえるのは汚いですよ。ほら私のハンカチ使って、ってなんで顔を横に振るんですか!顔も真っ赤ですし、やっぱ怪我してるんじゃ――」


 「あのさ、君たち、早く来てくれって言ったよね? もし聞こえてなかったってんなら、ここでもう一回大きな声で言ってあげようか?うん?」


 目の前の真っ赤なシスタンは、目をぱちくりとさせ顔も石のように固まってしまう。声の方に振り向きたくなかったが、そんな事をしてしまうと次は私が鮮血を撒き散らす予感を感じ、恐る恐る振り向く。そこには、異常なほどの笑みを浮かべたルナがいた。


 「あれ、聞こえてないのかな……」


 「聞こ――」


 そう私が口に出すのと同時に、シスタンは両手で口元を覆ったまま弾ける様に立ち上がる。そして少しよろめきながらも、元いた部屋が映るドアへ駆け出していった。


 「……申し訳ありません。こちらの戯れで時間内にそちらに合流できませんでした」


 「良くは無いけど、許すよ。ほら立って」


 「ありがとうございます」


 「あのドア、あの魔法は空間接合だと思うから、魔力の消費はあまり無い。でも、維持となると話はかなり別で、それなりには持っていかれてる。だから君たちには、早く戻ってきてほしかったんだけどね」


 「本当に申し訳ないです。……あの、一つ聞かせてもらえないでしょうか」

 

 「いいよ。なに?」


 「この魔法は、私にも使えるようになる代物ですか?」


 「使えるとも。こと空間接合においては、ブルハの様に魔力量が多ければ誰だって可能だ。けどそれは一旦置いておいて部屋に戻ろう」


 先ほどとは比べ物にならない優しい笑顔を見せ、ルナは境界を超えて部屋に戻っていく。魔力量があれば誰でも可能、その言葉を疑うわけではなかったが、思い当たる前例が簡単には信じさせてはくれなかった。そんな事を思いつつ、私も境界を超え部屋に戻った。


 ――――――――

 ――――


 「さて、もうそろそろ二人は帰る頃合いかな?」


 「だから勝手に終わらせようとしないでください。私もシスタンもまだ聞きたいことがあるんですから...そうですよね、シスタン」


 「ふぇっ......あ! ふぁい!ありふぁす!」


 「ぐっ……んはは……ふぅ……」


 「ちょっと!エステラさん! シスタンは真面目に話をしようとしてるんですよ! 笑わないでください」


 現場はたいへん混沌としていた。部屋に戻った後姿を消したシスタン。部屋の扉が開く音がすれば、そこから両鼻に丸めたティッシュを詰めたシスタンが現れ、開口一番にまた帰らせようとするルナ。それを問うた私に、情けない格好をしながら真面目に合わせる一国のお姫様。それを笑うエステラ。と、なかなかの長時間のせいか疲れが出始めていた。


 「エステラは後で僕が厳しく叱るとして、もうそろそろ本当に帰る頃合いになる。聞きたいことがあるなら、どうぞ質問してくれ。答えれるものを答えるよ」


 私はシスタンと顔を見合わせる。私自身が一番に聞きたい事は、もちろんどうやって空間接合の魔法を覚えられるのかだったが、それを知る上でも重要なことが私達にはあった。


 「ルナふぁんがふぁっきんってあ――」


 「あ、あのシスタン、なんか色々と不安なんで私に任せて下さい。お互い聞きたい事は同じだと思うので」


 「ふぁい……」


 なんだか良くわからないけど、すごく今のは良く無い感じがした。それに正直、あれでは何を言いたいのか伝わりにくい。


 「えっとですね、先程の魔法、ルナさんは空間接合と呼び、難なく使用していました。けれど私達は、魔術書型の希少な魔法媒体でやっと魔法を体感できる……それも王族が持つ様な。長い前置きになりましたが、要はそのような魔法をあなたは何故使え、私にも使えるのだと言い切るのか。その理由を教えてもらいたいのです」


 私はルナの瞳を真剣に見つめ、熱は交差する。そんな視界の隅、喋れることがないからとシスタンは煩いくらいに頭を振ってルナへと訴えかける。


 「そうだね……大前提として魔力が多ければ、どんな魔法でも使う事が出来る。それはもちろんいいよね?」


 「自らの適性内であれば、そうですね」  

  コクコクコクコク


 「あぁ、そうだったね。それでどうやって使えたのかは、ブルハが見せてくれたこの魔導書に書いてあったから。プルハによればこれは、魔導歴一年に書かれた書物なんだろ?」


 「まぁ...そうではありますが」

 

 「なら君達が体感したっていう空間魔法は、オリジナルをコレとした改良魔法って事なんじゃないか?」


 改良……確かに、学長は鍵を持ってして扉を形成していた。工程は遥かに違う……いや、だとしてもだ。そう心に問いかけながら、私はルナに食らいついた。


 「仮にそうだとして、読めない魔導書を使ってどうやって魔法を使うんですか。まさか魔導歴一年から生きている...なんて言いませんよね?」


 不意に、ただの勘違いかもしれないが、ここにいる全員の目がルナへと集中した。またまた勘違いかもしれないが、ルナは私から目を逸らした。


 「そりゃそうだよ。そんな昔からここに生きてる訳ないよ。ただ、ブルハが持つこの魔導書があったから、僕は魔法が使えた。それだけで、それ以外のことは内緒」


 「内緒って……まぁいいです。回帰の魔法だってその理屈に似たものですし、そういうこともあるのだと受け入れます。シスタンもあの違和感については理解できましたか?」


 隣を観るとルナの曖昧な答えに、かなり複雑そうに顔を歪ませていた。シスタンとしては、自身が継ぐ国家魔法の様に身近にあった特別な魔法なのだから、表しようのない顔になるのも無理はないが、状況も相まってとんでもなく面白い顔......いや、真面目な顔をしていた。


 「…………」


 「えっと、シスタン?頷いたり、何かしてくれれば」 


 不機嫌そうに無言で私を見つめると、ふいっとそっぽを向きスタスタと出てきた扉の方へ歩いていく。――――少し待っていると、誇張気味に鼻を啜りながら帰ってくる。


 「お見苦しい姿を見せてしまい、ルナさん、エステラさん、ティエラちゃん、本当に申し訳ありませんでした」


 どうしてか、シスタンは深々と頭を下げる。それを「気にしていないよ」などと気安く返すルナ達。あれ、私は?


 「ブルハ先生に関しては私の顔を見て、面白そうな顔をしてるな、とか絶対思ってたから許しません」


 「別にそんな事は思って……ねえ?」


 「最低です、先生」


 スパーン、と何かで頭を引っ叩かれるように真っ白になっていく。あんまり見ない色の瞳と言葉は、かなり強烈なものだった。


 「そんな冗談はさておき、ルナさん。先ほどブルハ先生は『空間魔法を私にも使えるのだと、あなたは言い切った』そのように仰っていましたが、先の空間魔法は本当に使えてしまうものなのですか?」

 

 「原則としてシスタン君の言う通り、使えてしまうものではあるけど、その疑問を抱くって事は空間魔法が当たり前に存在していない、と言う事だよね?」


 「はいその通りです。先ほどもブルハ先生が言っていました通り、貴重な魔法媒体が必要になります」


 「だったら使えてしまう魔法にはならないね。ブルハのこの魔導書を読むか、僕が直接教えたりしない事には。あ、もちろん空間魔法を生み出す者はいるかもしれないけどね」


 ぽけーっと話を聞いているだけだが、改めてルナの異常性を認識させられる。シスタンが念の為と疑いたくなる気持ちも分かる気がする。


 「......なるほど、納得しました。ありがとうございます」


 ここで私は、そうだ、と一つ思いつき、ある提案を口にする。


 「シスタンも、ルナから空間魔法を教わりませんか? 私が可能なんですからシスタンも使えるようになると思いますよ。ね?」


 「ん? あ、あぁうん、恐らくシスタンも使えるはず」

 

 「恐らくって、かなりパッとしない言い方ですけど、何か問題でもあるんですか?」


 そう問い詰めると、ルナはグッと瞼を閉じ、獣のように低く唸り声を漏らす。思ってる以上に問題はあるらしい。


 「......シスタン君に問題がある訳じゃなくてね...その...一回僕が教えた事で大変な事になっただろ?だからその......」


 「つまるところ指南に二度失敗し、汝らに嫌われるのが怖い故、このように言い淀む醜態を晒している訳だ」

 

 「んぐっ、言い方酷すぎない? 合ってるけどさ」


 なんだかすごく遠い存在に思えたルナが、嫌われるのが怖い、なんて当たり前な感情を抱くことに親近感のようなものが湧いてくる。.ん?シスタンに教える際にその不安があるなら、私は?


 「あの!!」


 部屋に響いたその声は、憂いを切り裂くように誰もの目を一点へと集中させる。みんなが見つめるその瞳には、うっすらと燃ゆる炎が映って見えた。


 「あたしは空間魔法を覚えるつもりなんて無いです。それに、ルナさんが教えてくださったのに、あんな終わり方を迎えてしまったのは一概にあたしの力不足です。だから! あたしは、限界を超えた魔力を制御できるようになりたい。なのでどうかもう一度、あたしの我儘に付き合ってもらえませんか?」


 シスタンは深々と頭を下げる。周りの三人は声をかける事はせず、ただ私が何か言う事を待っているようだった。


 「私は良いと思いますよ。意図せず限界を超え、無茶してしまうのなら、制御できる方がそりゃいいですから。でも、私も空間魔法を教わりたいので、ルナに力をお借りしようと思ってるのですが?」


 「なれば吾が汝の我儘に付き合うてやる。吾も指南は不得手だが、我が極光のように上手くやれるのなら、問題なかろう。為せば成るだ」


 「っ!ありがとうございます!エステラさん!」


 不安だ。私の場合、結果良かったものの本当に地獄の一ヶ月だった。シスタンも同じ地獄を味わう事になるだろうが...それくらいしなければならない事でもあるしな......。


 「それじゃあ、ルナもそう言う事で構いませんか?」


 「……うん、失敗しちゃったままエステラに引き継いでもらうのは少し歯痒いけど、大人しく任せる事にするよ。だから頼んだよ、エステラ」


 「ああ、汝よりか上手くやってやるとも...汝よりはな。んはは」


 静かに終わると思いきや、煽りを間に受け騒がしくなっていく。締まらない終わり方とは、全くこの事だろう。


 「じゃあ私は帰りますね。シスタン、行きま――」


 「ブルハ......」


 喧嘩しているのをよそに帰ろうとした時、グッと腕を引っ張られる。そこには、ほとんど空気となっていたティエラが居た。


 

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