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ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜プロローグ〜
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3頁 魔法使いの二難目

 小屋の騒動は一段落し騒動の原因である男から奪った鍵を持って、宝が眠る場所に向かうのであった 


 

 小屋の外に出たものの見える景色はというと、一面に広がる大自然だけだ。奥の方には私がさっきまでいた森林地帯があり、その反対であり小屋の方向を目を凝らして見てみると隣国の城壁が見える。宝の眠る場所なんてものは影も形もない。しかし、目的地である宝の眠る場所がどこにあるか分からなくても問題はない。


 鍵というのは錠を開ける為のもの、つまり鍵と錠は繋がっているもであり、鍵自体が錠へ導く地図のようなものになっている。ポケットから鍵を取り出し魔力に触れさせる。すると鍵からうっすらとモヤのようなものが浮かびはじめ、対の錠に向かって伸びていく。モヤが伸びていく方を見てみると、先程までいた森林地帯の方だった。   


 そこまで距離があるわけでもないのだが、進んだ道を戻ることに少々嫌気がさしてくる。もちろんお宝というものに興味があるのは本当のことだが、生きてく為にはお金が必要な訳で何かあればいいな、とも思っていたりする。


 モヤの導きに従って歩いていると、森林地帯の中に人為的に掘られたであろう洞窟のような大穴にたどり着く。どうやら、モヤは洞窟の中を指し示しておりこの先のどこかに対の錠があるのだろう。もしかすると、お宝の眠っている場所というのは嘘で、男達に仲間が待っているかもしれないので、一応ヒノトを唱え警戒をして進んでいく。


 たどり着いた先には男の仲間のような人はおろか、誰もそこにはおらず、ただそこにあったのは、私の身の丈よりも大きな扉だった。

大きさに関しては狭い洞窟なので私より大きいくらいだが、扉にはそれと比べてとても豪華な飾り付けがしてあり、如何にも何かがありますよ、というアピールを感じる。

 

 胡散臭い男に、このわざとらしい扉、殆ど期待するものはもう無いが、ここまで来たのだし見物のような心持ちで、手に持った鍵を錠に差し込む。

ガチャンという音を鳴らした錠を、扉から外し地面に置いておく。

錠の外れた扉を開けようと扉に触れる。


 触れた瞬間、どこかでまた「ガチャ」と、扉の開く音が聞こえたかと思うと、数秒前までなんともなかった私の意識は否応なく途切れる。

 

『僕の名前は……まぁそれはどうでもいいだろう。

僕の時代では新しく魔法という技術が生まれた。

魔法は僕たちの外敵を退けるために、生み出したものだけど、今ではもう日常的に魔法が使われている。

もし何かの不思議なことが起こって、ここに入ってこれることがあったら、

僕たちが生み出した魔法を、ぜひ使ってみてほしい。

ただし、本棚の赤い本には触らないこと。絶対に!』  

  

 『サーー』という微かな音が、私の耳に届き、意識を呼び起こす。

意識が目覚める前に誰かの声を聴いたような気がするも、夢のようにぼやけているせいで思い出せない。


 「ん……ここは…」


 私はゆっくりと瞼を開き、あたりを見回し何があるのか、どこにいるのかを確認する。そんな私の目に映るのは、お宝のようなものでもなく、まるで誰かが住んでいるような生活感のある机や椅子がそこにはあった。

ただ、机などはあるものの食料や生活に欠かせないものがなかったりで、住めるといわれると怪しいところではある。


 机の上にはインクに浸っているペンや布切れに包まれたメガネが置いてあり、机の端の方には初めに聞こえた『サーー』という音の正体であろう砂時計が置かれていた。 


 他に何があるのかと言えば、色鮮やかな本がギッシリ詰まっている本棚がある。逆に本来あるはずのものがなく、ここには内外を繋ぐ扉が一つも見当たらず、外を映す窓も見当たらない。そして時間を指差す針が存在せず、時間の尺度が分からない砂時計しかない。

今いる場所も、時間もわからない私が分かっている唯一のことは、謎の空間に閉じ込められているという事だ。


 もしこの空間が魔法で生み出されたものだとしたら、超高出力の攻撃魔法を空間に対して撃つことで、空間のどこかに何処かに繫がる抜け穴を開けることができるかもしれないが、その結果この空間がどうなるのか、私自身がどうなるのか分らないので、最終の最終手段でしかない。

  

 ということで、そうらならない為にも私が力尽きる前に何かを探しだすしかない。後回しになっていたのだが、この空間にある本棚の本に、この空間から出られる方法が書いてあるのかもしれない。

私は一縷の望みをかけて本棚の方に歩く。比較的取りやすい真ん中の方からテキトーに本棚から一冊取って開いてみる。

 

 「なにこれ……」


めくるページ、めくるページに書いてあるものは、現代の文字で構成されている何かしらの意味をもった文章。普通に考えるならば文字が読めるのなら、それで構成された文章も読めて当然なのだが、何故か書いてある意味だけを理解できない。 

脱出の手がかりになるものはないか、どこかに理解できる内容はないのかと、私は本棚にある他の本を手当たり次第に手に取り、読み漁ってみる。 

  

 何も内容の理解できるとこは見つからないまま、砂時計の音砥共に時間は流れていき、紙の擦れる音が、私の精神をじわじわと削っていく。 

時折、軽い休憩をはさみつつ、本を取っては本棚に片付けを繰り返す。


 そんな作業じみた事を繰り返した私は、本棚の一番左上にある、深い青色の背表紙の本を何気なく手に取る。そこに書いてあったのは、他と変わらない意味の理解のできない文章。だがしかし、ページをめくっていくと終わり際の方に、唯一意味の理解できる文章を見つけた。 

  

 「――魔導歴1年……」 


 魔導歴とは魔法が生まれた時代に、新しい時代の入れ替わりとして大戦が終わった際に定められた新しい暦である。そして今の魔導歴は、2886年。およそ3000年前である。

ここから分かることは、この空間自体が3000年もの昔から存在していたのか、何かしらの意図があり3000年も前の古い時代の書物を、この謎の空間に保存して置いているのか、という事だ。せっかく理解のできた文章はというと、脱出の手助けになるものなどではなく、ただ余計に考えることが増えた問題の種でしかない。 


 頭が痛くなった私はため息をつき、意味の理解できなかった本同様、手に持っている本を本棚に片付けようとする。そんな時ふと机を見ると、上から下に流れていたはずの砂時計の砂が、完全に下に落ちきっている事に気が付く。 

その瞬間、扉に触れた時と同じように、意識が奪われ目の前が暗くなる。

しかし、その途切れたはずの意識の中に膨大な情報が流れ込んでくる。 


 開いていないはずの瞳には、何処とも捉えることのできない焼けた荒野が見える。ビジョンのように見えるその光景の中で、大勢の魔法使いたちが、見たこともない異形の魔物相手に、見たこともない魔法で応戦していた。

その見たこともない攻撃魔法は、少なくとも学院で見る機会があった、教師たちの攻撃魔法などとは比べ物ならないほどの高威力の魔法、それはビジョン越しでもそう感じられるものだった。

 

 前線で魔物相手に戦っている人たちの後ろには、攻撃魔法ではなく補助魔法を使用している魔法使い達が、前線の魔法使いよりも大勢いた。

補助魔法は見た感じでは分かりにくいが、相手を拘束する魔法や、強化魔法も今の時代とは比べ物にはならない程、というか見たこともない魔法ばかりだ。

私の適正は補助魔法なので、少しだけ詳しい。 


 そんな魔法使い達の中に映っているある魔法使いの顔を見て、声の出ないはずの私から声が漏れ出る。

 

 「あそこにいる魔法使い……私に……」


 補助魔法を使っている人達の中に、私と瓜二つの顔をした魔法使いがいた。 

その魔法使いは、他の魔法使いと変わらず後方で補助魔法を使用しているが、他の魔法使いと違いその顔には笑みが浮かんでいた。魔法を使うその姿は、似ている顔つきとは全く違い、正反対と言っても過言ではない。


 意識の中で流れてくる情報はいつまでも完結しないまま、次第に意識の中に流れてくる情報の勢いは段々と、緩やかになっていき、映るビジョンのようなものは消えてゆく。 

  

 乱流に飲まれ消えた私の意識はやっと戻り、意識が戻った頭に手を置き、頭を振る。ゆっくりと目を開けると、眼前に映るのは先程の謎の空間ではなく、錠の開いた飾り付けられた扉だった。 


 先程見たビジョンを思い出して整理しようとするも、まるですべてが夢であったかのように記憶がぼやけ、何も思い出すことができない。 

何も、思い出すことできないが、少なくとも先程の何かは夢などではなく、現実に起こったことだという事はことは、私が手に持ったままになっているこれが証明してくれる。 

私のもう片方の手には、あの謎の空間で手に持ったままになっていた一冊の本が握られていた。

もしかするとなにか意味の理解できる内容は増えていないのかと、私は本を開いて内容を確認するが、あの謎の空間で見た時と同じように、意味の理解できない内容ばかりだった。 

  

 立て続けに起こる色んな事柄のせいで疲弊しきった心を少しでも癒すため、ここに来た本題である宝の眠る場所の扉を開け中に入ったのだが、中にあったのは宝ではなかった。厳密にいうのならば宝なのかもしれないが、こればかりは価値観の違いだろう。中にあったものは、大量に資材の山だった。あの男達からすれば、金になる宝と言える代物なのだろうが、私からすれば、金ではなく別のものが溜まってしまう。

 

 私は宝のあった扉の錠を閉めると、扉に背を向け洞窟の外に歩みを進める。

 

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