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ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜音楽の国 ティトゥーラ〜
23/35

iF18頁 ウォーターシェッド

ここで展開される物語は、続く正史になんの影響も与えません。ある人物が中心としてのifストーリーです。重ねて、このepは本軸に影響を与えない事をここに伝えておきます。なので、箸休め程度に読んでみてください。

【これは、選ばなかった選択肢を選んだ世界。あり得たかもしれない物語。この選択をブラハが選ぶ事により、ある人物の行末は大きく変化するが、ブラハが辿り着く結末には影響を与えない】


―――――――――――――――――――――


魔法連盟のマスターの勧めで遠隔魔法を試し、その仕組みやコアを見、その後魔法学院に行き、ライアの行方不明という話を聞く。


 

 翌日、私達はティトゥーラ国内でのみ使用可能な遠隔魔法を試す為、別々で行動してみよう、という話になった。けれど、シスタンを独りで行動させる訳にはいかないので、今ある人物を探している所だ。


 「おはようございます姉さん、起きてますか?」


 私は教えてもらった姉の部屋のドアをノックする。姉にシスタンを預けるのは、少々不安だが、一番信用できて一番安全な相手だ。


 「ん……何の用よ……こんな朝早、く!?」


 私の後ろからシスタンが顔を見せると、寝ぼけていた姉の眼は一気に開眼し、強い力で腕を引っ張られ、部屋に連れ込まれる。


 「あんたねぇ!ほんと一回殴るわよ?わたしからしたらまだ他人、それに加えて一国の王女様!そんな御方に朝イチで会わせないで!」 


 「すみません……」


 確かに、私からすれば割と長い時間共にいる存在だし、私は姉さんみたいに身なりをとっても気をつけているわけではない。私は、少しだけ感覚がおかしくなって来てるんだろうか。


 「とりあえず外で待ってて、準備するから」


 勝手に一人反省会を開いていると、邪魔だ、と言わんばかりに追い出される。扉の外で待っていたシスタンの姿を見て、私の姿と見比べると、何を意識していない私の姿は、やはりどこか浮いているように自分自身でも感じられる。隣に立つ努力、なのだろうか。


 しばらく立って待っていると、扉の奥からようやく私達を呼ぶ声がする。扉のノブに手をかけ、一応事前通告をして扉を開ける。


 「お、おはようございます……姉さん」


 扉の先にいた姉さんは、大袈裟に言うなら別人?のように変わっていた。主には髪型、すっごいボサボサで寝癖があった髪の毛が、綺麗なストレートロングになっていた。


 「どうぞ入ってください、シスタン様」


 「あ、ありがとうございます」


 姉さんはシスタンを優しく迎え入れるのに対して、後方に控えいる私には鋭い視線を向けてくる。思った以上に私の行動は、地雷だったらしい。


 そのまま進み、仕切りを抜けた先に移動すると、そこからフローラルなニオイがしてくる。ややニオイが濃いのは、おそらく今さっきニオイをつけたばかりだからだろう。


 「シスタン様はとりあえず、ここに座っていただいて」


 「はい、ありがとう……ございます」


 姉さんがシングルベッドに座る事を促す一方で、シスタンの反応はあまりいいものとは言えない。まぁまだ二人はあまり距離感が近くないし、姉さんからすれば相手は王族。……預ける人を謝っただろうか。


 「それで、何の用なの?ブルハ」


 すごくなんとも言えない関係性だ。私は二人と気心の知れた仲だが、当の二人は関係性があまり無い。でもまぁ、この二人は明確な共通点が存在しているから、多分すぐ打ち解ける方が出来るだろう。


 「今日私達は、離れて行動しようと考えていて、シスタンのことを姉さんに頼めないかと……」


 姉さんは少しだけ考えるそぶりを見せると、私ではなくシスタンの方を向く。


 「シスタン様はいいんですか?わたしなどと」


 シスタンはベット上で唸りながら考える。訪れた静寂の中、再びシスタンの口が開かれ、言葉が発せられるまで、私と姉さんは静かにシスタンを待つ。


 「あたし……の存在は、エルナさんにとって、ご迷惑になりませんか……?」


 現在の二人の関係性、今の状況を考えるに、シスタンの発言はいろんな事情を考慮すれば、至って普通なのだが……私の時の反応と違いすぎるのが、なんだかすごい気にかかる。


 思い出されるのは、私がシスタンと初めて会った時の事。私とシスタンが初めて会った時は、何故がグイグイ迫られ、果てには師匠と呼ばれ、国王様にも面会させられた。そのシスタンは、私の姉に対しては何故か、相手の事情を考えられる普通の少女になっている。


 「――てる……聞こえてる?ブルハ」


 簡単に追想していると、思っていたより自分の内側に浸っていたようで、姉さんの声に呼び戻される。


 「どうしました?姉さん」


 「シスタン様の事、わたしに任せておいて」


 姉さんはわたしの方に手を置き、そう告げる。シスタンの方を少し見てみると、シスタンも納得しているようで、私の目を見て頷く。


 私が少し追想している間に何があったのかは知らないが、とりあえず姉さんがシスタンを預かってくれるなら、まぁそれでいい。


 「では私は行きますね、何かあったらすぐ連絡してくださいシスタン」


 簡単な挨拶を交わし、私は姉さんの部屋から出る。一日ぶらぶらする体力を賄う為、朝食を食べにレストランを探す。


 近くにあったレストランに入り、簡単な食事を済ませて街中をぶらぶらする。良さそうな魔道具が無いか、良さそうな魔法媒体がないかを探していると、後ろから肩を叩かれる。


 「よっ、また会ったねブルハ」


 後ろから私の手を叩くのは、白髪の魔法使いルメ。ルメにもシスタンを預けようか悩んでいたのだが、なんだかんだ姉さんの方が安心感があるので、姉さんに任せる事にした。流石にこの場で、とはいかないので、近くのベンチで話す事にした。


 「珍しいな一人やなんて」


 隣に座ったルメは気さくに話しかけてくる。そんな感じの仲だっただろうか……。


 「なな!あんた暇なんやったら、うちと遊ばん?」


 やっぱりなんだか距離感が近いように感じる。前会った城外では、そんなに話していたという事もなかったはずだ。けれど、ルメの持つ聖剣を持たせてもらった時、ルメが見せた謎の表情が関係していたりするのだろうか。


 「まぁ、私も暇なので、遊ぶくらいなら構いませんが」


 「マジ!?ほな行こう!」


 いつぞやの誰かを感じさせる強引さで私は手を引かれ、どこかへと連れて行かれる。どういう訳かは分からないが、私と遊ぶことを楽しみにしてくれているのは、全く悪い気分では無い。


 手を引かれたどり着いた場所は、城外から少しだけ離れた草原。周りには魔物は見えず、ただ一面の自然が広がっている。私が疑問を口にするより先に、ルメが口を開く。


 「あんたは、うちと同じ……それかうちよりも……強い」


 温かで和やかな頬を撫でた風は、ルメの雰囲気に気圧されるように、頬を切り裂くかのような風に変わる。ルメのその言葉は、まるで陽炎かのように揺めき、言葉の真意が見えてこない。


 「聖剣を持って見せたあんたと、うちは勝負したい。本気マジの勝負をな?」


 少しばかり様子のおかしく感じられるルメだが、その眼には真っ直ぐな闘志が揺らめいて見える。だが、私には戦いたく無い理由がある。


 「残念ながら、私はあなたと戦う気はありませんので、では」


 立ち去る私の背には、ルメの雰囲気に気圧された風が、まだ吹きつけてくる。ルメの純粋な瞳と相反するようなこの風は、言い様の無い不気味さを感じさせる。


 「あんたの力が知りたい、それが理由じゃあかんか?」


 ――私が人相手に戦いたく無い理由が、私自身の力を知られたく無いから。けれど、もうルメにはバレている。もしここで帰ったとしても、いずれ何処かで会えば、また勝負を持ちかけられるだろう。ルメに限った話ではなく、魔法使いとは好奇心のままに動いてしまう生き物なのだから。


 「――分かりました。勝敗は戦闘不能、又は降参によって決定される、でいかがでしょう」


 「分かりやすくていいね、うちはいつでもいいよ」


 振り返り、ルメと向かい合う。何故ルメは勝負を持ちかけてきたのか、それは単純に勝てる見込みがまずあるから。戦う理由が、私の力を知りたい、つまりどちらが上か、という事だろうか。


 だが、私が戦わない理由、それは戦いに勝ててしまうから。自ら進んで戦う、なんてのは私の力がバレてしまうし、億劫な事だ。では、その自信の出所はどこなのか、それは……


 一際強い風が私達の髪を靡かせる。瞬きしてしまう程の追い風を、始まりのきっかけとし、私達は動き出し、いざ戦い……となるはずだが、戦いはすぐに終わった。戦闘中、言葉すら交わす事はなく、今目の前に伏して寝ているのは、ルメだ。


 夢魔法はほとんど詠唱する必要は無い。ただ魔力の消費は、普通の魔法より激しいが、連発するような魔法でも無いので、採算は取れている。故に、例え攻撃魔法が当たらない魔法使いだろうと、接近してきたタイミングで、精神に干渉する魔法を使ってしまえば、この通りだ。だがしかし……


 「どうしましょうか、この方……」


 外傷は当然無く、ただ夢を見て眠っているだけなのだが、ここは草が茂る草原、ほって置くわけにもいかない。


 「――け――助け――誰か……助けて――」


 ルメの事をどうしようか悩んでいる時、頭の中に声が聞こえてくる。一瞬だけ迷った後、強化魔法と”ウィンド”を使い、独りティトゥーラへと駆ける。


 門付近の列を通り抜け、門を駆け抜ける。門番の人には悪いが、謝るのはまた後にし、再度”ウィンド”を使い建物の屋根を駆ける。


 出した事のない精一杯の大声でシスタンを呼びながら、屋根を駆ける。人混みから人を識別できる程度の距離を見回し探しながら、駆け回る。


 やっと人混みの中に姉さんとシスタンを見つける。着地するスペースを見つけ、着地する瞬間に”ウィンド”を使用し、怪我なく地面に着地し、シスタンに駆け寄る。


 「ど、どうされたんですか?ブルハ先生」


 「はぁ、はぁ……無事、なんですね……」


 肩で息をしながら、シスタンの方に手を置きながら無事を確認する。もちろん安心の方が大きいが、強化魔法を使ったとは言え、それなりに疲れた。


 「無事で本当に良かったです。詳しい事は帰ってからで……」


私はそう告げ、また同じように屋根上を駆ける。去り際、姉さんが何か言っていた様な気がするが、シスタンへの説明を含めて姉さんにも説明するつもりなので、一旦無視させてもらった。それに、城外にルメも置いていったままだ。


 しかし、あの声は本当になんだったのか。あの様子、シスタンが助けを呼んでいたとは考え難い。もしあれがフルーテの言っていた雑音だというならば、あんな明確に声として分かるものなのか?考えれる可能性として一番大きいのは、会話の混線だが、そうだとしても今の声は問題しかない。


 そんな事を思っていると、門付近に来ていた。


 「あの、先ほどはすみませんでした」


 強引に通り抜けたことへの謝罪をする。当然ひとしきり怒られたものの、警告されるだけで、それ以上の罰則を受けることは無かった。もしかすると、王族パワーが働きかけているのだろうか…………いやいや、悪い事を考えるより先に、まずルメを迎えに行かなければ。


 ルメを寝かせていた場所に大急ぎで向かった……のだが、そこにルメはいなかった。間違えた場所なのかとも思ったが、辺り一面は草原であり、見渡す開けた景色の中に、ルメの姿は見当たらなかった。


 その後も時間をかけて付近を捜索したのだが見つからず、国内に戻っている可能性に賭け、門番の方々に聞いてみたものの、その様な名前、姿の魔法使いは見ていなかったらしい。流石に暗くなってきたので、私はルメが無事に行きたい事を願い、宿に帰る事しか出来なかった。



 『うちって、弱いんやね』


 『いいや、奴が規格外なだけだ』


 ティトゥーラから少し離れた、どこかの洞穴で一人の少女と、横たわっている聖剣がいた。聖剣は無愛想な顔をしているが、その所有者である少女の顔はひどく歪んで、瞳は激しく揺れていた。


 『優しいやね、ただの剣やのに』


 『……ああ、我は剣だが、意志を持っているからな』


 この静かな空間で、一人と一本は互いの心を通じ合わせる。だがこの静かな空間だからこそ、音の無いものが、まるで音を鳴らしているかのように……煮えたぎり始める。


 『もっと、もっと強くなりたいよ』


 『ああ、汝ならいつか奴に比肩する強さを得る』


 聖剣は、持ち主であるルメの成長を願っている。それは、自分自身を持つに相応しい魔法使いになって欲しい、という願望であり、そのような魔法使いに使われたい、という願望でもある。だからなのか、間違えてはいけない選択肢を誤る。


 『力……力さえあれば、うちはブルハに負けへん……いや、勝てるはずや!』


 『ま、待て!早まるなルメ!』


 誤って点火された炉心は、悲願を達成するまで冷めることはない。一人と一本の選択は、一人の少女の運命に火をつける。


 動き出した炉心は、くべられる物を全て燃料とし燃え上がる。炉心は止まらない、全てを糧として燃え上がる炉心を止める方法は…………炉心自体を崩壊させる、それが唯一の方法。



 

こんなん書いてる暇があるなら「続きを書け!」と思っているでしょう。ティトゥーラ編はもう直ぐ終わります。息抜きさせてください。

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