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ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜音楽の国 ティトゥーラ〜
22/35

18頁 魔法使いと謎の声

 魔法連盟のマスターの勧めで遠隔魔法を試し、その仕組みやコアを見、その後魔法学院に行き、ライアの行方不明という話を聞く。


 

 翌日、私達はティトゥーラ国内でのみ使用可能な遠隔魔法を試す為、別々で行動してみよう、という話になった。けれど、シスタンを独りで行動させる訳にはいかないので、今ある人物を探している所だ。


 「いらっしゃいませー」


 ある人物を探す為、失礼ながらも入っては出を繰り返していた。そしてやっと、このレストランである人物を見つける事ができた。


 「すみません、あそこの方と同席したいのですが、構わないでしょうか?」


 私は店員さんと一緒に、指を指した方向のテーブルを見つめる。そこのテーブルには、大量の皿が積まれており、今も忙しなく食べ続け、増え続けている。


 「ご確認を取られた上、お客様に迷惑でなければ構いませんよ」


 私は頷き、大量の皿が積まれたテーブルの主に近づく。そして私達は、確認を取らずに椅子に座り、同じ目線で顔を合わせる。


 「ほぉ、ほはひ……んっ、すまんすまん……どないしたんや?二人とも」


 私達が探していた人物、それは大喰らいのルメだ。あぁ、大喰らい、というのは私がルメの食いっぷりを見て、密かに名付けた肩書のようなものだ。


 「少しだけあなたに頼みたい事があって、ですがその前に、私達も食事をしたいのですけれど、よろしいですか?」


 「もちろん、いいよ」


 「ありがとうございます!ルメ様!」


 テーブルの隅に置かれているメニュー表を見ながら、何を頼むかを考える。今日はいつぶりかの単独行動ができる日だ、という事でしっかりめに食べて、体力に余裕を持たせておきたい。シスタンも何を頼むか決めたようで、店員さんを呼び注文をしておく。


 頼んだ料理が届くまでの短い時間で、簡単に頼み事の内容を伝える。ただ、私達の方には未回収の皿が並べられ、ルメはまだ食事の最中なのでしっかり聞いてくれる気があるかは分からない。


 「ルメ、少しいいで――」


 「お待たせしましたーご注文の品です、どうぞ!」


 「あ、ありがとうございます」


 早い……めちゃくちゃ早い。ほんの先ほど注文したばかりだというのに……まだ一分も経っていないんじゃないだろうか。だが、テーブルには私達の方にあった皿と交換するように、一皿しか置かれなかった。


 「あ、すまんなブルハ、それ、先にうちが頼んでたもんや」


 ――関係ない話だが、ルメは前一緒にレストラン入った時も、今のような大食いだった。それでも不思議なくらいに前会った時と体型も、顔も変わっていない。


 「ルメはよく食べていますけど、太らないんですか?」


 ついつい聞いてしまう。妬みと羨みが入り混じったあまり抱えることのない感情が、自然と私の中で渦巻き、対外的な言葉として外に出る。体内的な言葉言うならば『ずるい!』『羨ましい!』だ。とてもじゃないが言えない。


 「あたしも聞きたいです!!」


 お皿の片付き、スペースが空いたテーブルにシスタンは乗り出し、食事中ルメに近づく。太らない、なんていう身体的アドバンテージがあるなら、聞きたくなるのは必然のようなものだ。


 「んっ……ふぅ……うちは別に太らんって訳ちゃうんよ。戦闘で使う色んなエネルギーの消費が激しいし、そんでうちは燃費がだいぶ悪い方」


 「つまり、エネルギーの消耗が激しく、使った分を補充する為に沢山食べている、と」


 「そ……んっ、んー美味い!」


 そう説明しながら、ルメは運ばれてきた料理を頬張る。確かに、魔法使いとは違い、身体を使う戦い方をするので、消費するエネルギーは激しいそうだが、だとしても……


 「お待たせしましたー!料理をお持ちしました!」


 ルメに懐疑的な目線を向けていると、テーブルの外から声をかけられ、料理がテーブルに運ばれてくる。


 「ありがとうございます」

 「ありがとうございます!」


 私が頼んだのは、やや大きめのサンドイッチ。バケットの外側はカリッとした黄金色になっており、ふわっとしている中には、薄くスライスされた生ハム、チーズ、そして全体からはバケットの焼けたいい匂いとオリーブオイルの匂いが絡み合い、とても食欲をそそる芳しい匂いがしている。


 皿から料理を手に取ると、火傷するほどではない熱さが伝わってくる。精一杯口を開けて頬張る。が、ほとんど口に入らず、先の方をちまちま削って食べる事しかできなかった。それでも口の中に広がる生ハムの程よい塩気、チーズの濃厚な味が、バケットのシンプルさと調和し、オリーブオイルによるすっきりした後味が一口を完成させる。


 一皿食べ終わり少し息をする。しっかりめに食べようと思いもう一皿頼んだのだが……一旦軽い休憩と、口を潤す為にドリンクを頼む。


 「……ありがとうございます」


 頼んだのは白ぶどうのジュース。この料理自体にはワインなどのアルコールがとてもよく合うそうだが、生憎と私はまだ呑める年齢ではないので、丁重にお断りさせてもらった。


 「それで、結局うちに会いに来た訳は?」


 二皿目のサンドイッチを丁度食べ始めたタイミングで、ルメに聞き返される。噛み、飲み、ジュースを飲み、喋る準備を整える。


 「……あなたにシスタンを一日預かって欲しい、というお願いをしに参りました」


 料理を食べる手を止めてまだ聞き返してくれたルメだったが、返答する間もなくまた食べ始める。私もまだ皿に料理が残ったままなので、再び食べ始める。


少し経ち、ルメの皿はもうほとんど空になっているのに対して、私はようやく二皿目を食べ終え、白ぶどうジュースで口の中を整える。


 「――あの……ルメ?返答は……」


 ルメは私がジュースを飲んでいる間に最後の料理を食べたようで、全ての皿は空になり、目を瞑っている。


 「…………別にいいけど、なんでうちなん?」


 開いたルメの眼は、真っ直ぐに私を見つめる。その瞳からは、確かな意志が感じられるが、何かまでは分からない。


 「現状、頼れる人はあなたしかいないんです」


 だから、正直にものを言う。まぁ正直も何も、最初からこう伝えるつもりではいたのだが。


 「頼れるんがうちしかおらへんなら、しゃあないな!」


 食ったばかりでエネルギーが有り余っているのか、いつも以上に調子と機嫌が良く見える。信頼や安全の観点から見るならば、姉が一番な適任なのだが、シスタンと二人にすると変なことを吹き込みそうだから、信頼できるであろうルメに頼む事にした。


 「ふぅ、では先に失礼します。何かあればすぐ連絡してくださいね、シスタン」


 白ぶどうジュースを飲み干し、席から立って店を出る。二人と挨拶を交わし、店から出る間際、席に残る二人を見たが、仲良さそうに談笑していたのでひとまず安心できる。


 『聞こえてますか!?ブルハ先生!』


 『シスタン、あまり乱用はしないでくださいね』


 『わかりました!ブルハ先生!』


 離れた間際はこんな感じで忙しない連絡が来ているが、しばらく経つとルメとの会話に夢中になって少なくなっていくだろう。



 そんなこんなでぶらぶら、魔道具店や商店、魔法媒体が販売されている店などを巡って時間を潰し、一人の時間を楽しんでいた。そんなある時、遠くの方である人物を見つけ、私は咄嗟に隠れる。


 「―――――――――」

 

 コツコツ、と近づいてくる足音。咄嗟に身を隠したのは路地裏であり、余程の事が無い限りは誰も近づこうとはしないはずだ。


 「何で隠れんのよ、ブルハ」


 「――こんにちは姉さん……お元気そうですね」


 私が姉を避ける理由、嫌いなわけでは無いが、少し面倒くさい。愛がある人なのだが、スッキリとした愛ではなく、ドロっとしたしつこさがある。それに、私が末っ子だからなのか、若干扱いが雑だ。


 「買い物、付き合いなさいブルハ」


 「……はい」


 まぁこんな事を小さい頃もさせられていたような気がする。


 そのまま姉に連れ回されるまま歩き回る。手ぶらな姉の提案で、近くのベンチに座り一旦休憩する事にした。ようやく両手が荷物から解放され、少しだけ痺れた手を振るう。


 「あんた、帰ってくる気あんの?」


 姉に会いたくないもう一つの理由はこれだ。小言というか、聞かれたのならば私自身に説明義務が発生してしまうから、聞きたくない言葉ではある。


 「……まぁそりゃ、いつかは……帰るつもりはありますけど……」


 説明にすらなっていないただの言い訳。帰りたい気持ちは勿論あるが、家出した意味、何かしらの成果を持たないまま帰りたくはない。けど、私はそんな事言うつもりもないので、言葉通り受け取ったエルナは呆れているのか、深くため息をつく。


 「あんた、小さい時からちょっと変だったものね」


 小さい頃の自分……何に関連付けて言われているのか、全くもって理解できない。それに私は小さい頃の自分に関する記憶が殆どない。例えば、姉にパシられていた事や、両親に愛されていた事は覚えている。そうだ……もう一つあった。


 「トレドはどうしてます?相変わらずですか?」


 「相変わらずよ。また作業場の規模が大きくなってるわ」


 「ほんと相変わらずですね」


 お互い気が通じ合うように話している『トレド』というのは、私達三姉妹の真ん中。私の一歳年上の姉の事だ。


 トレドも例に埋もれる事はなく、変わった人間で、魔法を使う事にあまり興味はなく、故郷にいた時も、学院の雑事をこなしつつ、休日には魔道具や魔法媒体の研究に意欲的に取り組んでいた。ただ、研究姿勢や、研究内容、そして生み出すそれらが、当たり前かのように普通を逸脱してくる。それに加えて本人自体も頭のネジが外れかかっている。どう、とは言わないが忘れたくても忘られない記憶が一つ二つ残っている。


 「あ、そうそう、トレドもあんたを探して会いに行く、って言ってたわよ」


 「そうですか…………え、嘘ですよね?」


 姉は今日一番の真っ直ぐな瞳で私に絶望を植え付ける。流石の私もこの報告には、わざとらしく肩を落としてまでショックを受ける。嫌……ではあるが、久しぶりに再開したトレドに嬉しく思う事があるかもしれない……いや、今はそう思う事にしよう。


 「それと、父さんたちは――」


 姉が何かを言いかけた時、どこからか小さな音色が聞こえてくる。その音は誘うように、どこからか鳴っている。


 「聞こえますか?姉さん」


 「え?何も聞こえないけど?」


 ベンチに置いていた荷物を手に取り、その後の方に向かう。止める姉を説得し一人で行こうとするも、姉はついてくる。


 路地裏から聞こえる音を頼りに進み、曲がり曲がりくねった道の先で弦が張った古びた楽器を持つ少女と出会う。


 少女は私達を見てニヤッと笑うと、周りに構う事なく激しく弦を掻き鳴らす。楽器から溢れる音色は、弦から弾き出された振動による音色ではなく、何かしらで増幅された、体に直接響く音色だった。


 「お前達がここに来たのは、オレと一緒だからだ」


 少女は手を止める事なく、口数は少なくはあるが、器用に両立させている。響く音色は私を抜け、路地を駆けていくが、表通りから声が上がることは無い。


 「オレはよ、甘ったるい音色に飽いてんだ」


 確かに、この少女が奏でるのはミュージカルで聴いたような優しい緑色の音色ではなく、激情のまま奏でる赤色の音色。そんな音色に、私は外部からの声、頭に響く声、不測の事態に対する姉さんの心配すらも忘れてしまう。


 『―――――――――――』


 「世界の規範は守り、それでいて社会に根付いた寝惚けるような普通をオレは壊す」


 音色はさらに激しくなり、自然と私の鼓動も早くなる。少女の言っていることは理解できるが、分からない。だが同時にこの音色がもたらす感覚は、とても不思議で不愉快なものじゃなかった。


 「お前達にもあるんだろ!?塗り固められた楽譜への反逆心が!!」


 音色はまたさらにギアを上げ、有頂天に達する。体に響くは迸る音色。だが、どんなに素晴らしい音色だとしても、この少女の事は好きになれない。


 ひたすらに掻き鳴らす少女を見るも、少しだけ冷静になれてきた。と、思った瞬間の事だった。


 「――け――助け――誰か……助けて――」


 時として人は考えるよりも先に体が動く。とは言え、この場合は考える余地もなく、動く事が最優先だと判断しただけだ。


 私は脳内に声が聞こえた瞬間”ウィンド”を使用し建物の屋根に乗り、そのまま”ウィンド”を連続使用し、駆けるように屋根上を移動する。


 『クソ!安易にシスタンを預けるんじゃなかった!』


 こればかりは完全に私の失態。遠隔魔法を試してみたいからと、無駄に離れることを選択した自分を恨む。保守的なことだけではなく、自分に付いて来てくれた年の若い少女を守れないだなんて、魔法使いとして、いや、人として失格だ。


 「シスタンーー!!聞こえますかー!!」


 出した事のない精一杯の大声でシスタンを呼びながら、屋根を駆ける。人混みから人を識別できる程度の距離を見回し探しながら、駆け回る。


 『!!いた!!』


 着地するスペースを見つけ、着地する瞬間に”ウィンド”を使用し、怪我なく地面に着地し、シスタンに駆け寄る。


 「ど、どうされたんですか?ブルハ先生」


 「はぁ、はぁ……無事、なんですね……」


 肩で息をしながら、シスタンの方に手を置きながら無事を確認する。もちろん安心の方が大きいが、魔法を使ったとはいえ、強化も無しに駆け回るのは流石に疲れた。


 「無事で本当に良かったです。詳しい事は帰ってからで……」


 「ブルハ、うちにも後で説明してもろても?」


 正直、あの声が誰のものか、そして本当にシスタンじゃ無いのか分かってはいない。無闇に説明するのは少し怖いが……こちらもルメに説明を求めればいいだけの話、か。


 「分かりました。ではシスタン、宿への案内も頼みます」


 「は、はい、分かりました!」


 私はそう告げ、また同じように屋根上を駆ける。本当はそのまま宿に帰りたいのだが、姉をほったらかしにしたまま来てしまっているので、流石にそれは出来ない。


 しかし、あの声は本当になんだったのか。あの様子、シスタンが助けを呼んでいたとは考え難い。もしあれがフルーテの言っていた雑音だというならば、あんな明確に声として分かるものなのか?考えれる可能性として一番大きいのは、会話の混線だが、そうだとしても今の声は問題しかない。


 そろそろ姉さんを置いて来た場所に戻る。考え事は後にしよう。同じ要領で着地する。着地した私の目の前に広がっていた光景は、まぁ嫌なものだった。


 「あんたねぇ、口だけで常識が変わると思ってる訳?聞いてる?ねぇ」


 最悪の光景だ。私もそう思ってはいたが、そんな直接的な言い方をしなくても……もっとこう……姉さんには無理そうな事か。


 「落ち着いてください姉さん、その子怖がってますよ」


 二人の間に割って入る。姉さんの顔を見ると、思ったよりもマジな顔をしていた。姉さんよ、いつも思っているが、正論は普通に人を傷つけかねない正義の盾、そんなものを振りかざす人の顔がそれだと、本当に人を追い詰めかねない。


 「あんたも思ってるんでしょ?なんで止めんのよ」


 「たまには嘘も必要なんですよ?姉さん……おっと」


 姉さんを落ち着かせているところに、後ろから抱きつかれる。


 「あの……大丈夫ですか?」


 抱きつかれている腕を少し払い、少し屈んで少女と向き合う。というか、本当に泣いちゃっている。顔を見てもそうだが、鼻を啜る音が凄い。


 「えっと……姉さんも悪気がある訳じゃないんですよ?あなたには優れた才能があるのに、何故こんな路地で丸まって、表舞台に出ないのか不思議な思っているだけですから」


 この子に才能があるのは間違いないはず。音楽や音や声はわからないど素人ではあるが、耳でなく体で感じられる音色から伝わってくるこの子の気持ちは、紛れもなく本物だと、私は感じた。


 「ほんと?」


 「姉さん!聞かれてますよ?」


 『よけないな事は絶対に言わないで』というメッセージを込めた視線で姉を優しく睨みつける。


 「そ、そうよ、悪かったわね」


 ふぅ、これで一件落着。姉さんも悪い人ではない、本当に興味がないのであれば、怒る事すらしないのだから。ただ愛情表現が下手くそなだけで。


 「どうぞ、これ使ってください」


 私はポケットからハンカチを取り出し、少女に涙を拭くよう手渡す。けど、少女は涙だけではなく、すすっていた鼻までかんだしまう。


 「ありがと、お姉ちゃん」


 赤く腫れた目で渡されるのは、鼻水が封されている私のハンカチ。……姉さん、見ていて欲しい、これが正論ではなく、優しい嘘をつくという事だ。


 「差し上げますよ、お嬢さん。良ければ使ってあげてください」


 優しい、優しい嘘をつき、私は立ち上がる。


 「では、私達は先に失礼します。あなたが表舞台で陽の光を浴びる事を楽しみにしています」


 そう告げ、少女に背を向け私達は裏路地を後にする。手には姉の荷物、色々あった過程だったが、久々にちゃんと姉と過ごせた今日は楽しかった。


 「……あんたって……もしかして嘘つき?」


 「違いますよ!」

 

わけわかんない時間に投稿してますが、書けたんでとりあえず投稿しました。よろしくお願いします。

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