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ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜音楽の国 ティトゥーラ〜
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17.5頁 魔法使いと天才魔法使い 2

 魔法連盟のマスターと『お話』した後、魔法学院の隣に併設されている荘厳だが小さい建物に向かった。そこで遠隔魔法を体験し、その魔法の開発者であるライアに会いに、魔法学院へと向かう。



 「こんにちは警備員さん。この学院にライアが在籍していると聞いて会いに来たのですが」


 私達はライアに会う為、学院の門付近に設置されている守衛所の警備員に話しかけている。時間にしてはだいたい昼頃、お腹も空いてき、学生達はお昼を食べている頃合いだろう。


 「ライア?あぁ、悪いがそれは俺の裁量で決められない。とりあえず魔証を見せてくれ」


 今までのように魔証を渡すと、必ずと言ってもいいほどに驚いている人しかいなかったのだが、ここの警備員は驚くそぶりを見せない。


 「お二方を立たせたままにしておくのは申し訳ないが、少しだけ待っていてくれ」


 そう言って警備員さんは去っていってしまう。もしかしたら、驚いていないかったのは、私達の事を知らないだけなのかと思っていたが、流石に知ってはいたようだ。


 「もう少しでブルハ先生の目的が叶いますね!」


 「そうですね、『天才』魔法使いですからね、会っておかなければ」


 他愛もない話をしながら時間を潰していると、遠くから警備員と、もう1人誰かがこっちに向かってきている。


 「待っていたぞ!Mr.ブルハ、Ms.シスタン」


 Mr?あまりにも聞き馴染みのなさ過ぎる人の呼び方だし、あまりにも失礼すぎる。私はこんなナリでも一応女だ。そして誰だ。


 「俺から紹介しよう、この方は魔法学院カンビアールの学長、フルーテだ」


 ……なるほど理解した。魔法学院の学長になる為には、普通の人よりも一癖も二癖も変わっていないといけないという事か。


 「君自身の自己紹介はしないのか?」


 「俺は今関係ないでしょう」


 この人の話し方から、学長と警備員という関係性以上の何かが2人にはあるのだろうか?それか、学長が嫌にフランク過ぎるだけなのかもしれないが。


 「久しぶり!フルーテ」


 和やかに、まるで旧友に会ったかの様な気楽で親しげにシスタンは喋りかけている。あの学長もそうだが、学院の学長は王族の面々と何かしらの関わりがあったので、隣国でもあるし2人は顔見知りなのかもしれない。


 「あぁ、久しぶり……そして、そちらのお方が例の魔法使いですね?」


 会話の的は私に移り、フルーテの視線が私に注がれる。見つめるその眼光には、どこか既視感を覚えてしまう。


 「……初めましてフルーテ、私の名前はブルハ、性別は『女』です……どうぞよろしくお願いします」


 自己紹介するより先に私の名前を知っていた様だが、性別に関しては知らないようなので訂正しておく。ここまですんなり事が運んでいるのは、恐らくおじ様が手を回してくれていたのだろう。何故性別のことを伝えていないのかは分からないが。


 「……こりゃ失敬、短髪の女魔法使いなど珍しいもので」


 髪の短い女魔法使いなんて、そうそういるものではないが、単純に短髪だと蔑まれるより、性別を間違われる方がよっぽど効く。


 「自己紹介が終わったんなら、そろそろ案内してあげてください」


 警備員の一言で思い出したが、私達は学院にいるライアに会いに来たのだ、他愛もない話をしに来てるのではない。


 「そうだな、では2人ともついて来てくれ」


 お世話になった頼り甲斐のある警備員に別れを告げ、私達は学院内へと足を運ぶ。ようやくライアに会う事ができる。


 嬉しさ、楽しさ、そんな感情を抱え柄にもなく上機嫌でフルーテの後を追う。しかし案内された場所のクラス札のようなところには、特別室と書かれていた。先程の癖のあった雰囲気はフルーテから消えており、開かれた扉の先に行くと、そこにはたくさんの花束と使い込まれた教科書、そしてノートと魔法媒体が机の上に置かれていた。


 「結論から言うが、ライアは今、行方不明だ」


 告げられる衝撃の事実……と言う事ではないが、衝撃なのはその通りだ。今までのライアに関する話題を出した途端のあの不思議な空気感、今思えば納得だが、国に入ってからと言うもの、街行く人からそのような話は聞いた事がなかった。という事は……


 「そしてライアが行方不明だという事は、公開していない、と」


 「その通りだ」


 会えないという事実、そして生死すら確認できない事実。悲しいという感情よりも、私の中には寂しいという感情が無意識下で渦巻いていく。


 「で、でも、それをあたし達に教えてくれたのは何かがあるんですよね!?」


 シスタンは隣で口を開く。何とも言えない顔になっていた私を見て、励ますかのように言ってくれたのだろうか。何かが、何か……?


 「ある……訳ではないが、先程言った通り『行方不明』であり、未だに遺体は見つかっていない。人攫いのあの館ならいざ知らず、まだ生きている可能性は十分にある」


 ……それもそうか、生きている可能性も死んている可能性も存在している手前、曖昧な伝え方をしたところで、ライアを想う人々を出口のない迷宮に閉じ込めらようなものだ。


 ただ、人攫いの館とは恐らくあの館の事だろう。ライアに関する情報が全く無いので、あの館にライアの霊のようなものがあったのか確認のしようがない。秘密にしておきたかったのだが、背に腹は代えられない。


 「実は私達、その人攫いの館から出てきたのですが、ライアの事、身体的特徴などを教えてくれませんか?」


 「あぁ、情報は惜しまない。ぜひ協力してくれ」


 ……この人もだ。さも当たり前のように私の言っている事を受け入れる。自慢や過信ではないがあの館から出られたのは、まぁまぁ凄い事だと思う……いや、今はそんな事を考えている場合じゃ無い。


 「まずは年齢だが、生きていると仮定した場合24歳、身長は当時だとシスタンよりは小さかったが、恐らく今は同じくらいだろう」


 「そして……」


 『そして、髪色はグレー、君の髪のように目立ってはいないが、白いメッシュが入っていた。最後に見かけたものによると濃いブラウンの外套を羽織っていたらしい』

 

 今初めて聞いた事だというのに、何故だか続いて教えられる情報にはどこかで聞き覚えがある。私は、確実にライアに会ったことなどないのだが。


 「他に何か聞きたい事はあるか?」


 フルータの発言に被さるように、頭の中で覚えのない記憶を再生され、その整理のせいで返答に少しのラグが生じてしまう。


 「あ、では一つ、あなた方がライアを捜す理由は何なんですか?」


 行方不明の国民、もとい生徒を捜す事に理由など必要はないが、その対象が優秀な存在であれば、捜す理由は倫理的なものだけでは無いはずだ。


 「……お前達にならいいだろう……ライアは、優秀過ぎるんだ」


 優秀”過ぎる”……か


 「お前達も見ただろうが、遠隔魔法のコアは全てライアが1人で造り上げた。そしてそれだけではなく、ライアの魔力は一度も尽きた事は無かった」


 確かにそれは優秀過ぎる、と言われても納得するレベルだ。新しい魔法を開発するならまだしも、それを誰でも使えるような物を造ってしまったのだ。それに加えて、単純な魔法の才も群を抜いている。


 ただの行方不明なら……という事か


 「それに最近、遠隔魔法のコアが少しおかしくてな」


 「そうですか?おかしな様子は見受けられませんでしたが」


 壁越しに観た程度のものだから、おかしな様子を感じようがないのだが、少なくとも物理的な違和感は感じなかった。


 「問題が起こっているのは、魔法の方だ。何やらここ最近、相手の声ではない雑音が聴こえるらしいんだ」


 シスタンと魔力を繋げてから、軽く1時間くらいは経とうとしているが、流石にまだ雑音は聞こえてきていない。そもそも雑音が挟まるのはコアのせいなのか?魔法が不完全だったり、魔力が不足しているとかではないのだろうか。


 「ブルハ君の力でどうにか出来ないか?」


 最近起こり始めた事なら、機能していた魔法が途端におかしくなるなんてあり得ないし、視覚的効果付きの液体がある以上、魔力不足もほぼあり得ない……つまり私にできる事は無い。


 「申し訳ないですが、魔物と無機物相手は役に立つ事ができなくて……」


 「フルーテ、一つだけ訊いていいですか?」


 ライアを捜す理由を聞いた所から喋らなくなっていたシスタンが急に口を開く。そのシスタンの顔には見たことのない表情が浮かんでいた。怒っている訳では無く、悲しんでいる訳でもない、ただ強い眼光が宿っていた。


 「あなたがライアを捜す理由……それは真っ当な理由、なんですよね?」


 何時にもない真剣な表情に、思わず汗が滴り唾を飲み込む。今感じている圧は、以前王様に詰められている時に感じた圧に似ている。傍観者であるはずの私は深くなる呼吸を必死で誤魔化す。


 「えぇ、勿論です。わたしはライアを未だ我が国民として捜しています。我が名、そして貴方の父の名に誓いましょう」


 「――絶対にですよ?約束、ですからね!」


 シスタンの返す言葉でようやく圧が消え、楽になる。シスタンもそうだが、臆さないフルーテも一体何者なんだ?


 「はぁー、シスタンが一番あの人に似ておっかないよ、ブルハ君も頑張るんだぞ?」


 「え、えぇ……」



 その後は私達は特別室を後にし、学院を去る事になった。雑音についてわかった事があれば教えてくれと、帰り際に言われたがティトゥーラにはそんなに長く滞在する予定は無い。運が良ければその機会が巡ってくる程度だろう。


 そういえば、特別室を後にする時、少しだけライアの使っていた魔法媒体や教科書を見せてもらう事ができた。魔法媒体に関しては私が使っていたものと変わらず、急激な劣化などは見受けられなかった。しかし、教科書に関しては大量の付箋が貼ってあったり、同世代の教科書と比べると一段使い古されていたらしく、真面目すぎる生徒の片鱗が見受けられた。



――ある時間、ある場所では……


 「おかえりなさい、シア」


 「ただいま、ライア」


 暗い道の先を抜けると打って変わって明るい空間が現れる。任務を終えたシアは、出迎えに来たライアと、お互いに挨拶を交わす。


 「あいつは今いないのか?」


 「うん、魔力阻害の件で忙しいんだって」


 広い邸宅となっているその廊下を、光に照らされた白い短髪の長身男性と、グレーの長髪と右前髪に白いメッシュの入った女性が、ある場所を目指して歩く。


 廊下を抜け、広いリビングにあるテーブルの椅子に二人は座る。天井は高くないものの、横は広く扉が多数存在している。だが、その空間には誰もいない。


 「珍しいな、他の連中もいないなんて……」


 その時、ライアの外套のポケットが光り、声が聞こえてくる。


 「僕もいるんだから!二人きりじゃないんだよ!見えてるんだからね!シア!」


 「まだ何も言ってねぇだろうが」


 聞こえてきたと思えば、光る水晶とシアの口論はずっと続き、それをライアはずっと微笑ましそうに見つめていた。


 「はぁ、で、そっちはどうだったんだ?アルラ」


 「うーん、ライアの事を知りたがってたくらい?」


 シアは独りでに小さく『やっぱりか』と呟く。


 「私の事を?どうしてか分かる?アルラちゃん」


 「どうしてって、天才魔法使いのライアに会いたいだけじゃない?」


 「だから、私はそんなんじゃないってば」


 和やかな雰囲気な中で、シアは考える。今この瞬間、やっと巡り会えた二人きりの時間、もし今水晶を地面に叩きつけ、割ってアルラとの会話を遮断してしまえば、ようやくライアを助け出すきっかけが作り出せる。


 「俺からも簡単な報告だ。俺の眼が正しければ、ブルハの魔力量はライアに匹敵する。そしてこれは偶然だろうが、奴は短髪だが左前髪に黄色のメッシュが入っていた」


 「あ!そうそう、短髪だったし、めっちゃ既視感あった!……ていうか報告ってそれだけ?少なくない?」


 「簡単な報告だって前置きしただろうが」


 また始まった二人の口論を、ライアは聞かない。聞こえていない。シアの口から言われた事、ライアと同じ魔力量を誇る存在。自分と同じ存在がいるという事に、ライアは少しだけ興奮していた。それは、思わず言葉が自然に漏れてしまうほどに。


 「会ってみたい……そのブルハって子に」


 「会わせてあげるよ!この僕が!」


 「きっと会えますよ、ライア」


 思わず漏れ出ていた言葉に反応され、顔を赤らめるライアと、優しい目で見つめるシア、そして見えていないのにそのライアに興奮しているアルラ。


 この三人の団欒はある人物が戻ってくるまで続いた。明るく、そして温かみのある団欒だった。



 

 

2視点進行ではないのですが、チラッとお見せしました。チラッチラッ

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