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ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜プロローグ〜
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2頁 魔法使いの一難目

 隣国への歩みを再開し、私は森林地帯を抜ける手前まで来ていた。


 

 隣国に向かう途中にある森林地帯を抜けよう歩いていると、どこからか微かに声が聞こえてくる気がする。流石にこの森林地帯に声の主はいないようで、見回してみるもこの時間だと人影は見えない。 

特に何かあるわけでもなく、人がいる訳もなく、私はそのまま森林地帯を抜けると、目の前には見渡す限りの平原が広がっており、傍には川も流れている。まさに大自然。国内に籠っていては見れない風景だ。

  

 そんなのどかな風景の中に、ポツンと小さな小屋が佇んでいた。


 私は目を凝らして小屋の方を見ると、小さな人影がこっちの方向に向けて手を振っているようにみえる。おそらくは、森林地帯を抜ける際に聞こえた声の主だろうが、まず目視で分かるほどに遠い距離であり、こんな遠い距離では声なんて聞こえるはずない。そして何より声の主は、こちらの存在に気付いている。


 どう考えたとしても厄介事に巻き込まれる予感しかしないが、私の目的地は残念ながら人影が見える方向にあるので、あの誰かに会うしかない。


 心の中で『嫌だなぁ』と思いながら、気持ち重くなった足取りで進んでいくのだった。


 「おーいそこの魔法使い、少し助けてくれんかー」


ここたどり着く途中に聞こえていた曖昧な声が、一言一句はっきりと聞こえる。遠くからは見えずらかったのだが、私の目に前にいる声の主は、体格に合っていないピチピチな外套に身を包んでいる男性だった。  


 男の背後にある小屋は、ここにたどり着く前にも感じたのだが、周りの解放感あふれる雰囲気とアンマッチすぎる風に思える。まるで「違和感」という言葉がそのまま形を成し建てられたような、オカシナ雰囲気が漂っている。


 男の声を無視したような形でいると、男は再度私に声をかけてくる 

  

 「すまんがあんた、少し手を貸してはくれんんか?」

  

男はある魔物の討伐を依頼され、魔物と戦っていたのだが想定していたよりも強力だったらしく、小屋の中にその戦いで怪我をした仲間がいるようなので、男の仲間達の怪我を治してほしいらしい。丁度良く治療用のポーションは持っているのだが、私は無償で誰かを助けてあげれるような高潔な魔法使いではない。

  

 「見返りは、何かありますでしょうか」

 

 対価を要求する私に対して、目の前の男はポケットから鍵を取り出す。その鍵はお宝が眠るとある場所の鍵らしく、男はわざとらしく見せびらかしながら、にやけた気味の悪い笑顔で告げてくる。


 別に私はトレジャーハンターでもなく、誰かの墓や所有物を荒らしたいわけではない、そしてこんなにもわかりやすく怪しい話に乗りたくはないのだが、宝なんて話を聞いてしまうと、好奇心がうずいてしまって仕方ないというもの。  


 私は男にわかりました、と言うと男に連れられるまま「違和感」ではなく小屋の中に入ってゆく。


 小屋の中に入ると、安静にしているのか数名の男達がうずくまっていた。私はうずくまっている男たちに近付くと、この方々を治せばいいのでしょうか、と問う。すると私の後ろの男はそうです、といい後ろに下がっていく。    


 私自身に何かがあった時のために、と用意しておいた治療用ポーションをカバンから取り出し、ポーションの栓に触れる  


         バタンッッッ    


ポーションを使おうとしゃがんでいる私の後方で、勢いよく何かが叩きつけられる音がする。  

  

 「おや、どうされましたか?感謝されるには些か早すぎると思うのですが」

 

私は背後にいる男を背中ではなく眼前に捉え、杖を握り立ち上がる。眼前の男は私に対してかニヤリと笑うと、けがをしてうずくまっていたはずの男達は、怪我など無かったかのように次々に起き上がり、気味の悪い笑い方をしながら私の背後に近づいてくる。 

  

 「あんたはまんまと騙されたんだよ!」  


眼前の男は、そう言いながらどこからか取り出した瓶のような何かを掲げ、勢いよく地面に叩きつける。叩きつけられた瓶はバリンッ、と弾けると割れた瓶から出てきた気体のような何かが、私やこの場所にいる者の体に絡みつくようにまとわりつく。

  

 「こいつは、魔力阻害煙。魔力に頼ってるあんたらは、これで無力ってわけだ」


 瓶を投げた男はそう言いながら気色の悪い方をし、それに呼応するかのように、後ろの男たちもまたゲラゲラと笑い続ける。


 魔力阻害煙という物が何なのかはわからないが、男の言っている事がもし正しいのならば、魔法を使えない私はただの無力で、か弱い小女になってしまうという事だ。 


 これは私の憶測ではあるのだが、この男達は計画的に犯行を行い魔法使いを襲っているはず、そして私はこの犯行での初めての被害者ではないはずだ。 

眼前の男の体格に合わないピチピチな外套、小屋の奥に散らばっている杖の数々、その殆どが男達の所有物には見えない。何かしらの方法で女魔法使いを狙った罠なのか、もしくは誰でもいいのか。 


 どちらであっても、私がやるべきことはただ一つ。

 

 「てめぇら、やっちまえ!」


男は啖呵をきり、背後の男たちに命令する。一斉に私の背後から襲い掛かる男達。がしかし、私の詠唱の方が、少しばかり早かった

  

 「ん………ここはどこだ?俺は一体」 

 

俺は何かを思い出そうとあたりを見回す。どこか見覚えのある場所のはずなのだが、先ほどまで何をしていたのか何も思い出せない。何故かぼやけている頭を必死に動かし、俺の置かれている現状を把握しようとする。


 「総帥!総帥?聞こえていますか?」

 

突然の聞こえてきた誰かを呼ぶ声に、思考が乱れる。 聞こえてきた声は女の声ではなく、男の声だった。もしかすると俺の仲間の声だろうか?仲間? 


 「総帥!」 


その誰かを呼ぶ声は、確実に俺に向けられた呼び声だった。


 「俺のことか?」

 

俺はその声に応えると、目の前に急に現れた声の主の男はホッとした表情をし、続けて耳に入れたい報告があるという。結局俺の置かれている状況は分らないまま自体は進んでいく。

 

 「魔法国家エルドラド、並びに魔法剣国エルシアドール、両国の掌握が完了しました」


俺はその報告を聞き、自分の置かれている立場を完全に把握することができた。何故ならば、魔法国家エルドラドというは、我らの組織が計画している作戦の足掛かりとなる最重要国家。そしてその組織で総帥と呼ばれるということは、夢にまで見た組織を束ねる主であるであること。

 

 「これは夢か?いいや、あっていいはずがねぇ!」


 幸せな夢を見て気持ちよく眠っている男達を、小屋の端の方にあった少し擦れているロープで拘束しておく。ぐぅぐぅ、と夢を見ながら眠っている男達に使用した魔法は、見ての通りである夢を見させる魔法。精神、及び脳に干渉する魔法。魔法にかかり目覚めた後は一時的に耐性がつく為、数か月程は夢魔法にかかることはない。  


 この魔法は一般魔法ではなく、補助魔法に分類される。そしてその中でも特殊な魔法であり、その魔力消費は激しい。そんな魔法を私は適正のおかげなのか、幼少の頃からすぐに魔法を憶えることができていたらしい。

 

 私は、男に報酬として約束されていた鍵をいただくために、小屋の端に拘束している男達をまさぐる。男のポケットを探り手に入れた報酬の鍵を、私の外套のポケットに入れようと手を入れた時、もうすでに何かが入っていることに気付く。 


 鍵と入れ替えるように取り出したものは、出発する前に買っておいた、色褪せたペンダントだった。買った当時はペンダントは色褪せてはいなかった。ではなぜ色褪せているのか、これは先程の魔力阻害煙と呼ばれるものの対策アイテムであり、魔力阻害という効果を吸収してくれるペンダントらしい。念のためにと、商店に売ってあったこのペンダントを買っただけなので、魔力阻害というものに関してあまりよくわかっていない。できるならば眠っている男達に聞きだしたいのだが、夢魔法にかかっている人を無理矢理り起こすのはさすがに危険だ。 


 まぁ、この男達に関しては、このままにしておいても恐らく誰か見つけてくれるはずだ。というかそもそもここは、輸送道としても利用される道にとても近いはず。なのに誰もこんな場所に対して誰もおかしいとは感じたりはしないのだろうか。


 私は取り出したペンダントを鍵を入れたのとは反対のポケットに入れ直し、外に出る。出た後にもう一度小屋を見返してみるが、やはりどうみても目立って仕方がない小屋にしか見えない。やはり「違和感」 

  

 それはそれとして、この小屋の問題に関してはすべて片付いたので、待ちに待った宝の眠る場所とやらに向かう事にした。

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