16頁 魔法使いと魔法使い
初めての魔物討伐に来ていたブルハ達は、シスタンの疲労以外に特に何も起きる事はなく、討伐を終わらせる。ただそこに、白髪の魔法使いルメが来ており、シスタンの名前がバレてしまう。
「ブルハ、どういう事か説明しなさい」
いつかは、どこかでバレるだろうと思ってはいたが、こんな早い段階だとは思ってもいなかった。隠している秘密とは、簡単にバレるという事か。
「はい、簡単に説明すると、家を出た後なんやかんやあり、プリンシオの学院で教師を短い間していました。そこでシスタンと出会い、流れるままに一緒に旅をすることになりまして」
細かいあれこれを省いてはいるが、嘘は一つも言っていない。ただこんな雑な話で説明になるのか、といわれると……
「何一つ説明になってないじゃない。その中で何があったのか聞いてるのよ」
至極まともな事なのだが、私自身も何がどうなってシスタンが付いて来ているのか分かっていない。今度また改めて聞いてみるのも悪くないかもしれない。
「違うんですエルナさん。あたしが勝手にブルハ先生をお慕いして、付いて行っているだけなんです」
会話に割り込んできたフラフラなシスタンに手を貸す。シスタンは『お慕い』と言ってくれているが、私はシスタンにしてあげたような事はあっただろうか。魔法実技でも、私の感覚依存な教え方だったし、
「別にあなたがいいなら構わないけど、ブルハにそんなところあったの?」
別に……別にいいけれども、なかなかに酷い事を言ってくれる。姉の私に対する小さい頃の印象はどうなっているんだか。
「そういう意味じゃなくてね、ブルハ。あなたの適正は補助魔法だし、シスタン様は王族だし、ね?」
流石に顔に出ていたのか、姉は慌てて訂正をしてくる……いや、そうではなく、この際私の事はどうでもいい。
「とりあえず、納得していただけましたか?姉さん」
「納得はしないわ。理解はしたけれどもね」
理解が得られたのであればそれでいい。いまだに私は理解していないが。
と、シスタンに向けられていた注目が薄れると、私たちの注目は声をかけてきた魔法使いに向いていく。
「それで、そちらの方はどなた?」
三人の魔法使いの間にやってきた白髪の魔法使い。名は知っているのだが、私はほとんど知らないので、ここはシスタンに任せよう。
「あたしが説明――」
「いいよいいよ、自己紹介くらいするよ」
注目の的になっている白髪の魔法使いルメは改めて、私達の前に立つ。私より小さいその背丈に白い長髪を靡かせ、チラリと見える足や腕はとても鍛えられており、私や他の魔法使いとは全く違った雰囲気をしている。
「じゃあ改めて、うちの名前はルメ・ティオーサ。ルメって呼んで欲しい」
ティオーサという家名にはなんだが聞き覚えがある様な気がするのだが、特に脳内の情報と一致するものは無い。
「ティオーサ!?という事はあの聖剣を持っているっていう……」
姉は興奮気味でルメの前に立ち、そのルメは何処からともなく剣を取り出す。姉は聖剣と言っていたが、どこにでもある様な普通の魔法媒体にしか見えない。禍々しいオーラを放つわけもなく、御伽噺で聴くような特別感のあるオーラもない。
「これが聖剣ティオーサ。まぁ、聖剣やなんて言われてるけど、なんやただ強力な剣くらいのもんやし、そも、なんでうちが受け継いだんか分からんし」
姉やシスタンは聖剣を見たり、触らせてもらったりしているが、その間ルメは剣にずっと触れていた。というか、聖剣の名前と家名の名前が一緒な偶然などあるのだろうか。受け継ぐとも言っていたし、一子相伝の魔法媒体だったりするのだろうか……
「あの、聖剣の名と家名が同じなのは何故なんですか?」
姉は私を無知なバカを見るような目付きで、シスタンは哀れな者を見るような目付きで私を見てくる。一般常識レベルの知識なのか?いや、ティオーサという名には流石に聞き覚えがある…………思い出した!ティオーサは……
「ティオーサって言うんは、聖剣を受け継ぐ者に与えられる名前のこと。まぁうちの場合、割と不本意や授かり方をしたもんで、同級生達からは割と嫌われてたりするんやけどね」
「何があったんですか?ルメ様」
「まぁそれは、今度機会があったら、な?」
若干だがルメは隠すかのように話を逸らすと、シスタン達が触っていた聖剣を私の方に持って来る。
「あんたも持ってみる?」
「いいんですか?……ありがとうございます」
触らさせてもらうのではなく、持つことを提案されたため持ってみると、武器型の魔法媒体であるのに重さは全く感じる事はなかった。ただ、聖剣と呼ばれるような特別な力のようなものも、同様に感じる事はできなかった。本当はただの魔法媒体なのでは、と思うほど。
『汝は……いけ好かん魔法使いだ』
何処からともなく聞こえてくる声。いや、何処かではなく、直接内側に何かが語りかけてくるような感覚。私以外誰にも聞こえていないのは、皆んなの反応を見ればわかるが、ルメだけは口元に少し笑みが溢れていた気がする。
「姉さんやシスタンも持ってみたらどうですか?ルメもいいですよね?」
「もちろん、いいよ」
軽石を渡すかのように持っている魔法媒体を、まずシスタンに渡す。完全に私が手を離した瞬間、シスタンが急に私の視界から消える。それと同時に、ズシャンという何かが地面に落ちる音が聞こえる。
「お、重すぎませんか?この魔法媒体……」
視界の外の下方向から声が聞こえたと思えば、魔法媒体に全体重を持っていかれ、おかしな体勢で地面に倒れているシスタンがいた。
「大丈夫ですか?シスタン様」
私が割り込む前に、倒れているシスタンを助けるように姉が魔法媒体を持ち上げようとするが、姉も同様に重いと感じているのか、持ち上げることができない。
「大丈夫か?2人とも」
ルメが魔法媒体に触れると、重さなんてなかったかのように持ち上がる。
「重すぎます!」
「重すぎない?」
魔法媒体を軽やかに扱うルメは、そんな2人を見て満面の笑みで笑っている。そんな笑っているルメを見て、2人はそれにつっかかっていたり、和やかな雰囲気になっていく。
それはそれとして、私には当然疑問が残る。何故、私は重く感じる事はなく持つことができたのか。あの声はなんだったのか。声に関しては全くの予想のつかない疑問だが、重く感じなかった事に関しては、ルメがなんらからの関与をしている可能性も無くはない。口元に浮かべていた笑みの訳、そして聖剣を持つ事のできる条件がわからない以上、考えられる可能性自体少ない。
「ルメ様とエルナさんにお聞きしたいのですが、お二人は先程の戦いでご活躍されていましたが、お二人はどちらの方がお強い魔法使いなんですか?」
私が必死で先程の出来事を纏めていると、シスタンはとんでもないことを口走っていた事を、全部言い終えてから気付いた。普段なら、面倒事が確実に起きる前に止めに入っていたのだが、今回は少し遅れた。ルメに関しては分からないが、姉さんに関しては負けず嫌いな性格もあって、勝負事から逃げない。
「勝負って事よね?いいわよ」
「いいよ、うちもちょうど気になっとる事あるし」
つまりこんなところだ。まぁ勝負、と一概に言えども対人に使う用の魔法は少ない。それが攻撃魔法なら該当する魔法は一つもない。故に、魔法使いの優劣は決めようがないが、栄光や権威などといったものは魔物討伐数や、特別な事を成す事が関係している。
「ブルハ、公平にルールを決めなさい」
姉さんの目を見れば本気で勝負したいことが伝わってくる。いい加減なルールで勝負を早く終わらせようとするなら、後で何をされるか分かったものじゃない。しかし、人に向けての魔法の使用は原則として許されない。だがまぁ、それは普通の魔法使い同士の話だろうし、聖剣の力を垣間見れるかもしれないし……
「では、制限時間は10分。それまでにエルナの魔法が、ルメに掠りでもしたらエルナの勝ち、逆に掠りさえしなければルメの勝ち。いかがですか?」
「……わかったわ」
「いいよ、そのルールでいこ」
一見姉さんがとても有利に思えるが、人に対して魔法を使う自体がないので、命中させるのは難しい。ましてや相手はエルシアドールの魔法使い、身体能力は並の魔法使いをはるかに凌駕する。が、それらを考慮しても、一応は姉さんが有利なのは間違いない。
「名乗るのを忘れてたわ。わたしは、エルナ・レクエルド。よろしくお願いね」
「ではうちも改めて、ルメ・ティオーサ。あんじょうよろしゅう」
風に外套を靡かせる姉さんとは違い、ルメは着込んでいた外套をこちらに投げ渡し、すでに露出していた足元以外にも、肩から脇にかけて露出した動きやすい服装に変わっていく。
何かあればの保険として結界魔法を大きく展開しておき、自身の周りに狭く強力な結界も展開しておく。シスタンを結界内に招き入れ、絶対に出ないようにと警告しておく。
「では、始め」
ヒュンッ……ヴゥォーン
合図とともに放たれた魔法は、結界にぶつかり爆炎と化す。また2人は見合ったかと思えば、姉さんは単発の魔法でルメを追っていく。が、当たる事なく全て悪の結界にぶつかり消えていく。
「どうしたどうした!掠りもしてへんで!」
煽るルメに対して、姉さんは相手にする事なく魔法陣を展開していく。気のせいであればいいのだが、姉さんの目がどんどんマジになってきているような気がする。
「……っぁ!」
魔法陣から放たれた幾重にも伸びる魔法がルメを狙うが、どれも命中することは無く外れた魔法は無秩序に辺りに散逸し、結界にぶつかるものもあれば、結界内にいた魔法使い達にも被害が及んでいく。
「危ねぇじゃねか!っておい!」
姉さんの魔法はとどまることは無く、結界内にひたすら散逸していく。ひたすら避けるルメは楽しそうに笑いながら結界内で動き回っている。姉さんの歯止めも効かなくなってきているし、そろそろ終わらせないと。
「そこの皆さまも、こちらの結界内に来られますか?」
こうなった姉さんは多分止まることは無いし、勝負がつくまで満足もしない。姉さんとルメの勝負の余波に晒されている魔法使い達を、私の周りに展開している結界に中に招き入れる。
「残り時間は?ブルハ!」
時間なんて完璧に数えられる訳など無いし、最初から数えてはいない。
「残り1分ですよ姉さん」
結局時間なんて関係ないのは、姉さんが負けず嫌い、そして中途半端な勝負の終わり方は、あの人にとって最悪の幕引きになる。
「天に浮かぶ紅焔の光を見るがいい…………そして焼き付けよ、我が灼熱は、かの紅焔に勝るとも劣らんものなり」
「いいねいいね!!全力を受け止めてこそ、うちの完全勝利になるっちゅうもんや!!」
「お、おい!あんな魔法、大丈夫なのか!?」
幕引きの魔法がもうすぐ姉さんの杖から放たれる。ルメは本当に真っ向から無傷で受けきるつもりなのか聖剣を構る。そして結界内にいる魔法使い達は、見るからにヤバそうな雰囲気に怯え切っている。ちなみにシスタンはというと、姉さんの魔法に完全に見入っている。
「皆さま、もし不安なのであれば、今すぐ魔法の届く範囲から逃げてもらっても構いませんよ。もし間に合うのであれば、ですが」
「"エ・ルソル"」
ティトゥーラに被害が及ばないように展開していた結界魔法は、姉さんの広範囲魔法と相殺する形で粉々に砕け散り、爆炎と砕けた結界の欠片がキラキラと輝いて見える。
――そして爆炎の中から人影がうっすらと見えてくる。煙が晴れたそこには聖剣を振り下げたルメの姿があった。その姿は無傷のように見えるが、振り下げた肩に火傷のような表面傷が出来ていた。
「事前に決めたルールに則り、この勝負はエルナの勝ちです」
結界を解き、立ち尽くすルメの方に向かう。いくらなんでも正面から無傷で受けきるのは不可能だったらしい。だがまぁ、こんな軽傷で済んでいるのは、おかしくはある。
「これくらいならすぐ治せますので、私に任せてください」
負傷した肩に手を添え、手のひらに魔力を集中し傷を癒していく。傷を癒して分かったのだが、ルメの負った傷は本当にただの表面傷だった。軽傷も軽傷、不思議なくらいだ。
「あんた、ほんまに何でもできるんやな、やから……」
「ごめんなさいルメ!!ついやり過ぎてしまって……」
我に返った姉さんは割り込むように駆け寄ってくる。何か言いかけていたルメは、視線を私から姉さんに移す。
「大丈夫、大丈夫!いやぁ、あんた相当強いな!」
姉さんは魔法使いとして相当に強いのだが……なんというか、色々な意味で歯止めの効かない性格だ。それに、普段は比較的まともだからこそ浮き彫りになる本性というか、まぁそんなところ。
「強いのは認めますが、やり過ぎですよ姉さん」
「はあ、はあ……エルナさん、さっきの魔法、何ですか、あれ!」
シスタンは、まだ魔力が回復しきってない状態でこちらに走ってきたせいで、息絶になっている。姉さんも、シスタンも適正は火魔法なので、シスタンからしたら学びたい事だらけだろう。なら、姉さんに師事したほうが良いのでは?
「さっきの魔法は……」
〈ぐうううううぅぅぅ〉
談笑の中に一際大きい腹の虫の鳴き声が木霊する。だれだ?何で探るまでもなく、顔を真っ赤に染めたルメがいた。
「せっかくですし、皆で昼食でもどうですか?」
「いいですね!」
「いいわよ」
「……なんか、すまんな…..」
――立ち去るブルハ達を見ている者達がいた。それは、2人の勝負に巻き込まれた魔法使い達。そんな魔法使い達は、先ほどの光景を思い返す。
「あの姉ちゃんのバカデカい魔法、やばくなかったか?」
「いや、剣を持ってた魔法使いの方がヤベェだろ」
「隣で座って観てた女の子……可愛かったなぁ」
「おい」
「それは違うだろ」
「見損なったぞ」
「いやいや、お前ら1番やばいのはあいつだろ」
「何で俺達は結界ひとつで無事だったのか……あの短髪の魔法使い、一体何者なのやら……」




