13頁 魔法使いとエルナ・レクエルド
魔狼の集落とティトゥーラの間にある館から無事出る事が出来たブルハ達。シスタンの膝の上で眠っていたブルハは目覚めると、少し館の方を向いたあと、シスタンの顔を見ると、安心したのかまた再び倒れてしまう。
「――ここは」
目覚めた私の目が映すのは、真っ暗な空とパチパチと燃える焚火だった。
もたれかけて休んでいた木から起き上がりシスタンを探す。少し離れた場所まで歩くと、広く空いた木々の隙間からシスタンの姿が見えてくる。シスタンもこちらに気付いたのか、こっちに向かってくる。
「おはようございます先生。お体は大丈夫なんですか?」
もちろんだとも、と完全に回復した体をぶんぶんと動かし元気なアピールをするが、柄にもなくこんなことをしてしまうくらいには疲れが残っているらしい。そんな私を見ているシスタンの顔は少し引いているのか、何とも言えない顔をしている。
「えっと………とりあえず、食事にしましょうか」
休んでいた焚火の元に戻り、魔狼の集落でいただいた食料を今日の食事にする。パンや果物といった調理の必要のない質素な食事だが、旅には野宿やこんな感じの食事が醍醐味であり、旅の楽しみの一つだ。私に限っての話だが。
「明日はティトゥーラに着く予定ですから、今日は休んでください」
食事が終わり、シスタンに寝る支度を促す。私が眠っている間、シスタンはずっと起きて私を守ってくれていたのだし、次は私が起きてシスタンを守る番だ。なかなか聞いてくれないシスタンを何とか説得する。
「おやすみなさい。シスタン」
なんだかんだ言って寝てしまうシスタンの傍に腰掛け、何者も立ち入ることが出来ないように、結界を張っておく。暗かった空は焚火の火が段々と消えていくのと逆に、段々とに明るくなっていき朝日が昇っていく。少し離れた場所に流れている川で顔を洗い、戻るともうシスタンは起きていた。
「おはようございます!先生!」
時間的にはまだ明るくなったばかりで、シスタンが寝てから十分な時間は経っていない筈なのだが、もしかすると館での出来事が影響しているのだろうか、あの館での出来事は悪夢のようなものだったし、シスタンもそのせいであまり寝られなかったのだろうか、少しだけ心配だ。
「あまり寝ていない気がするのですが、大丈夫?」
シスタンは『えっ!?』と言い手をわたわたせながら言葉にならない声で、何かを言いながらなぜ顔を赤らめている。よくわからないが、シスタンの何かしらの地雷を踏んでしまったのだろうか。少しだけ申し訳ない気持ちになってくる。
私達はようやくティトゥーラにむけて歩みを進める。なんだか未だにシスタンの様子は少しおかしいが、ティトゥーラに着く頃には元に戻っているだろう。
「ようやく着きましたね!ティトゥーラ!」
朝方に出発し、夕暮れ前にようやく着くことが出来た。夕暮れ前だというのに城門の外からでも若干、音楽の音色が聞こえてくる。その音色は門に近付くにつれてクリアに聞こえてくる。聞こえてくる音は、規律のある音調や、反抗的な激しさが感じられる音調。私は音楽の善し悪しは分からないが、それでも心が躍るような旋律だ。激しい音調に関してはあまりよくわからないが。
「今更ですが、シスタンは魔証を持っていないですよね」
持っていない筈のシスタンが取り出したのは、紛れもない魔証だった。王族なのだから最悪何でもありと言ってしまえばそうなのだが、まぁそれに関しては私の預かり知るところではないので、何かあればシスタンの父親や学長が何とかしてくれるだろう。
私達の番がやってきたようで、私とシスタンは魔証を門番に渡す。私達の魔証を見ると驚いた表情をし、詰所に駆け込んでいく。レンティスと書かれている魔証を見せられたのだから無理もない反応だろう。私達の後ろに並んでいる魔法使いや、商人は列が進まないことに少しだけざわざわしだす。
「か、確認いたしました。どうぞご入国ください」
詰所から出てきた門番の人から魔証を受け取り、城門を抜けティトゥーラに入っていく。目の前には道が三方向に伸びており、真ん中に道に先には大きな広場があり、その広場では楽器を演奏している人たちがいた。
「ブルハ先生!あそこ行きましょう!」
シスタンに手を引かれるままに広場の方に向かう。広場の前には小さい看板に[フリースペース]と書かれており、円を描く広場の外周には、直線の長いベンチが広場を囲むように設置されていた
広場の演奏を聴いていると、鼻腔をくすぐる香ばしい匂いがどこからかしててくる。匂いを追うように視線を向けると、座っているベンチの更に向こう側に光魔法に照らされた簡易的な屋台がいくつか並んでいた。とてもお腹がすく匂いだが、何とか我慢し演奏に集中する。聞こえる音色に集中するために耳に力を入れるが、その効果もむなしく鼻腔にはいい匂いが漂う。
が、演奏している人達はおろか、シスタンは耳を閉じ演奏に集中していた。
これが育ちの違いなのか、などと思いつつ演奏に集中した。
演奏が終わると拍手が起き、私も拍手をしておく。食べ物の匂いにつられはしたが気持ちいい音色だったし、感動もした。
シスタンがさっきも演奏についての感想を雨のように止めどなく浴びせてくるのだが、ほとんどわからず無知の傘でその雨をほとんど弾いてしまう。
分かってあげたいのだが、こればっかりは得意分野ではない。
「演奏も終わりましたし、そろそろ宿を探しましょうか」
演奏の広場を後にして、先程の道に一旦戻ることにしたのだが、もしそのまま広場を突き進んでいれば、面倒なことにならなかったのかもしれないが、いつかは向き合わないといけない問題が私の前に降りかかってくる。傘はさせない。
「ブルハーやっと見つけた」
「――――――」
それは私の一番上の姉の声。呼びかけに答えないのは、私を呼んでいる声では無いのかもしれない、と一縷の希望を抱いているからだ。
初めに弁解しておくが、別に私は姉のことが嫌いとかではない。とても苦手だという事もない。私の一つ上の姉の方がよっぽど苦手だ。一番上の姉は色々と表情に出やすいタイプなので、何を考えているのかがある程度分かりやすく、付き合いやすい性格をしている。
姉はシスタンのように周りをとにかく気に掛けるような優しい性格をしており、姉はその性格からなのか、小さい頃からずっと、ことある毎に私にベタベタしてきていた。私はあまりベタベタされるのが好きではないのだが、姉のその行動が純度100%の愛だからこそ無暗に遠ざけることもできない。あと一つ苦手な点を挙げるとするなら、姉は普段から目つきが悪く、怒った時となるとまぁ、本当に地獄である。
「返事しなさいよ………」
肩に優しく置かれる手の感触とは真反対に、その声色は恐ろしく怒気を含んでいる。私が返事、姉の顔を見たとたんに始まるのは説教。怒っている声や顔は怖いが、その中には愛情がある。――ある。
「あんたねぇ!父さんと母さんがどれだけ心配してるか分かってんの?あの子ですらちょっと怒ってたのよ?それにその髪は何?なんで短くしてんのよ!似合ってるけど!」
「ほんとにすみません姉さん。またちゃんと説明します」
こういう時はまずしっかり謝るべきだ。実際、説明するのにも故郷に帰らなくては出来ないと思っていたので、ここで姉と会って説明の機会が巡ってきたのは案外良いことなのかもしれない。
「それで、その女の子は誰?」
おっと、それはまずい。説明するといっても、それは私の事だけなわけで、つまりシスタンが王族だなんてばれる訳にはいかない。顔でほぼ特定する事は出来るのだが、名前まで教えて確定させるわけにはいかない。
「私から紹介します。この子は"シスタン"ともに旅をしている子です。そして"シスタン"こちらは私の姉であるエルナ・レクエルドです」
「初めましてブルハ先生のお姉さま。あたしはシスタンと言います」
シスタンが先生と言ったところで、姉の視線が一瞬私に向けられるが、レンティスの名を言わなかっただけでも、私の必死のアイコンタクトを理解してくれたのだろう。姉の視線はすぐにシスタンの顔に向かっていく。
姉はシスタンの顔をまじまじと見つめ何やらぶつぶつと呟いているが、気が済んだのかシスタンから私に目線を移す。
「あんた達はこれからどうするの?」
その姉の発言からはうっすらだが、何か嫌な予感が漂ってくる。先程の態度とは打って変わり、どこかよそよそしい態度。故郷にいた時、こういう態度でにじり寄ってくる姉は大概面倒くさくなる。
「宿をとりあえず、確保しようかと………」
「だったら、わたしの泊まってる宿に来なさい」
「――いや………別の………」
「嫌………なの?」
面倒くさくなる、とはつまりこの事。先程は鬼のようになって私を怒ってきたかと思えば、すぐこんな風に弱弱しい姉になってしまう。家族以外でならこんな風に変になってしまわない筈だが、家族相手だと簡単に気が緩むのか、こういう風なことを幼少のころから何度も経験してきている。良くも悪くも感情が表に出やすく直情的な姉だ。はたから見れば、私よりも高身長できれいな黒い長髪の女性が、まるで子供のように駄々をこねているような風に見える。色々と恥ずかしいけれども、改めて言うが私の姉は家族への愛情が深すぎるだけだ。
シスタンに了承を得て、姉の泊まっている宿に向かい、その宿に泊まることにした。流石に部屋は別だ。その後、食事や風呂を堪能しふかふかのベッドに体を沈ませる。
『〈鼻歌〉』
『不快な雑音だな』
『ケモノの君には分からないんだろう』
『ケモノだと?我が盟友の友だとしても………』
『君も僕を不快にされたんだ。お互い様ってやつだよ』
『――チッ、貴様は本当に我が盟友の友なのか?』
『それもお互い様だよ』
久々にふかふかのベッドで寝て、疲れが吹き飛んだのかまた変な夢を見た。
大分時間がかかりました。明日も続きをあげられたらいいんですが、多分上がりません。
主要キャラ以外でキャラの設定だったり、気になるキャラがいれば多分お答えします。
以上です。よろしくお願いします。




