12頁 魔法使いと魔狼 その1
魔証を貰い私は次の旅を始める為、プリンシオを後にする。
私一人の旅立ちになるはずだったのだが、なぜだかシスタンも付いて来る事に。
「それで先生、次はどこに向かう予定なんですか?」
私たちを追って来ていた人はもはや諦めたのか、私達の後ろで呆然としている。
生誕祭の当人であるシスタンは、追って来た人や、生誕祭に対して特に興味はないかのように私の横を歩きながら、そんな質問をしてくる。
「質問に質問で返して申し訳ないのですが、本当に出てきて良かったのですか?」
先ほどシスタンに聞こうと思っていた事を再度聞く。
国王様と何かしらの約束をして国を出てきたと言っていたが、どういう理由があって私の後を追ってきたのかまだ聞いていなかった。
「国民の皆様や、お父様には申し訳ありませんが、先生と一緒にいることの方が大切だって思ったんです。それに学長先生も賛同してくれましたし!」
あの学長であればそう言うだろうが、王女様の責務と私を比べたところで、圧倒的に責務の方に秤は傾くのが普通だと思うのだが、シスタンは迷いを感じさせることのない瞳で私に語りかけていた。
国中でのシスタンはとても人気者の王女様だった。だからこそ、その王女様が国を飛び出したとなると、国民は大騒ぎどころの騒ぎでは済まないだろう。
それこそ、いつぞやのストーカーの生徒みたく、シスタンや私を追いかけて来たり、私がシスタンを連れ出したみたいな変な噂が広がったりするかもしれない。
「次の目的地はどこなんですか!先生!」
まぁ、国内の混乱に関しては、国王様達がなんとかしてくれるだろうし、シスタンを頼まれた以上、私自身にも逃げ場はもうない。
「1番近いのがティトゥーラですから、そこですかね」
「音楽の国ですよね、小さい頃に行った記憶があります!すごく楽しみです!」
私達の次の目的地は、音楽の国【ティトゥーラ】
行ったことのない私でも、音楽の国に関する、ある情報を知っている。
5年前のある日、ティトゥーラではある魔法が開発され、その魔法は今のティトゥーラの一大魔法として確立している。その魔法は遠隔での会話を可能にする魔法であり、詳しい方法はわからないが、その言葉通り、どんなに離れていてもティトゥーラにいる限り、遠隔での会話が可能らしい。
その魔法を開発したのは、近年でも最も天才だと言われている、ライアという魔法使いだ。私は近いという理由のほかに、そのライアという魔法使いに会ってみたい、と思いティトゥーラに行くことを決めた。
ただ、その道中は長く、私の故郷とプリンシオまでの距離よりも長く、寝ることなく魔力使い続けてようやく1日程で着くという長旅になってしまう。
私は特に今急ぐ理由はないので、向かう先々の集落でお世話になる予定ではある。
「ティトゥーラに向かう途中に集落などはありましたか?」
もし、集落も何もないのであれば、野宿する羽目になってしまい、心身の汚れも溜まってしまう。
それに王女様をいきなり野宿させるだなんて、本当に怒られる気がする。
「たしかその方面には、狼に護られている集落があると、お父様が言っていたような気がします」
狼………野生生物が人々を護っているだなんて聞いたこともないが、本当にそんな御伽話のような集落は存在するのだろうか。
朝方から歩くことはや数時間。空に輝く太陽は落ち、丸々の月が夜空に煌めいている。
私達はティトゥーラに向かう道中で夜を過ごすために、とある集落に来ていた。
シスタンの話では、狼に護られている集落だという。けれども、遠くから見ても狼の姿は見当たる事はなく集落にたどり着きどうにか泊めてもらえないか現地の人と話していた。
「可能であれば、どこかに泊めてもらう事は出来ないでしょうか」
「構いませんよ」
意外にも交渉する事なく一夜を過ごせる場所を借りることができた。若干のきな臭さも否めないが、何かがあっても、シスタンだけは守り切る。約束は必ず果たす。
私はそんな不安や猜疑の目を向けているのにも関わらず、ここでもシスタンは馴染むのが早かった。
気づけば集落の人と仲良くなっているし、そのおかげもあってか、夜ご飯をご馳走になってしまったり、疑っている私がバカバカしくなるくらいに集落の人は優しいし、シスタンは自由だった。
その後は用意してもらった家屋で、特に何も起こる事はなく一夜を過ごすことができた。強いて言えば、隣で寝ていたシスタンに何回か蹴られたくらいだ。
夜が明け、朝がやってくる。
私は集落の人に案内してもらい、集落の長に会いに行った。
案内された先で集落の長に会った後、失礼を承知でなぜ私達のことを二つ返事で助けてくれたのかを聞く。
「それはこの集落に古くからある約束事なのです」
約束事、それは狼に関連していることなのだろうか、それともこの集落自体の受け継がれて来た決め事なのか。
「魔狼様が護ってくださる代わりに、外から来る者に寛容になれ、と」
聞いたところでわからないことだらけだ。魔狼様というのは本当に存在するのだろうか、今の話を聞くと古くから伝わっていた言い伝えのような物で、逆にいないのではと思えてくる。そもそもが生物である狼が魔物から人を守れる訳がない。
長の言い方的には狼がそう言っていた、と聞こえるが狼は喋ることなんて出来ない。
「プリンシオとは、何らかの繋がりはあったりするのでしょうか」
もしプリンシオとの何やらかの繋がりがあるのなら、魔物が発生した際に、より素早い救援が可能になる。
それは、この集落が守られている証明になるのだが、
「あちらから物資を頂いたり、こちらが作物などを提供していますね」
長の言い方的には、明確な繋がりのようなものはないような感じがする。
郊外には、国との繋がりのある国があり、そこでは作物や食料を作っており、国にとっても重要な場所であるために、その国の人は魔証とは違う通行証を与えられていたり、魔物が発生した際に知らせる役目を担っていたりするのだが、長の言い方ではそういう関係はないように感じ取れる。
「改めて、私達を助けてくださりありがとうございました」
謎は深まるばかりだが、この集落の人たちには感謝しかない。せめて何かお返しできる事はないかと長や集落の人たちに聞いて回る。
「農作業ですか?任せてください」
時には集落の中にあった農園で作物の種を植えたり、収穫の手伝いをしたり、
「家屋の修理ですか?任せてください」
時には古くなった家屋の屋根を取り替える作業を手伝ったり、建築用の木材を運んだり、
「お子さんの相手ですか?任せてください」
時には集落の子供達と大人達の邪魔にならないところで遊んだり、遊んでいたらシスタンが飛び込んできたり、
「魔狼様への捧げ物ですか?任せ」
「こら!お客さんに何させてるの!」
手伝えることがないかと聞いてまわっていると、魔狼様への捧げ物を持っていって欲しいと頼まれ、請け負おうとすると、その女の子の母親らしき人に止められる。
少女の言い分では本当に魔狼様とやらはいるらしいし、迷惑でないのならむしろこっちが会ってみたい。
「あの、すみません。良ければ私たちに任せてもらえませんか?」
母親らしき人は、目を閉じ唸るように考えると、集落の長に聞いてくるので待ってくれ、といって駆け出して行った。
その間に女の子に魔狼様の事を聞いてみると、おおきくてこわかった、という感想を聞くことが出来たし、集落の言い伝えなどではなく、本当に狼がこの集落を護っているという事なのだろうか。
しばらくすると母親らしき人が戻ってき、私達がいいのなら構わない、と言ってくれたらしく、その言葉に甘えるように、私達は魔狼様の元に向かうのだった。
案内してもらった方向は、集落のはずれにあった草木生い茂る森の中だった。どこか古めかしく、森全体が大きな生き物の棲家のような、何とも表すことのできない空気感が森を支配していた。
「シスタン、国王様は魔狼様に関して何か知っていましたか?」
情報はあったほうがいいに越した事はない。それに魔狼様とやらがただの生体の魔物という可能性も否めない。なんせ私は一度狼の姿をした魔物と戦ったことがあるからだ。
「いえ、お父様も言い伝えで聞いたことがあったのだとしか」
何かしら知っている事を期待したのだが、あの人も知らないとなると本当にいるのかするも怪しくなってくる。でもあの女の子は、見た感想を言ってくれたし、存在するはずなのだが、
「急に暗くなりましたね、ブルハ先生」
シスタンの言う通り、私達の周りは不自然に暗くなる。木々の密度が濃い場所に入ってしまったのだろうか、空を見上げようと上を向くと、空も見えないほどの何かが、私達の視界を阻んでいた。
「貴様達は何者だ。何用があり此処へ来た」
頭上聞こえてくる声の正体を確認するために、恐る恐る一歩、また一歩と後ろに下がる。
ようやく何かの輪郭が露わになり、その上部には凶暴な眼と牙が、下部には肉体を引き裂けるほどの大きく鋭い爪があった。
そう、私達の目の前に現れたのは、集落で聞いたあの魔狼。言い伝えなどではなく、本当に存在した。
が、そんな恐ろしい見た目の狼に対して最初に出た言葉は、問いへの答えでもなく、その恐ろしさを形容する言葉でもなかった。
「――魔狼様、少し匂いますよ」
「――――――――――――」
少しだけ更新ペースは落ちてしまうと思います。ごめんなさい!
魔法使いと魔狼 その2 は明日上げられます!




