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ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜始まりのプリンシオ〜
11/35

11頁 旅立つ魔法使いは二人組

 シスタンと別れた後、私は組織の者と名乗る男と出会う。

その男はプリンシオに来る前に起こった小屋のでの出来事を知っており

私はその組織とやらに狙われている事を知った。



 慌ただしい日々は終わる事なく続いていき、一学年の終わりがすぐそこまで近づいて来ていた。またあれから3ヶ月程経ち、深雪の季節は過ぎ去り、緑色の実りが国の内外で見られるようになってきていた。この季節は別れと出会い、そして新しい旅立ちの季節だ。

 

 3月といえば学院の卒業式という大きなイベントがあり、もう一つの一大イベントとしてプリンシオでは、王女シスタンの生誕祭が行われる。


 学院では卒業式の準備やらで普段以上に慌ただしくなっている。卒業生の担当の先生達はもちろんのこと、他学年の先生達も一緒になって走り回っている。

もちろんそれは学長も例外ではなく、魔証の作成や確認に追われていた。私はというと勝手も何も分からないので、頑張ってくれていたんだなぁ、と思うことしか出来なかった。


 一方で街中も3月に入ると忙しくなってきている。

もう一つの一大イベントである、王女シスタン・レンティスの生誕祭に向けて国中でお祝いをするという規模感の大きすぎるお誕生日会だ。

具体的に何をするかは分からないが、私の故郷では物品が安くなったり、レストランでのサービスが発生したり、様々なお店で生誕祭に関連づけた催し事が開催されていた。


 街中では、王子王女様の凱旋であったり、当人である王族が集まった人々に感謝を伝えるスピーチのようなものがあった。

言葉だけで思い返すと、あまり想像がつかないが、規模も、国家的な本気度合いも凄まじく、その1日が王族の生誕祭で埋め尽くされて、他の一切が入る余地がない程に、人々はそれに夢中になっていた。


 この生誕祭には大きな意味があり、これから国を背負って行く王族の認知拡大やそれに相応しい姿を見せるという意味合いもある為、生誕祭で一番苦労する立ち位置はというと、祝われる当人達であろう。

古くは約3000年前から続いてきた国の主になるであろう重責、重すぎるような栄光を背負いながら王族は生きていかなければならないのだろう、それは王女であるシスタンも例外ではないのかもしれない。いや、シスタンは嫁ぐ側なのだから、シスタン自体は国を背負うことはないのか?

――まぁいいか。


 私の臨時教師の期間も終わりの時間が近づいてきていた。

卒業式の日、私は約束の魔証を貰うため学長室まで来ていた。


 「約束通り来ましたよ、学長」


 卒業式が終わり疲れているであろうはずの学長は、何故か気分が良さそうに校長室で紅茶を飲んでいる。まぁその理由については今になっては何故?と問うまでもなく分かる。

この6ヶ月で気づいたのだが、学長はアレだ、優秀な魔法使いを見る、ということ自体が好きなのだろう。


 学長の願いは、次代の偉大なる魔法使いを自らの手で生むことだと言っていし、プリンシオの国王様を見ると、学長がどれ魔法に対して熱心であり、教えて事自体も上手なのかがわかる。たとえ絶大な魔力を持ち、偉大な祖先がいたとしても、自分の力を制御できなければ、宝の持ち腐れどころか、厄介すぎる爆弾を抱えてしまっているだけだ。

学長の願いは自体は本当に純然たるものであるのだが、何故なのか私に対してはやり方がおかしかった。


 「では国王に会いにいこう」


 てっきり学院関連であるのだから、学院で発行できるものだと思っていたが違うらしく、学院を卒業したものには学院のトップが魔証を発行する権利を持つが、特殊な例である私みたいな者には国王直々に発行する必要があるらしい


 「こんにちは。国王様」


 二度目の門をくぐり、国王の待つ場所にたどり着く

カーペットの先に座する国王様達に軽い挨拶をしながらカーペットを歩く。

私の横にいる学長は、私のその行為にはぁ、とため息をつく。

座す国王様達の近くにいる側近のような人も、私に対して怪訝そうに眉をひそめている。


 そんな2人とは対照的に、国王達は何故か笑っている。

6ヶ月前に国王達と初めて会った時に畏まる必要はない、と直々に言われたのでそうしたんだから、別に失礼なことをしたわけじゃない、筈だ。


 側近のような人の突き刺さるような熱い視線を受けながら、私はカーペットを歩き国王の元へ着く。

国王様は腰を上げ、椅子から立ち上がり、わたしの方に降りてくる。

国王様は、懐から何かを出したかと思えば、私の前にあるものを差し出してくる。それは私にとって今1番必要なものである魔証なのだが、何か他のとは少し違うようで、


 「汝に魔証を授ける。これはプリンシアの国王である俺が、貴様のバックに付くと言う事だ。」


私はこの当初、この言葉の大き過ぎる意味に気づいてはいなかった。ただこれで他の国に出入りすることができる、としか思っていなかった。

どうりであの時、側近のような人は口を開けたままフリーズしていたわけだ。


 魔証を授けられた後、また食事に誘われたが、今回は遠慮することにした。その代わりと言っては何だが、お願いを一つしてみた。

 

 「ありがとうございます」


 私はフリーズしていた側近だった人に案内してもらい、ある人物の部屋の前に来ていた。


 「こんにちはシスタン、ブルハです」


 コンコンコンと、扉をノックして部屋の主人を呼ぶ。

するといきなり部屋の中で、ドタドタバダバタという音が聞こえる。

大丈夫ですか?と扉越しに聞くと、スッと音が消え扉が開く。

    

 「ど、どうなさいましたか?ブルハ先生」


 「国を出ようと思うから、挨拶を、ね」


 そう私が告げるとシスタンは思っていたよりも、違う反応を見せる。

私が国を出る事をシスタンに伝えると、シスタンは悲しんだり、私を止めるようなことはせず、逆に喜ぶ仕草をしてくる。

別に悲しくはないが、学院の仲のいい生徒達でさえ、少しは悲しんでくれたから、ほんの少しだけ、意外だっただけだ。


 その後もシスタンは念入りにいつ出て行くのか、と事細かに聞いてくる。しかし私が予定している日時を伝えると、シスタンは初めて若干の戸惑いを見せる。

その後、ほんの少し話すと私は、おそらく最後になるであろうシスタンとの会話を終わらせたのだった。


 国を出る日の前日、私は夜空を見上げて星を眺める。

魔証をもらって今日に至るまでの数日で知ったのだが、シスタンの生誕祭の日にちは、私が旅立つ日と一緒だったらしい。

慌ただしくなっていた街中で、生誕祭の話だけは聞いていたのだが、正確な日時は知らなかった。

せっかくだからお祝いをしてあげたいが、あんなにも私が去ることを喜んでいたのだし、私がいたら逆に邪魔になってしまうかもしれない。

せっかくの生誕祭なんだ、楽しいことで埋めつくされているほつがいい。

明日は私にとってのまた新しい旅路の始まりでもあるし、シスタンにとっても新しい旅路の始まりだ。


 いずれどこかで道は重なるかもしれない。

空に瞬く星は、あの子と同じように眩く見えた。


 ここプリンシオでの私の役割は終わったので、次の旅を始める為の準備をする。宿の部屋に広げていた私物をカバンに詰めて部屋から出る準備をし、次どこで休めるかも分からないので、ゆっくりと風呂に浸かり、体を清潔にしておく。全ての準備が終わり、私は部屋の扉を開けて外に出る。


 街へ出ると私の予想を超えるほどの喧騒が街を包んでいた。どれだけシスタン、もとい王女様が人気なのかがよくわかる。

私は、そんな街の喧騒をよそに国の門を抜けて次の旅へ歩みを進める。

もらった魔証を見せると門番の人は、なんかすごい形相で私を見ていたがアレは何だったのだろうか。


 しかし今日は、本当にとてもいい天気だ。晴れの日、と言うのは個人的にはあまり好きではないのだが、好きではないこの晴れ模様ですらも、私の旅立ちを祝福してくれているようなそんな気持ちに…………


 「せんせーーーーー」


訂正しよう、今日の天気は一面の晴れではない、晴れのちシスタンだ。空からシスタンが降ってきたのだ。


 何故ここに?と聞こうとするが先に聞こえた後ろの声に先を越される。

シスタンを呼ぶ声の主は身なりの整ったどこかで見たことのある顔の人だった


 「お待ち下さい王女様!今日はあなた様の生誕祭ですよ」


 「わかってるー!でもお父様と約束したものー!」


 シスタンはそう言葉を交わしながらも、一直線に私の方に向かってくる。そんな彼女の服装は、学院や街に出た時のとは違い、いつぞやの服屋で買っていた洋服を着ていた。


 「ほら先生!いきましょ!」


 やはり今回も私はシスタンに腕を引っ張られ、どこかへ連れていかれるように、私の物語は動き出していく。

シスタンはあの国王様と何らかの約束をして、国外へでるとこを取り付けたのだろう。

王妃様も言っていたが、シスタンは父親似の性格であり、その性格は割と無茶奔放だったらしいし、こうなることを見越して、王妃様達は『シスタンをよろしく頼む』と言っていたのだろうか。そして王妃様はこうなることを見越して『苦労するでしょう』と言っていたのだろうか

まぁ国王様達がが納得しているのなら、多分問題はないだろう。うん。

 

 一方王城では――――

「シスタンはどこへ行った!?」

「王女様は部屋にはいなかったぞ!?」

「まさか街に勝手に出ているのではないか!?」


――――まぁ大混乱である

    

 一方で国王達はというと

    

 「シスタンは行ってしまったのだな、全く誰に似たのやら」

  

 「まぁ、こんな所にいるより、ブルハの元にいた方が良いだろうからな」

   

 「何だとぉ?」

      

 「ふふっ、何だか懐かしいですね」


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