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ある魔法使いの物語  作者: 座れない切り株
〜始まりのプリンシオ〜
10/35

10頁 魔法使いの休暇(その後)

 急に宿に押し掛けてきたシスタンに連れられるままに街に引っ張り出されデートが始まった。あるレストランで変な魔法使いと白髪の魔法使いと出会い、相変わらず面倒後に巻き込まれそうになったが、シスタンはとても嬉しそうだったので、万事オーケーだ。



 シスタンと別れた後、宿に帰るために帰路につく。いつもはもう少し早い時間に宿に帰るので、薄暗い空の下を歩くのは久しぶりだ。

薄暗い夜道でも人はそれなりに通っている道なので、人目につかない所に敢えて行くようなことをしなければ、どこの国でもとりあえずは安心である。


 それでも、変な人間とは一定数存在するもので、レストランの勘違い男もそうなのだが、誰かの後をつけるような変な人間もいる。

今日は厄日なのか、誰かが私の後をつけてきている気がする。尾行してくる相手は存在感を消すことはなく私をつけてくる。


 流石に宿までつけられるのは許せないので、敢えて細く狭い路地に誘い込む。敢えて暗がりに行くのは、私にも危害が及ぶかもしれないが、暗がりの方が都合の良いこともある。

明かりに照らされたいた道から、光のない暗い道に入っていく。


 入って少し歩いていると、私の後ろの方で物音が聞こえてくる。暗いとはいえ周りの壁を認識できるほどには、明るい。人の顔もちゃんと見える。


 暗がりから出てくる私をつけていた犯人は、誰かを抱えている大柄の男だった。

大柄の男はラフな格好に身を包んで、見た感じは世帯をもった温和そうな魔法使いのような印象に感じる。そんな男が尾行までして私に何の用なのやら。

 

 「この間はうちの組織の者が世話になったな」


……私はこの男を知っているのか?――いや、私はこの男に見覚えがない。そして当然、組織なんていうのに心当たりはない。

 

 「勘違いされているのではないですか?」


 男は少し黙った後、抱えたままの誰かを下ろすと、私が家から出たばかりで起こった小屋での一件について話し出した。あの小屋での一件は国王様にも詰められれた頭痛の種の一つであるのだが、男が言う、うちの組織の者とはその小屋いた男達の事らしく、急に連絡が取れなくなり急いで小屋に向かったのだが、そこには人一人おらず、物資の一つも残っていなかったらしい。

そしてその犯人を調べるために男が使わされ、今ここにいる、と。


 もしこの男が小屋での一件の人達と関わりがあるのだとしても、あの小屋にいた人達は全員捕まっているはずだし、あの場でのほかの目撃者はいないはずだ。つまり情報はほぼ無いに等しいはず。なのに男は、私で間違いないと言い切ってくる。


 「なぜ私であるという確証があるのですか?」 

 

 男は少し迷ったそぶりを見せると、『まぁ、いいか』と呟き自らの指を瞳の近くに持っていく。彩度の分からなかった男の瞳はたちまちに赤く変色していく。その瞳は暗闇でもよく分かる程に真っ赤に染まっていた。

  

 「俺の目は特殊でね。魔力の大部分をこの眼に持っていかれてる」 


 男は真っ赤に染まった瞳を指差しながら、自らの特殊な力について語り始める。男の目には相手の魔力を視るという力があるようで、件の小屋に一番近い国であるプリンシオで、魔力量の多い魔法使いを探し私にたどり着いたという。

 だがそれだけでは、私という証拠にならないはずだ。

  

 「私の他にも魔力量の多い魔法使いはいると思いますが」


 私はまだ17歳。上位魔法もろくに扱う事の出来ない若輩者の魔法使いだ。それに腕っぷしに関しては下の下だ。

 

 「こいつが言っていたんだが、あんた最近ここの学院の教師になったそうじゃないか」 

 

 男は倒れたままの人を指差し、そう言ってくる。男曰く、私を調査という名目で監視していた所に現れ、ぶつくさ言いながら私の尾行をしていたらしい。 

よくよく顔を見てみると倒れていたのは、学院一日目の日に私に罵詈雑言を浴びせていた生徒だった。

 何故この子が私を尾行していたのか分からないが、その子が言っていた事と、小屋での一件には因果関係はない筈だ。


 「それだけでは理由にはならないと思いますが」 

 「あんた、ここの王女様に気に入られてるんだってな、王族と関わってる魔法使いなんて、なぁ?」


――ここでもシスタンと一緒にいる弊害が出ているとは思ってもいなかった。学院でシスタンは、あからさまな特別扱いや、距離を置かれていることなんてなかった。普通に学院の友達と喋っているのを見かけたし、同世代からも、ちゃんと好かれる王女様、いや学院の生徒だった。

しかし、その好きという度合いが違う生徒も少なからずはいる筈、というかいた。そこに倒れている生徒もその一人だろう。

まぁ、そこに私が突然出てきたからというわけなのだろうか。――はぁ。


 「それで、私を始末しにこられたんですか?」


 「ただの調査って言っただろ?急に現れた不確定要素を調査しに来た。始末なんてしないさ」


 調査、つまり私はどこかの組織とやらに狙われる魔法使いになってしまったという訳だ。そして恐らく、国王様達はこの組織の事を探している筈だ。面倒事に巻き込まれるのは嫌だが、人を襲う連中の仲間に会ってしまった手前、簡単に見逃すというのはできない相談だ。


 「悪いが捕まってやることは出来ない。だがあんたとは個人的に良好な関係でいたい」


 男は私に向って何か投げてくる。受け取ったそれはどこかで見たことのある形をしており、その中には黒紫色の何かが渦巻いていた。男がそれについて喋る前に私はそれが何か気付いた。

これは魔力阻害の効果を持つ気体を閉じ込めた瓶であり、これを渡す代わりに見逃してほしいという事だろう。本当は出来ない相談なのだが、男が逃げていく際に言っていた言葉に免じて見逃すことにした。



 『俺は、うちの組織のボスを助けたくてこの組織にいる。また次出会えたら詳しく話す。じゅあな!』


 もちろん男の言っていることが嘘の可能性のあるが、少なくとも誠意は見せてくれた。この魔力阻害の瓶はそれ程までに大きい価値を生むものだ。


 あの男の瞳、魔力の大部分を持っていかれていると言っていた。つまるところ魔法を使うことができないという事だろうか。

あの小屋の男達も魔法を使うことなく物理的に襲ってきていた。最初からこの魔力阻害を使うつもりだったからなのか、魔法が使えないのか。なら、その組織のボスとやらも魔法が使えないのだろうか。


 魔力とは先天的なものだ。努力次第でどうにかなるような優しいものではない。

――もし誰も魔法を使うことができなくなれば、この世界は平和に進んでいくのだろうか。

私はそんな答えの出ることのない自問自答をしながら、暗い路地から明るい表通りに出て宿に帰るのだった。


 ちなみにだが、私を尾行して、あの男に気絶させられていた生徒に関しては、一応表通りに近いところまで魔法で持ち上げて、雑に放置しておいた。

まぁ自業自得なのだし、放置した私が悪い、なんて事はないだろう。

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