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小さめ(それでも3階建て)の建物にたどり着き、すぐさま入った。その後はある部屋に友希を寝かせたのを確認したリーダーが晴衣を特別な部屋へ案内する。
豪華なベットに横たわらせ、リーダーは呟く。
「あっさり手に入れれたな。このお方は実験体だ。くれぐれも怪我させないこと。あと、目を覚ましたら、美味しい料理でも出しておけ。いいな」と部下に命令する。
連れてこまれてから5時間が経ち、友希は機械によって目覚めさせられた。
すっかり日は沈み、月の光が窓から射し込む。
「ここは・・・」
「お目覚めかね」
友希は叫びたくなった・・・目の前にいたのは他でもない、お父様なのだから。
「お父様・・・」
「学園には転校という名目で届出を出し、受理させていただいた。つまり、君は再びこっちの人間というわけだ」と言い終えるとお父様が笑った。
「なぜですか・・・」
「あの実験体がひどく懐いているのが友希だからだ。そうだろう?」
お父様は何故、私と晴衣の関係を知ってるんだ・・・と思いつつ、聞いてみる。
「晴衣は・・・どこ?」
「ああ。あの実験体なら、あの部屋にいるはずだが、来るか?」
お父様の言葉に頷き、晴衣がいる部屋へ向かった。
3分ほど歩くと、部屋に到着する。
お父様は無言で頷き中に入れと言っているようだった。
友希はおそるおそる中に入る。
とても豪華な部屋のベットの上にいた晴衣は、友希を見るとすぐさまおぼつかない足でやってくる。
「晴衣・・・なの?」
「うん・・・晴衣だよ・・・」
友希は何を言おうか悩んだが、晴衣を抱きしめた。
「ごめんね・・・守れなかった・・・そのせいで・・・」
「謝らなくていいの・・・友希先輩がいるのなら、それでいい・・・」
晴衣はすごく冷静に言う。
その様子を見た友希にはすぐにわかった。生きていることを自分で理解してない。つまり、ただの兵器として使われることを望んでいるかのようだ。
「ねえ、本当に晴衣なの?」
違和感を拭えない友希に、晴衣は「そっか」と呟いて椅子に座るように指示する。
「ここに来てから、ずっと、違和感ばっかりだった。自分じゃない何かが「壊せ」と囁いて、まるで、自分じゃない何かに主導権を握られてるかのようで、何かに意識を乗っ取られることもある・・・」
静かに友希は晴衣を見つめた。
「晴衣。一つだけ聞いていい?」
友希は覚悟を決め、ある質問を問いかける。
「晴衣は、・・・を知ってる?」
「どんな実験かは知らない・・・ただ、私に施される実験はそれだって、言ってた・・・。でも、これでいい。私が変われるのなら・・・どんな実験も受ける」
友希は確信を持った。晴衣は・・・実験を受けることを拒んでない。いや、拒むことが出来ないのだ。
「晴衣・・・実験は、いつやるの?」
「明日・・・だから、この薬飲んでって言われた」
晴衣が出した錠剤は友希からしてみれば、見覚えのある薬だった。
「その薬は・・・!」
「知ってるの?」
晴衣の疑問に友希は頷く。
「私も、同じ実験を受けたことがあるから・・・」
晴衣はここで友希のことがわかった。
「友希先輩は・・・ここの実験体だったってことですか?」
「そうだ。友希は我が最高傑作の一つである」
答えたのは友希ではなく、部屋に入ってきてたお父様だった。
「君が晴衣だな。明日の実験、頑張りたまえ」
「はい・・・」と晴衣は言うが、震えていた。
我慢できなくなった友希は部屋を出ようとしたお父様に声を荒らげて言った。
「お父様!なぜ、晴衣にあの実験を行うのですか!?あれは・・・危険です!!!」
「友希。時代が変わったのだよ。君でさえ失敗したあの実験、限り無く成功させてくれるのが他でもない、晴衣なのだ。そしてこの実験は、記憶を捏造し、別の人格に書き換えるだけに留まらず、我々への忠誠心でさえ埋め込むことができるだろう。そのためにも、あの種を芽吹かせる必要がある。長話はここまでだ。明日、頑張れよ。晴衣」
お父様が出ていくと、晴衣は身体を震わせて、友希に抱きついていた。
「どうか、今日だけ、一緒にいさせてください」
「晴衣・・・わかったわ・・・今日だけよ」
友希が外にいる見張りに事情を話す。
「許可が取れたわ」
他愛もない話をし、楽しんだところで、気づけば日付が変わろうとしていた。
晴衣が眠そうにベットに入る。
その様子を見ながら友希は自分がなぜここに連れてこられたのかを考えてみる。
「お父様は、晴衣の面倒を見るためといってたが本当は、私に埋め込まれた“あれ”を開花させるつもりじゃ・・・」
お父様の狙いが益々わからなくなった友希。
次の日、晴衣が実験室に行った。
遅れること5分、友希もまた、別に実験室へ連れてかれた。
「お父様・・・これは・・・」
「そうだな。友希の種を芽吹かせるための実験だ。晴衣も今頃同じ実験を受けてることだろう。さあ、始めよう。実験開始だ」
この実験が、世界のバランスを壊す羽目になることなど、知る由もない。