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友希は夜空を見上げた。

「お父様・・・本当に、やるのですか?それに、あの実験のために後輩を使うのは許したくない・・・いいえ、許しませんから・・・」と覚悟を決めた時、脳裏にある出来事が過ぎった。


ー今から10年前

 私は7歳で、その時は実験所にいた。

 そこは強い能力者を生み出す場所で、多くの子がいた。

 私が言うお父様は血の繋がった父ではない。生まれも育ちもこの実験所。

 どうやって多くの実験体を用意するか?答えは簡単。

 媒体を使って、能力者を生み出すの。

 私もそうだった。目が覚めた時からすでに思考が制限されていたのを覚えている。


 辛かったことがある。 

 それが、椅子に拘束され、電流を流されながら

 「友希!貴様は失敗作だ」と実験員から言われたこと。

 成功するはずがない・・・あの実験は、人の大切な何かを壊す悪魔そのもの。

「さあ、もっと破壊しろ。お前らはそのために生きているんだ」とお父様から言われたあの日。

「はい」としか言えず、拒否することが出来ず、失敗作を壊し続け、お父様から褒められたあの日。

 全てが、辛い。

 そう思うながら暮らしてたある日、訓練がメニューからなくなった。訓練がなくなった代わりに、勉強が入っていた。

 それは、一般人の生活などを叩き込まれるというもの。

 勉強をはじめて5年が過ぎた頃。年齢でいえば12歳の時。初めてお父様に呼ばれた。

「入れ」

「失礼します。お父様・・・私に何か用でしょうか?」

 お父様は紙を差し出した。

「これは・・・」

「近々開校する能力者学校だ。上の方から推薦が来たから、誰に行かせるか悩んで、お前を選んだ。わかってるよな?何をするか」

 お父様の鋭い目つきに私は震えながら、やるべきことを復唱した。

「学校に入学し、いつでも襲えるように準備を整え、例の実験にふさわしい実験体を探し出すこと」

「そうだ。さあ、行ってこい」

 それが、お父様と実験所で話した最後のお話だった。

 それから私は試験を余裕でクリアし、入学してきた。

 最初は怖かった。でも、気づけばみんなと仲良くできて、高等部に昇級することもできて、序列一位になることもできた。

 なのに、なぜ、このタイミングでお父様が連絡してきた?それに、晴衣に種を植えたってお父様は言っていた・・・でも、なぜ晴衣に植えた?

 考えれば考えるほどお父様の意図がわからなくなる。

 でも、一つだけ言えるのは、近々精鋭たちがこの学園を襲い、混乱している隙に晴衣と私を回収してくる予定。ならば、それをどうにかして食い止めないといけない。

 でも、あの精鋭にはきっと、“秘密装置”を持ってくるはず。それを出されたら、私は抵抗はできずに回収される。一体どうすれば・・・

 悩み続けて気づけば朝を迎えていた。

「行かなきゃ・・・晴衣を守らなきゃ・・・」

 私は、重い足を動かして特等席へ向かった。

「友希、おはよ・・・おい、顔色悪いぞ」

 蒼真が心配して駆け寄ってきた。

「ん?大丈夫だよ・・・うっ」

 危なげなく蒼真が倒れそうになった友希の体を支える。

「何があった。言ってくれ」

「大したことじゃないよ・・・うん。強いて言うなら、嫌な予感がするってことくらい・・・それに、昨日、恋歌が誰かに襲われたの・・・」

 蒼真が驚きながらも冷静さを保ち続けた。

 学園長の珠洲は察したようだ。

「ならば、なおさら対策を用意しなければいけないな」

 珠洲はまるで、何かを見通しているように頷いた。

 その後、試合が行われている裏で色々話が進んだらしい。

 そのことを晴衣や他の生徒は知る由もない。


 昇級試験も終わりが見えてきた。

 晴衣は無敗のまま残り3戦となった。

「晴衣さん・・・お願い、勝って・・・!」と願う炎夏。

 既に炎夏は試合を終わらせている。結局、晴衣に負けた試合以外は勝ったため、ほぼ確定で昇級が確定した。

 同じく初日の朝、晴衣と絡んでいた憐は全勝で昇級が確定している。

 なお、通常は1週間かけて行われる昇級試験だが、想定よりも早く終わる試合が増え、時間などが早まった場合は、1週間経たずに閉会式を迎え、昇級する生徒が判明するというもの。

 今年は晴衣や炎夏など、実力者揃いによる試合時間の大幅な短縮により、1週間ではなく5日間日程になった。

 そして今日は3日目。今後の日程は、全試合が今日中に終わり、4日目は丸1日休憩が入り、5日目に閉会式や表彰式が行われる。

 というわけで、3日目の晴衣の試合から1試合をピックアップしてお届けする。


 それは午前の部最後の試合だった。

 相手は弓だった。一見すると不利かもしれないが、晴衣は笑っていた。

 いつもの相剣を構え、神経を研ぎ澄ませていた。

 「いっきまーす」と半分、眠そうな顔で1回足を踏み込めば加速する。

 まるで化け物だ。弓の発射速度と角度を瞬時に計算し最適解を出す。晴衣にしか成せない技である。

「さよなら」静かに氷の剣で峰打ちする。

「決まったああああ!!!!晴衣選手、不利対面の弓使いにノーダメで勝った!!!」

 ウオオオオオオオと歓声が湧く。

「この時点で昇級確定だ....やった...」


 こうして晴衣は無敗で昇級が確定し、さらに午後の部の試合も全て勝った。

 控え室に向かう途中で炎夏が待っていた。

「炎夏!!!」

「晴衣さん・・・私、一緒に進級できて良かったです」と涙する炎夏。

「私も、嬉しい」晴衣が微笑む。


 4日目は特に何事もなく過ぎていき、閉会式を迎えた。

「学園長からのご挨拶です」

「諸君ら。まずはお疲れ様。大変だっただろうが強さを見せつけていた。素晴らしい。惜しくも昇級できなかった者もいるだろう。ただ、そこで終わりではない。まだ可能性はある。さあ1歩進むのだ」と学園長の珠洲が告げると涙しながら学園を去る生徒が消えていった。

 閉会式は終わった。

 そして晴衣は1度炎夏と別れ、特に理由もなく学園に戻ろうとした瞬間、大きなサイレンが鳴った。

 これが、全てが狂い出す合図であり、運命の分岐点でもあった。

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