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朝一、晴衣は準備室にいた。

 なにせ今日は3月5日、昇級試験の1日目。

 昇級試験は1週間かけて行われる。

 晴衣は第一試合だった。

 ただ、剣を見て瞑想を積んでいた。

 

 練習場には高等部の生徒も多く見に来ていた。

 ほかの中等部(1、2年)は普通に授業だが、午前授業なので午後からは試合を見に来る人が多くなる。

 特等席にいたのは高等部の制服を来た生徒4名と学園長の柊珠洲ヒイラギスズが座っていた。

 特等席に座ってた高等部の生徒の一人である白髪のツインテールの生徒会長兼高等部序列一位である東雲友希シノノメユウキは学園長に聞いた。

「学園長、今年の昇級試験はどうなると思いますか?」

「そうだな」と1呼吸置いて学園長が呟いた。

「黒影晴衣の・・・独壇場だろうな」と断言すると友希を含む4人の生徒は息を飲んだ。

「彼女の動きを君たちは知らないだろうから、この機会に見るといいさ。人と人ではない者の中間にいる学生の力を、ね」

すると、まるで映画館にいるかのようにコーラを飲みながらポップコーンを食べている銀髪のショートボブの生徒こそ、高等部序列二位の鈴白恋歌スズシロレンカ

 恋歌は友希にポップコーンを差し出しながら言った。

「食べる?ポップコーン」

 するとポップコーンの箱を奪った男子生徒が恋歌に教える。

「恋歌・・・友希は・・・ポップコーン食べれないんだぞ」

「え?そうなの?」

 友希は申し訳なさそうに首を縦に振った。

「ごめん」と素直に謝る恋歌。

 そんなポップコーンの箱を奪った青髪男子生徒の名前は、序列三位の柚希蒼真ユズキソウマ

「ポップコーン、塩味が良かったな」とキャラメルポップコーンをもぐもぐ食べながら言う。

「はぁ・・・静かにしてくださいよ。というか、彼は相変わらず爆睡してるんですか?」と言って椅子で眠っている赤髪男子生徒を見つめる友希。

 友希が“彼”と言ったのは、序列四位の雫月葉瑠ナツキハル。ゲーム大好きで徹夜常習犯。

以上、序列四位までのメンバー紹介でありました。


 昇級試験の開会宣言は済ませている。

 現在時刻は8時30分。

 昇級試験の流れは基本的には変わらない。

 8時50分、午前の部スタート。

 12時00分、昼休憩。

 13時00分、午後の部スタート。

 17時00分、日程終了。

 ここでルール説明を。

 1試合20分。

 昇級試験で使う練習場は全部で4会場。

 相手が降参もしくは気を失った場合、試合終了。

 試合時間が過ぎた際には先生及び試合担当の審判の判定で勝者が決まる。

 武器使用は認められている。

 なお、対戦相手を殺すのはダメである。

 あたりまえだ。

 以上ルール説明終了。


 準備室に1人の男子生徒がやってきた。

「何か用?」と晴衣は剣を手入れしながら訪問者に聞く。

「相変わらず冷たいですね」と笑う男子生徒。

「別に関係ないでしょ。あんた、別会場で試合でしょ?ここに来るなんて暇人なの?」

 グサッと刺さった男子生徒はため息混じりで言う。

「僕の名前、覚えてないですよね?」

朱登憐シュトウレン。だったかしら?」

 朱登憐、赤髪の男子生徒。

 銃を扱う人。成績は優秀だが、性格に難アリ。

「覚えているんですか」

「とりあえずね・・・まあ、そろそろ時間なんで行きますよ。くれぐれも負けないでくださいよ」と言い残して準備室から出て行った晴衣。

 ただ一人取り残された憐は名前を知っていてくれたことを嬉しそうにガッツポーズをして自分の会場へと向かった。


「水鏡学園の諸君!これから始まるは高等部への昇格をかけて行う昇級試験!第一練習場で行われる全試合の実況は私、高等部2年の真白結花マシロユカ。解説は中等部3年の担任、餅神花乃モチヅキカノでお送りします。花乃先生、今回はどんな結果になると思いますか?」

「そうだね・・・多分、飛び出て強い生徒を見ることができると思うよ?」と花乃が言う。中等部3年の生徒をこの1年間見てきた先生だ、説得力が半端ない。

「では第一試合、選手紹介をします。赤コーナー、中等部3年の春に編入してきた新参者。黒影晴衣!」

 晴衣は無言でお辞儀をし、歩みを進める。周りの歓声もシャットアウトし、ただ試合に集中している。

「青コーナー、灼熱の業火で数多の物を燃やし尽くした中等部3年最強の生徒、紬葵炎夏ツムギエンカ!」

 短剣を構える赤髪のポニーテールの女子生徒がやってきた。実力は確かなもので、入学試験で好成績を収めた中等部の首席である。

「初めまして。晴衣さん。今日はあなたを負かせに来ました」

「あっそ。編入してきたことが気に食わないのね」

 晴衣の的確な指摘にイラついた炎夏は条件を提示してきた。

「そこまで言うなら条件をつけて戦いましょ。私が勝ったら晴衣さん、この学園をやめて。晴衣さんが勝ったら願い事ひとつ叶える。これでいい?」

「いいよ」

「それでは第一試合、開始です!」

 結花がアナウンスすると、ピストルが鳴った。

「降り積もれ、結晶」

 晴衣が左手に持っていた氷を纏った剣を床に突き刺す。

「氷は炎に溶かされる運命!」

 炎夏が炎を短剣に纏って攻撃してくるところを目を閉じた状態でかわす。

「おおっと、晴衣選手、相手を見ず攻撃を回避し続けてます!」

 多くの生徒にどよめきが起きる。

「隙だらけだね・・・固有能力、発動」

 晴衣が目にも見えぬ速さで加速した。

「おおっと晴衣選手が加速した!?」

「これは、決まったかなー」

 花乃がニヤリと笑った。

 

 ーー特等席では・・・

「なんなの・・・!!いくらなんでもあの動きと加速は、人じゃない!」

 友希は驚きつつも学園長の珠洲に聞いた。

「彼女は、一体何なの?」

「だから言っただろ?晴衣は半分人を辞めてるんだ。まあ、この例えは正直なところ、正しくないがな。彼女のことは後で説明するとしてこの試合、残り10秒で終わるよ」

 珠洲が言う通り、固有能力を使ったあとは一方的な試合だった。

「これで、終わり」

 晴衣が右手に持っていた雷の剣を使って峰打ちしたところで試合終了。

「試合終了!記念すべき初戦の勝者は、黒影晴衣選手だ!試合時間1分。これは昇級試験始めてから史上最速の試合時間です。ほかの会場の試合はまだ終わってないようです。皆様、第二試合開始までしばらくお待ちください」

 晴衣は炎夏を抱えて歩き出す。

「一応、医務室にお願いします」

 晴衣は救護班にお辞儀をして、次の試合に備えることにした。


 話は特等席に戻る。

「黒影晴衣。彼女は少し特殊な固有能力を持っている。まあ、人前では見せないから知らなくても当然だろうけど。人間離れした加速力、機動力は全て彼女の固有能力さ。簡単にいえば、身体強化といったところか」

 珠洲の説明に納得した3人。引っかかっている点を恋歌は珠洲に聞いてみた。

「それなら、あの動きにも納得が行きますね・・・でも、なにかに怯えているような目をしてましたけど?」

 珠洲の目付きが変わった。

「お前には見えたんだな。彼女が縛られているのを」

 他三人(一人爆睡中)が首を傾げる。

「ええ・・・まるで、この世界を・・・」

「そこまで読めるのか・・・。まあ詳しい話は後で話すとしよう。次の試合だ」

 恋歌の固有能力の一つは、事象予測。

 相手の様子や行動を見ただけで、ある程度の先の予測を立てることが可能。精度はそれほど高い訳では無い。

 戦闘では相手の次の動きを考え、行動することに生かすことが可能である。

 この後も試合は続き、ようやく昼休憩になった。

 ちなみに晴衣の二戦目も午前の部で行われたが、試合時間は1試合目よりも短い30秒弱で終わった。

 午前の部で行った試合は4会場合わせて30試合を超えている。


「炎夏さんに何を頼みましょうか・・・」と芝生で手作りサンドイッチをむしゃむしゃ食べながら晴衣は考える。

 その時、「見つけた!」とおにぎりを食べながら炎夏がやってきた。

「炎夏・・・」

「頼み事は何かしら?退学でもなんでもいいわよ。覚悟は決まってるから」

 晴衣が炎夏の肩に手を置く。

「退学はしないで・・・。そして私の願いは・・・友達に、なって、欲しい・・・」

「・・・え?そんなのでいいの?」

 炎夏が目を丸くしている。

「う、うん・・・炎夏と戦って気づいたの。炎夏は・・・私の過去を言っても許してくれるのかなって・・・」

 炎夏が思わず泣き出す。

「う、うわああああん」

「え、あ、ハンカチ、ハンカチいる?」

 泣き出すこと3分。泣き止んだ炎夏は芝生に寝っ転がった。

「ぐすん・・・まさか、晴衣さんから友達になって欲しいなんて言われると思ってなかったから・・・それで、晴衣さんの過去って何?」

 炎夏が起き上がって鮭おにぎりを食べ出す。

 晴衣は自分の大切なブレスネットを握りしめながら話を始める。

「私の両親は、一般人。本来なら能力者は生まれない、そうでしょう?」

「それは普通に学校で習うわよ?まさか・・・」

 炎夏が気づく。

「そう・・・私は存在自体珍しいのよ・・・。一般人同士で生まれた能力者。あとは多分わかると思うんだけど」

「いじめられた?」

 ストレートに炎夏から言われ、グサッと来た晴衣。

「まあ、暴行はされるし、嫌がらせに仲間はずれ。だから、ここに来た。それに人前で感情を、出すのは苦手。ごめんね」

 晴衣の申し訳なさそうな顔を見た炎夏は思わず晴衣の体を抱きしめていた。

「でも、言えたじゃん・・・ずっと悩んでた苦しみを言えたんだよ・・・きっと成長してるよ」

「炎夏・・・」

 晴衣は恥ずかしそうに炎夏を見上げる。

「午後の部、行こ?そろそろ時間でしょ」

 炎夏が時計で時刻を見せてくれた。

「あと・・・10分」

「だね。私は試合だから会場に行くけど、晴衣さんはどうする?」

 晴衣は躊躇わず言った。

「見に行きたいけど、とある人物に呼ばれてるので・・・」

「そっか。じゃあ、午後の部終わったらここで会いましょ」

 炎夏が駆け出して行くのを見届け、晴衣も立ち上がろうとした瞬間、不気味な気配を感じ取った。

「気のせい・・・?」

 一瞬戸惑ったのが仇となった。辺りが一気に暗くなっていく。まるで、晴衣を逃さないようにしてるようだ。

「周りの景色が暗くなった・・・誰の仕業・・・」

 晴衣が警戒を強めたが、特に何事もなく解放された。

「なんだったの・・・とにかく行かなきゃ」

 試合まで時間があるので、ゆっくり歩きながら呼ばれた人物の元へ向かう途中、ほんの少しだけ頭に痛みが走ったが、すぐに治まったため歩みを進めた。


 晴衣の様子を遠くから見ている集団がいた。

「どうだ?彼女にあの“種”を植え付けれたか?」

 リーダーと思わしき人物が部下に聞く。

「ええ。確実に埋め込みました。効果は、しばらく出ないんでしたっけ?」

「そうだ。効果は1年経った頃に出るとされている。まああくまでもデータだ。個人差はあるだろう。最短で5ヶ月、最長は5年だった」とリーダーが眠そうに言う。

「でも、ボスはなぜあの女をターゲットにしたのでしょうか?」

「そうだな・・・前提として、ボスと彼女は無関係の人物だ。ではなぜ狙ったか?簡単さ。ボスの能力の一つである過去検査で彼女のトラウマや嫌な過去を掘り起こし、もうひとつの能力である記憶改変を起こして、記憶を捏造すれば、戦意喪失してこっちの手に堕ちると考えたんだろう。それに・・・」

 リーダーがニヤリと笑って呟いた。

「あいつは、気づいてないだけで、既にあの“お方”の力を受け継いでいる。あとは、しっかり芽吹いてくれることを祈るばかりだが。あと、この学園を襲撃する準備も進めないとな。早くても、あと3日程度で始めたいものだがな」

 不穏な空気の中、午後の部が始まろうとしていた。


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