夏浅し
淡い初夏の夜、僕はベッド上で壁に寄りかかって座っていた。時計の針は3時を越していた。けれども、僕の眠気は三千里の彼方を旅していた。
窓に目をやると、カーテンがそよ風に揺られて気持ちよさそうに漂っている。その涼しさに心は穏やかになっていた。耳を澄ますと、虫の声が聴こえる。星空の下で草原に寝転んでいる気分だった。隣には、中学時代以来の友人が同じように星空を眺めていた。ぼんやりと、ただ確かにそこにいた。会うのは何年ぶりなのだろうか。特徴的な長い目尻、左右非対称の髪、冷たくも温かい雰囲気......当時見た美しさは今もなお僕の眼を奪っていた。
パン、・・・・・・。花火の音が聴こえた。こんな早い時期に花火大か? いやそれはないのだろう。試し打ちなのだろうか。パン、・・・・・・。隣の友人も静かに聴いていた。僕たちは言葉を交わすことなく、寄り添い合ってただ花火を聴いていた。脳裏にりんご飴を持って微笑んでいる君が映る。
僕たちが言葉を交わすことはなかった。それで良かった。それで良かったのだ。それだけで、僕には足りていた。言葉を交わさないのは既に通じ合っているからだ。僕はそう考えることにした。僕はただ、何にも邪魔されず、このまま、永遠にこのまま、2人で過ごしていたかった。
ほしがりな僕の心は、独りぼっちの僕を記憶と一緒に優しく包みこんだ。
今年も、夏が始まってしまった。