表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

夏浅し

 淡い初夏の夜、僕はベッド上で壁に寄りかかって座っていた。時計の針は3時を越していた。けれども、僕の眠気は三千里の彼方を旅していた。

 窓に目をやると、カーテンがそよ風に揺られて気持ちよさそうに漂っている。その涼しさに心は穏やかになっていた。耳を澄ますと、虫の声が聴こえる。星空の下で草原に寝転んでいる気分だった。隣には、中学時代以来の友人が同じように星空を眺めていた。ぼんやりと、ただ確かにそこにいた。会うのは何年ぶりなのだろうか。特徴的な長い目尻、左右非対称の髪、冷たくも温かい雰囲気......当時見た美しさは今もなお僕の眼を奪っていた。

 パン、・・・・・・。花火の音が聴こえた。こんな早い時期に花火大か? いやそれはないのだろう。試し打ちなのだろうか。パン、・・・・・・。隣の友人も静かに聴いていた。僕たちは言葉を交わすことなく、寄り添い合ってただ花火を聴いていた。脳裏にりんご飴を持って微笑んでいる君が映る。

 僕たちが言葉を交わすことはなかった。それで良かった。それで良かったのだ。それだけで、僕には足りていた。言葉を交わさないのは既に通じ合っているからだ。僕はそう考えることにした。僕はただ、何にも邪魔されず、このまま、永遠にこのまま、2人で過ごしていたかった。

 ほしがりな僕の心は、独りぼっちの僕を記憶と一緒に優しく包みこんだ。


 今年も、夏が始まってしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ