観測問題
近所で占い師が評判になった。21世紀にもなって未だに信じる人が大勢いるだなんて驚いたが、私は散歩ついでに行ってみることにした。
占い師は様々な物品を商売にしていた。よく見るお守りや、数珠、風水羅盤に十字架まである。占い師は黒い衣装を全身にまとっていて、典型的な「占い師」という感じであった。一点違うところを挙げるとすれば、耳に種々のピアス等を付けているのが気になる。若者がやっているのだろうか?
占い師は私を見ると、部屋の中からほんのりと青い色をした水晶玉を持ってきた。占い師によると、この水晶玉は私と関わりのある「とある人」の様子を映すらしい。「本当なら今映し出してみてくださいよ。」と言いたくなる気持ちを抑えて、私は手持ちのお金が少ないことを理由に断った。が、占い師は無料でいいと言って私の手に水晶玉を押し付けた。無料の水晶玉に首を傾げながら、私はなんとなく得をした気分で家に帰った。
水晶玉の台座は無料でくれなかったので、転がらないようにさつまいもの段ボールの中に入れておいた。翌朝、私は不可思議な光景を見た。なんと、小学生の頃に引っ越して疎遠になってしまった幼馴染がそこにいたのである。幼馴染がいなくなってから自分の気持ちに気づいた私は、水晶玉を覗き込むことにはまってしまった。それは遠い存在を見るだけの苦痛なのだが、それでも最初の方は毎日のように見ていた。しかし、いくら魅力のあるものでもいつかは飽きてしまう。気づけば水晶玉は布を被せられて部屋の何処かの角に追いやられていた。
ある日、母から衝撃的なことを聞いた。幼馴染が、行方不明になってしまったのだという。私は瞬時にあの水晶玉を思い出し、部屋中漁ってついに棚の隅に埃と布で包まれたそれを発見した。しかし、私は布をつまみかけた手を止めた。怖かった。その布が覆い隠しているのは、友人の家で元気にしている彼なのか、それとも誘拐されて拷問を受けている悲惨な彼なのか、それとも山の上で身を震わせている彼なのか、それとも・・・・・・「物」になってしまった彼なのか。そっと、私は水晶玉を棚の隅に戻した。
私はいつもの生活に戻った。いつものように起きて、いつものように鏡の前で身支度をして、いつものように学校へ行って帰ってきて、いつものように寝て、棚の隅は知らないふりをして、彼は生きていると信じて。