誕生日
病院から出たばかりの頃は足を地面につけるだけでも苦労していたけど、今ではバスの席に座って地面に足を着いて移動することができるようになった。この諦めない意志の力だけは誇れる。ただ、どれだけ意志が強かろうと存在感はなかった。まるで空気のように。
バスから降りて家に向かう。いつもの時間に、私は門をくぐり抜ける。「ハッピーバースデー!」という声と共に、クラッカーの音が響き、色とりどりの紙吹雪が舞った。今日は私の誕生日だ。家族だけでなく、友人も来ている。そのうち、とあるイベントで知り合った友人が、私の大好きなキャラクターのコスプレをしていた。このキャラは最近出たばかりで、好きだと誰にも伝えていなかったのに、親友ってやつは私の好みを完全に把握してやがる。中には、涙を流している人もいた。泣くのはこっちだろと、思わずツッコミを入れながら私もつられて泣いてしまった。
毎年毎年、家族と友人はこのサプライズを仕掛ける。しかも全く同じ時間に。だからいつ家に帰ればいいのかが分かってしまう。毎回笑顔で迎えてくれるけど、毎回なんだか少し辛いように見えた。私がここを去った日がちょうど誕生日だったからだろう。
家族と友人に囲まれていると、どこからともなく馴染んだ声が聞こえた。去年も聞いた声だ。
「もう満足したか?」
「いいえもう1年だけ」