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甘い味

 サークルの先輩と冬の山を攻略しに行った。しかしながら天気が急変し、偶然近くにあった小さな洞窟に身を寄せた。焚き火跡が同じような人がいたと語っていた。先人が生き残ったのかどうかは分からないけれど、先人が残してくれた焚き木のお陰で凍死はしなくて済みそうだ。

 お腹が鳴いているを聞いて、何か食べようと荷物の中を漁ったけど、どういうわけだか普段物忘れをしない私も先輩も今日に限って忘れてしまったらしい。仕方なく、先輩は自分の体を分けてくれると言った。自分よりも細い体をしている私が餓死しちゃうと思ったのだろう。ありがたく先輩の一部をかじってみる。

普段先輩が筋トレをしているからか、少し硬かった。味はなかったけれど、なんだか美味しかった。

 そうして数日が過ぎたが、吹雪は止みそうにない。先輩もすっかり私と同じくらい細くなってしまった。それでも先輩は自分の一部を渡してきた。それを口に入れた時、甘い味が口の中に広がっていくのを感じた。先輩を見ると、何故か私から少し距離を離している。味が変だと伝えると、先輩は「不思議ですね」と言った。おかしい。先輩は普段私に敬語なんか使わないのに。しかも、言葉を選んでいるような感じがした。その時、私は自分の食べた味がなんの味か分かった。私は先輩の「私への愛情」を食べてしまったのだ! でも、幸い私の記憶は残っていたらしい。さっき私に話した時に言葉を選んでいたのは、敬語を使うかどうか迷っていたということなのだろう。

 その次の日、先輩はいつものように自分の一部を差し出してきた。これが優しさからなのか、愛情の欠片からなのか、私には分からなかった。分かる勇気もなかった。分からないまま、私は味のしない先輩を噛みしめた。

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