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次に気づいたのは息子のケインだった。
昨日成人を迎え、パーティーが終わるとそのまま友人たちと街へ繰り出し、帰ってきたのは朝。今日も学校があるので、最初の授業に間に合うギリギリの時間に帰ってきたのだ。
本当は今日くらいは休みたいと思ったが、父が高い金を払ってまで通わせてくれているのだから休むわけにはいかない。それにサボったのがバレれば退学になる可能性もある。それだけは避けたいと、友人たちも日が昇り始めると慌てて家へと帰っていった。
帰り道、ずいぶんと家が荒れていたことを思い出したが、きっと片付けくらいは終わっているだろう。そう思って扉を開いたが、目の前は悲惨な状況だった。あちこちに飛び散った食べ物や飲み物、割れた皿やグラス。カーテンも破れていてとても生活ができる状態ではなかった。
なぜいまだに片付けが終わっていないのか。家のことをするだけしか役目がないのに、それすらできないなどやはりあの母親は役立たずだと心の中で罵った。
自分を育ててくれたのは祖母だし、金を出して学校に通わせてくれたのは父だ。母親はただ家のことをしているだけ。それなのに身だしなみすら疎かにしているので、恥ずかしくてとても友人たちには見せられない。だからパーティーも準備だけしたら、部屋から一歩も出てこないように伝えていた。
苛立ったまま母親の部屋へと向かう。きっとこれはパーティーに参加させてもらえなかったことへの仕返しのつもりなのではないだろうか。母親は貴族の生まれだからパーティーが好きで、夜な夜な遊び歩いているのだと祖母から聞かされていた。たしかに家で母親の姿をあまり見たことがない。まさかその理由が遊び歩いているからなど、自分の母親であるがとても情けなく思ったものだ。
母親の部屋の扉をノックせずに勢いよく開けたが、部屋には誰もいなかった。またどこかに遊び歩いているのだろうと思うと腹が立つが仕方がない。ひとまず母親に文句を言うのを諦め、学校に行く準備に取りかかることにした。
急いで準備を終え家を出ようとした時に、テーブルの上に二通の封筒が置かれていることに気づいた。その封筒には父と自分の名前が書かれている。不思議に思い自分の名前が書かれた封筒を開けると、その封筒には手紙が入っていた。
それも一文だけの手紙が。
【“役立たずの母親”はいなくなりますので、どうぞお幸せに】
「どういうことだ?」
この手紙に書かれている文字は間違いなく母親のものだが、いなくなるとはどういうことだと疑問に思った。ただ疑問に思ったのは一瞬のことで、きっと大したことではないだろうと思い直した。だってあの母親は何もできない役立たずなのだから。
「どうせすぐに帰ってくるだろ……っ、やばい!もうこんな時間!」
そうこうしているうちにまもなく最初の授業の時間になろうとしていることに気づく。とりあえず手に持っていた手紙を鞄の中へと押し込み、急いで家を出たのだった。