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私の結婚生活は、幸せなものではなかった。
結婚したのは十七歳の時。
相手は恋人のシモン・ エバンス。初めて王都に来た時、道に迷っていたところを助けてもらったのがきっかけで付き合い、付き合って半年後にプロポーズをされた。
男爵令嬢の私と商会の跡取りである彼。
当然私の家族は反対した。出会って間もないのにすぐに結婚なんて怪しいと。だが初めての恋に浮かれていた私は、彼とどうしても結婚したく何度も説得をした。最終的に条件付きではあったが両親から結婚の許しを得ることができた。だけど兄だけは最後まで反対していて、わだかまりを残したまま兄とは別れることになってしまう。
一切の援助をしないというのが両親の出した条件の一つだったことから、結婚式は二人だけのささやかなものだったが、私は幸せだった。だが今となっては、人生で一番幸せだと浮かれていたこの時の自分を殴ってやりたい。なぜならここから苦痛の結婚生活が始まることになるのだから。
ミラーズ男爵家は爵位が男爵と貴族の末端ではあったが、とても裕福な家であった。当然その裕福な家の令嬢だった私は家事などしたことはなく、お世話をされる側の人間であった。
しかし彼の家はあまり裕福ではなく、王都に店を構えているものの、商売相手は平民だけという弱小商会。使用人を雇っていた実家とは違い、家事は自分たちでやらなければならないのだ。彼と結婚するということはそういうことだと頭ではわかっていたつもりだったが、実際に経験してみると想像より遥かに大変だった。
料理も洗濯も掃除も何一つ満足にこなせない日々。夫は実家に援助を頼もうとしきりに言ってきたが、それはできないと断った。夫は不機嫌になりつつもそれなら仕方ないと、少しずつでもできるようになってくれればいいと言ってくれた。だが義母はそんな私に不満を抱いていたようだ。
『どうしてあなたはこんなに役立たずなの?あの子が可哀想だわ』
義母から言われた言葉だ。義母は夫を溺愛しており、そんな夫と結婚した私が最初から気に入らなかった。可愛い息子を奪った女。それが義母から見た私だ。それに家事の一つも満足にできないなど、嫁としてあり得ないとまで言われる始末。だから私は義母に認めてもらえるように一生懸命頑張った。腹が立たなかったと言えば嘘になるが、愛する夫の母親に認めてもらいたい一心で努力し続けたのだ。
そのお陰か、結婚して半年が経つ頃には随分と手際よく家事をこなせるようになったのだが、義母から認められることは最後までなかった。