表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに  作者: Na20


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/31

17 カシウス

 

 久しぶりに会う彼女は以前よりも美しく、だけど温かい笑顔は変わらぬままで。僕は浮かれそうになる心を懸命に沈めた。彼女に会えたことはこの上なく嬉しいが、彼女には夫も子どももいる。だからあまり浮かれすぎてはいけない。あとで苦しむのは自分なのだからと。

 しかしその後、彼女の口から語られた言葉に衝撃を受けた。お金のために利用したなんてことはどうでもよく、それよりも離婚という言葉に心が躍った。離婚を喜ぶなどひどい人間だろう。だけど彼女に手を伸ばすことが許されたのだと思うと、嬉しくて仕方がなかった。

 もちろん彼女が僕の想いに応えてくれるかはわからない。成長前の姿と、年齢が九つ離れていることもあってか、彼女は僕を子ども、よくて弟扱いすることがほとんどだった。まずは彼女に僕が男だと意識してもらわなければスタート地点にも立てない。だから無理矢理彼女の旅についていくことにしたのだ。それに彼女は迷惑を掛けたくないからと、一年後には僕から離れるつもりだろう。そんなことはさせない。僕はようやく巡ってきたこの機会を逃すつもりなどないのだ。




 馬車が止まった。どうやら駅に着いたようだ。僕は彼女をエスコートするため、先に馬車を降りて手を差し出した。



「どうぞ」


「っ、ありがとう……」



 彼女が一瞬戸惑った表情を見せたのは、まだ大人に成長した姿に慣れていないからなのか。それとも僕のことを少しでも男として意識してくれたのか。後者であれば嬉しいが、おそらく彼女の中の僕は五年前のままだろう。僕のことを早く一人の男として見てほしいが、焦って嫌われるのは避けたい。だからしばらくは今まで通りに接するように気をつけなければ。


 列車乗り場へ移動し列車を待つ。少しすると目的の列車がやって来るのが見えてきた。



「列車が来ましたね」


「ええ。……カシウス、本当に一緒に来るの?あの列車に乗ったらしばらくここに帰ってくることはできないわ。だからもう一度考えて直しても」


「僕はあなたと一緒に行きます」


「……そう、わかったわ。これ以上何も言わない」


「ありがとうございます」



 列車が停まり、扉が開く。降りる乗客を見送ったあと列車に乗り込む。先に列車に乗り込もうとする彼女の手を掴んだ。僕は彼女にこの国を出る前に一つだけ伝えたいことがあった。



「カシウス?」


「お願いがあります」


「お願い……?」


「一年後、ここに帰ってきたら僕と一緒に湖を見に行ってくれませんか?」


「湖って、あの?」


「はい。アナベルさんが忘れられないと言っていた湖です」


「構わないけど、あなたはもう何度も見ているんじゃないの?それなのにどうしてわざわざ私と……」


「まだ一度も見たことがないんです。あの湖はどうしてもあなたと見たくて」


「えっ」


「お願いします。あなたの思い出に残る景色をあなたの隣で見たいんです」



 一年後、僕はそこで彼女に想いを伝えるつもりだ。僕は彼女の目を見つめた。すると彼女は視線を逸らしながらも、僕の願いを受け入れてくれた。



「……わかったわ」


「ありがとうございます!」


「っ、ほ、ほら!もう列車に乗らないと!後ろの人に迷惑だわ!」



 そう言って彼女は僕の手を握り列車に乗り込んだ。彼女に引っ張られながら彼女の後ろ姿を眺める。彼女の耳がほんのりと赤く見えるのは怒っているからなのか、それとも照れているからなのか。そんな彼女を後ろから抱き締めたい衝動に駆られるが、それは許されない。



(彼女を必ず振り向かせてみせる)



 そうして旅の始まりを告げるかのように、汽笛が空に鳴り響くのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ