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第8話 親衛隊


「やっぱりそうだ」

「お久しぶりです教頭!」


 少女に続くように他の三人もフードを脱いだ。

 いずれも見覚えがある顔ばかりだ。

 俺も剣を腰の鞘に戻すと彼女達に続いて自身のフードを脱いだ。


「やはりルーティラ姫でしたか。それに姫様の親衛隊の皆も。しかしどうしてまた盗賊まがいな事を?」


 ルーティラ姫は俺が騎士団の武芸指南役に抜擢される切欠となった人物だ。

 そしてルーティラ姫と行動を共にしている三人の男女は元々は俺の教え子だった騎士であり今は姫様の身辺警護として常時その傍らに控えている。

 先日オーロッカス陛下によって騎士団は解体されたはずだが彼らは既に騎士団に所属しておらず影響はないはずだ。

 ルーティラ姫は頬を膨らませながら答えた。


「盗賊だなんて人聞きが悪いですよ。教頭が都を出て行ったって話を聞いたから慌てて皆と追いかけて来たんじゃないですか! そうしたらあの人たちがいきなり撃ってくるんですもの。こっちは正当防衛ですからね」


「すまない、てっきり荷馬車を襲いに来た盗賊だとばかり……」


「それよりもどうして教頭がこんな人たちと行動を共にしてるんですか?」


「色々あって今はデュッケ侯爵の荷馬車の護衛の仕事をしているんだ。でも途中で俺だと気が付いていたんだろう? いくらなんでも本気で斬りかかってくる事はないでしょう。エリコ、お前もだ。お前の矢は天空を舞う飛竜ですら撃ち落とすぐらいだからな。さすがの俺も肝が冷えたぞ」


 部下たちやインセクトに弓を放った精悍な顔つきの女性はその名をエリコ・バンシーという。

 弓術に掛けては帝国内では並ぶ者がいないと言われている使い手だ。


 そして姫の両側に控えている二人の青年もかなりの達人である。

 右のカインズは剣を、左のロッシュは鎗の扱いに長けておりルーティラ姫を守る両翼として帝国では名を知らぬものはいない。


 エリコはに微笑みながら答えた。


「ご謙遜を。教頭なら私程度の弓なら容易に見切れるはずじゃないですか」


 その屈託のない笑顔から彼女が冗談を言っているのではなく本気でそう信じて疑っていないことが分かる。

 俺は顔を引き攣らせながら答えた。


「いや、割とギリギリだったぞ……」


 ひとしきり再会を懐かしんだ後俺はルーティラ姫様たちをデュッケ侯爵に紹介する。


 俺が帝国近衛騎士団の武芸指南役を引き受けた後でルーティラ姫にも武芸の指導を行ったことがある。

 彼女の父親である先代皇帝メイクーン陛下はルーティラ姫が武芸を学ぶことに最初は難色を示していたが、先日の魔獣の襲撃の事もあり皇女であっても最低限の護身術を身に着けておいた方が良いと主張するルーティラ姫に結局は皇帝陛下の方が折れる形になった。


 それ自体は良かったのだが、問題はルーティラ姫が皆の想像以上に武芸にのめり込んでしまった事だ。

 ルーティラ姫は日々武芸の鍛練と研究に余念がなかった。


 戦いにおいて体格の良さは大きなアドバンテージとなる。

 ルーティラ姫は小柄な身体というハンデを補う為に重量のある斧を得物に選んだ。

 しかしそれまでナイフやフォークより重い物を持った事が無いルーティラ姫は俺が考案した特製の筋トレメニューをこなしても何とか斧を持ち上げるだけの筋力を得るのが精いっぱい。

 そこで試行錯誤を繰り返した末に辿り着いたのが遠心力を利用した独特の戦闘スタイルである。


 思えばあの日も今日の様な雪の日だった。


「ついに完成しました!」と得意満面の笑みを浮かべるルーティラ姫に連れ出され訓練場にやってきた俺は、さっきのような幻想的な光景を目にする事になる。

 超重量の斧を勢いよく回転させることによる風圧で生まれたつむじ風によって足元の雪が竜巻のように舞い上がり朝日に照らされてキラキラと輝く景色を見て俺は思わず「まるで白い旋風だ」と呟いた。


 それ以降白い(ヴァイス)旋風(ヴィルベルヴィント)がルーティラ姫の二つ名となった。


 あの頃はまだつむじ風を起こす程度だったが、あれからも俺が見ていないところでずっと鍛錬と研究を続けていたのだろう。

 久しぶりに見た白い旋風はあの時よりも遥かに研ぎ澄まされていた。

 デュッケ侯爵にルーティラ姫の紹介をする最中思わず目頭が熱くなるのを覚えた。


「まさか姫様とは露知らず、この度の無礼な振る舞いどうかお許し願いたい」


 デュッケ侯爵はルーティラ姫に深々と頭を下げる。


「いえ、お顔を上げて下さいデュッケ閣下。この度のことは事故のようなものです。それよりも護衛隊の皆さんの怪我の様子はどうです?」


「はい、負傷した者にはポーションを与えていますので直に回復するでしょう」


「それは何よりです」


 どうやら双方遺恨を残さずに和解したようで俺もほっと胸を撫で下ろす。


「よっこらせっと。デュッケ様、これどうします?」


 話をしている間にデュッケ侯爵家の使用人たちが同士討ちで破壊されたインセクトを回収して戻ってきた。


「残念ですが全然役に立ちませんでしたねこれ」


「全くですな。しかしこのまま廃棄するのも勿体ないので分解して各パーツを他の事に再利用させてもらいますよ」


「確かにこいつは色々な魔道具の集合体ですからね」


 決して安い買い物ではなかったがいい勉強代だったと思って諦めるしかない。

 使用人達はインセクトをジャンク品として持ち帰る為に荷台に積み上げた。


「じゃあそろそろ出発しますか。姫様たちはどうされます?」


「勿論私達もこのままオーシャン教頭のお供をさせて頂きますよ。駄目だといってもついていきますからね!」


「やれやれ、とんだお転婆姫様だ。お前たちも大変だろう?」


「ははは……もう慣れたものです」


 エリコたち三人の親衛隊は揃って苦笑いをする。


「うん? 三人?」


 ここにきて俺は漸く違和感に気づいた。


「なあ、お前たち何人で来た?」


 思いがけない質問にエリコはきょとんとしながら答える。


「どうしたんですか教頭。姫様と我々三人で合わせて四人ですよ」


「もう一人いなかったか?」


「いえ、四人で間違いありません」


 エリコはそう断言するがあの時確かにもう一人いたはずだ。

 姫様たちから少し離れた所でまるで俺たちの様子を伺う様に。


「はっ……お前たち気をつけろ、近くに敵がいるぞ!」


「はい教頭!」


 俺の言葉に親衛隊の皆は瞬時に荷馬車を守るように囲んで臨戦態勢に入る。

 少し遅れて護衛隊の皆も俺達に倣って銃を構えた。

 周囲を見回すと既に百人に及ぶ数の盗賊が俺達を取り囲んでいた。



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