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第7話 白い旋風


 俺の背後から飛び出したのは三体の自律型魔道兵器インセクトだった。


「そうか、デュッケ侯爵が俺達を援護する為に起動してくれたんだ。皆今の内に陣形を組み直すんだ!」


 皇宮では散々俺を虚仮にしてくれたこいつらも今は頼もしい味方だ。

 インセクトは一直線に前方の盗賊たちに向かっていく。

 コキュート侯爵ご自慢のあの兵器の力がどの程度のものかゆっくり見学させてもらおうか。


 カンッ!


 盗賊が放った矢がインセクトの一体に命中したが跳ね返って雪に突き刺さった。

 敵ながらあの射手は見事な腕前だが鋼鉄の身体を持つインセクトにはかすり傷を与えるのが精一杯。

 これで形勢が逆転するはずだ。


 ──と思ったが違った。


 次の瞬間矢を受けたインセクトは味方であるはずの隣のインセクトに向けて武器を振り回し始めたのだ。


「おい、どうしたこのポンコツ! 敵はあっちだぞ!」


 さらにカン、カンと立て続けに先程と同様の金属音がしたかと思うと、残りの二体も同じように同士打ちを始めてしまった。

 これでは戦力になるどころの騒ぎではない。

 完全に壊れた玩具だ。


「一体何が起こっているんだ!?」

「オーシャン隊長何とかしてください!」


「慌てるな、落ち着け!」


 部下たちがうろたえる中で俺は冷静にその様子を観察する。

 インセクトが同士討ちを始めたのには何か理由があるはずだ。

 どんな状況下におかれようが冷静に状況を分析し臨機応変に対処できなければ戦場を生き延びる事はできない。

 冷静に状況を分析しろ。

 因果関係を見定めるんだ。


 目を凝らして見つめると三体のインセクトは皆中央の赤い目玉の部分が破損している事に気付いた。


「なるほど、そういうことか」


 インセクトがおかしくなった理由が分かった。

 こいつらはあの赤い目玉がセンサーになって周囲の状況を把握しているのだ。

 それが盗賊の放った矢で破壊された事で敵味方の判別ができなくなり同士討ちを始めてしまったという訳だ。

 最低限の攻撃で最大の効果をもたらすのは戦術の基本だ。

 敵さんはたった三本の矢でそれを成し遂げてしまった。

 盗賊の中にも優れた戦術眼の持ち主がいるようだ。


 しかしこんな致命的な弱点があるのではこのインセクトという兵器は役に立ちそうにない。

 デュッケ侯爵もコキュート伯爵からとんだ不良品を掴まされたものだ。

 激しい同士打ちによって二体が動かなくなり、満身創痍となった残り一体もすぐに動かなくなった。

 三体目のインセクトが動かなくなった事を確認した盗賊の射手は今度は俺に向けて矢を放った。


「良い腕だ、だが!」


 俺はすかさず手にした剣でその矢を斬り払う。


「!?」


 矢を放った盗賊は驚き、次の矢を番えようとするのをその後ろで指揮をしていた小柄な盗賊が手で制した。

 どうやらあいつがこの盗賊たちのボスらしい。


 奴らは俺を見ながら何やらこそこそと耳打ちをしている。

 見事な腕前だったがこの距離からの射撃なら何とか反応できる。

 このまま諦めて撤退してくれれば良いが……。

 そんなことを期待しながら盗賊の様子を見ていると先程のリーダー格が手下たちを後ろに下げて俺の前に出てきた。


 どうやらやる気らしい。

 フードで顔は見えないが間近で見ると思ったよりも更に小柄だ。


「子供か……?」


「!」


 俺の言葉を聞いた盗賊がピクッと反応を示した。

 背が低いことを気にしているのか?

 盗賊にしては繊細な奴だ。


 盗賊の親玉は左手を後方に下げ右手を左肩の上に回してやや腰を屈めた独特の構えをとる。

 その両手には二丁の斧が握られていた。


 冷や汗が俺の頬を伝った。

 全く隙がないのだ。


 しかしそれはお互い様のようで相手も構えた姿勢のまま動かない。


 お互い対峙したまま間睨み合いが続く。

 限界近くまで達した緊張は何かちょっとした切欠で一瞬で弾け飛ぶだろう。


 そう考えた直後にその時はやってきた。


 付近に立っている木の枝から雪の塊がドサっと落ちたのが合図かのように盗賊の親玉がその特異な姿勢のままこちらに突進してきた。


 そして俺の眼前まで迫った次の瞬間。


「はあっ!」


 盗賊は掛け声とともに右手に持った斧を横に薙ぎ払う。


「速い!?」


 俺はそれを間一髪のところで後ろに躱し、その反動を利用して間髪いれずに懐に飛び込んだ。


 斧という武器は鉄の塊である刃の部分にかなりの重量がある為に一撃の破壊力は相当なものだが空振りするとその重量が仇となって体勢を戻すまでに大きな隙が生まれるものだ。


 俺はそのがら空きになったボディに強烈な一撃を──


 食らわす振りをして再び大きく後方に飛び退いた。


 次の瞬間、盗賊の左手に握られていた斧がさっきまで俺が立っていた空間を切り裂く。

 もし俺が誘いに乗って攻撃を仕掛けていたら攻撃が届く前にあの左手の斧によって胴体を両断されていただろう。

 よく見ると左手の斧は右手のそれよりもやや大きく、右手の初撃と同じ感覚で躱そうとしていれば間違いなく二撃目の直撃を受けていたに違いない。


 盗賊はその勢いのまま更に一回転をして右手、左手の斧を振り回しながら斬りかかってくる。

 そして回転力によって生まれた小規模なつむじ風が足元の雪を竜巻のように上空へ舞い上げていく。


 その時頭上の雪雲の隙間から太陽が顔を出し日の光が差し込んできた。


 舞い上がった雪は光を反射してキラキラと輝き、思わず見惚れてしまいそうなほどの美しく幻想的な光景が広がった。


 俺はその光景に見覚えがあった。


「白い旋風……」


 無意識のうちに口から出てきた俺の呟きを耳にした盗賊が足を止めた。


「やっぱりオーシャン教頭だったのですね。お久しぶりです」


 そう言いながら盗賊がフードを脱ぐと中からウェディングドレスを思わせるような美しい装飾が施された純白の鎧を着込んだ銀髪の少女が現れた。


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