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第6話 襲撃


 皇都からトサ高地への道のりは長く険しい。

 直線距離にして約二百キロ、盗賊や魔獣から護衛対象であるデュッケ侯爵と荷馬車を守りながら何日もかけて碌に整備されていない道を進んでいく。


 特に困難を極めるのはその道中にある帝国でも屈指の豪雪地帯であるリンカ峠越えだ。

 俺たち護衛隊はデュッケ侯爵から支給された防寒着を身を包みながら吹雪の中を進む。

 普通ならこの冬真っただ中に峠を越えようなどと考える人間はいないがのんびり春が訪れるまで待っている余裕はない。

 皆無茶を承知で歯を食いしばって足を動かす。


「この峠を越えてミノ盆地の宿場まで辿り着けば名物の温泉と暖かいベッドにありつけるぞ。もうひと踏ん張りだ、頑張れ!」


 俺は凍えて震える部下たちを鼓舞しながら足を進める。

 彼らも未熟ながら頑張っていることは認めるが護衛としての実経験が圧倒的に足りない。

 無駄な犠牲者を出さない為に馬車が襲われる度に俺が前線で戦い彼らには後方から銃で援護をさせるに留めていた。


「それにしても本当に寒いな……」


 吐く息があっという間に凍り付く。

 俺は更にフードを深く被り露出している顔の面積を極限まで減らした。

 横を見ると部下たちも同様に顔を隠し誰が誰だか判別がつかなくなっている。

 これではいつの間にか部下の中に盗賊の仲間が紛れ込んでいても気が付かないだろう。

 俺は部下たちひとりひとりに点呼を取り不信な人間が紛れていないか確認を取るとシンが口を尖らせながら答えた。


「ねえオーシャン隊長、この寒さでは盗賊たちもアジトの中で震えていますよ。少し神経質すぎるんじゃないですかね」


「いやこんな天候だからこそ逆に油断大敵なんだ。護衛は神経質なくらいが丁度いい。絶対に気を緩めるんじゃないぞ」


「そんなもんですかね……」


 シンはまだ納得できないという表情で歩いている。

 シンだけではない、他の護衛隊の面々も寒さに震えるばかりで周囲への注意が散漫になっているのが目に見えて分かる。

 これは危険な兆候だ。

 盗賊や魔獣はそんな油断の隙をついてくることを俺は長年の冒険者としての経験で知っている。


 俺はいつも以上に神経を研ぎ澄ませて周囲の様子を探る。


 ガサッ。


 その時後方で何かの気配を感じた。

 それもひとつではない、集団の気配だ。


「誰かが俺達の後をつけてきているぞ! 全員陣形を組め!」


「は? マジですか隊長? こんな吹雪の中で盗賊の襲撃だなんて冗談キツいですよ」


「冗談なものか、早くしろ!」


「はい、はい」


 問答の末部下たちは漸く馬車を囲むように陣形を組んだ。

 だがその表情は明らかに半信半疑だ。

 本当にじれったい。

 戦場では一瞬の判断の遅れが命取りになる。

 俺の教え子の騎士ならば最初の一言で即時臨戦態勢に入ったはずだ。


 やがて吹雪の先に複数の人影が現れた。


「うわっ、本当に盗賊がいる!?」


「お前達取り乱すな、まずは落ち着いて相手の出方を探るんだ」


「うわあああっ、こんなところでやられるもんか!」


「ま、待てシン勝手に撃つんじゃない!」


「くそっ、こうなりゃやけだ、俺達もシンに続け!」


 シンが俺が制止するのを聞かずに人影に向かって発砲するとそれに続いて他の部下も集団ヒステリーでも起こしたかの様に銃の乱射を始めた。

 周囲の雪が舞い上がり何も見えなくなる。


「やったか!? へへ、俺達にかかれば盗賊なんてこんなものよ」


「馬鹿野郎、最後まで油断するなシン!」


「しかしオーシャン隊長、あれだけの銃撃を食らわせたんだ。無事でいられるはずが……ぐあっ!?」


 シンの口答えが終わる前に前方から飛来した一本の矢が銃を持つシンの右腕に刺さった。


「う、うわあああ、腕が!」


「下がれシン。大丈夫、そんな怪我ポーションですぐ直る」


「ひ、ひい……」


 慌てて馬車の後ろに隠れるように逃げていくシンを横目に俺は前方を注視する。

 視界が徐々に回復し盗賊たちの姿が薄っすらと見えてきた。

 二十メートル程先に四人、そして更にその斜め後方、かなり離れた場所にもう一人。

 合わせて五人。

 数はこちらの方が多いが一人の達人は十人の素人に勝る。

 油断は禁物だ。

 奴らも皆俺達と同じように全身を防寒着で覆っておりその顔は確認できない。

 そして先頭で弓を構えている盗賊が再び矢を放った。


「ぎゃあっ!」


「うわあああ!」


 たった一人の盗賊が放つ矢によって次々と部下たちの腕が射貫かれていく。


「皆気をつけろ、かなりの手練れだ!」


「気をつけろったって、どうしろっていうんですか!?」


 部下たちはいつ自分目掛けて飛んでくるかも分からない矢に恐怖し大混乱に陥っている。

 陣形が崩された部隊は脆いもの、最早彼らは戦力としては当てにならない。


「こうなったら俺ひとりでやるしかない!」


 俺は部下たちを庇う様にその前に立って剣を構える。

 敵は俺達の目の前にいる。

 この混乱の隙をついて後ろに回られた気配はない。

 ならば前方から飛来する矢にだけ注意すればいい。

 俺がここで敵を食い止めれば部下たちも平静を取り戻してもう一度陣形を立て直す事ができる。

 反攻に回るのはそれからだ。

 俺は全神経を前方に集中する。


 ガサッ!


「な……!?」


 その時俺の不意を突いて背後から大きな物体が飛び出してきた。




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