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第27話 姫様の事情


「姫様には皇族としての責務を果たしてもらわなければなりません。泣き言を並べるのはおやめなさい」


 リンダがルーティラ姫に冷たく言い放つ。


「責務か……」


 皇族の義務といえば帝国に生きる全ての民の為に尽くす事だ。

 長子ならば皇帝陛下の跡を継いで国をまとめ、それ以外の者も国を豊かにする為にあらゆる努力を惜しんではならない。

 ルーティラ姫の場合は国内の有力貴族や隣国との結びつきを強固にする為に彼らに嫁ぐことが責務だろう。

 これだけルーティラ姫が嫌がっているという事は既に相手は決まっており、姫様はその相手を良く思っていないというという事だ。

 嫁いだ先でルーティラ姫にどれだけ自由が与えられるのかは相手次第。

 もう武芸を続ける事はできないかもしれない。

 しかし自分が嫌だからという理由で責務を投げ出すことは皇族として決して許されない。

 リンダの言い方には問題があるが言い分は正しい。

 俺はルーティラ姫に優しく諭すように言った。


「ルーティラ姫、今後も自由に武芸をさせてもらえるように俺も口を利かせてもらいますよ。姫様のお相手はどこの誰なんですか?」


 ルーティラ姫は俯きながら言う。


「……コキュート伯爵」


「え? 姫のお相手はコキュート伯爵なんですか?」


「はい。皇宮に帰ったら私あの男の妻にされてしまう。あんな男に嫁ぐくらいなら死んだ方がましです」


 ルーティラ姫は涙声でそう訴えるがリンダはその言葉にますます苛立つ。


「姫様、往生際が悪すぎますよ! いい加減に覚悟を決めて下さい!」


「ちょっと待てリンちゃん」


 俺はリンダの言葉を遮って言った。


「そっか。あんな奴に嫁がなきゃいけないなら別に皇宮に帰らなくてもいいですよ」


 俺の言葉にリンダだけでなくシュバルツァリッターの誰もが唖然とする。


「教頭何を言い出すのですか!?」


「リンちゃん、俺からも頼む。ルーティラ姫を見逃してやってくれ。コキュート伯爵か……あいつだけは本当に駄目だ」


「しかし我々は主命を受けて……」


「そうだろうな。お前は真面目な奴だ。だから──」


 俺は自分の手袋を外してリンダの足元に投げ捨てた。


「今度はルーティラ姫の身柄を賭けて俺がお前に決闘を挑む事にするよ」


「どうしてそうなるんですか!? 教頭と決闘だなんて私は……」


「さあどうする。決闘を受けずに騎士団全員で俺からルーティラ姫を奪い取るか? それなら俺は全力で邪魔をさせてもらうぞ」


 俺が邪魔に入るなんて誰も予想もしていなかったのだろう。

 シュバルツァリッターの皆は顔を見合わせながらざわつき、リンダは天を仰いで唸っている。

 そして顔を戻し俺の目を見据えて答えた。


「分かりました、私にも譲れないものがあります」


 リンダは手袋を拾い上げた。

 決闘成立だ。


 リンダは地面に落ちている十文字槍宝蔵院を拾い上げ、再び両手に槍を握り構えた。


 決闘には当然武器が必要だ。

 俺が今持っているのは腰に差した一振りの剣のみ。

 リーチの差を考えるとやや分が悪いと言える。


「エイラム、武器を借りていいか」


「ええ、構いませんよ教頭」


 俺と同様に武芸十八般を極めたエイラムは敵の武器の相性に対応する為に常時複数の種類の武器を騎馬の横腹に掛けて持ち歩いている。


 槍に相性がいいのはやはり離れた所から一方的に攻撃できる弓だがこれは一対一の決闘だ。

 そんな卑怯ともいえる勝ち方をしても誰もが納得しないだろう。

 だから俺はリンダと同じ槍を得物に選択する。


「よし、これがいい」


 俺が選んだのは穂に鉤爪が付けられた鉤鎌槍と呼ばれる種類の槍だ。

 それを見てリンダは愛馬に合図をして安全な所に下がらせた。


「騎乗しないのかい?」


「ご冗談を。私の愛馬を怪我させる訳にはいきませんから」


「賢明だ」


 鉤鎌槍は鉤爪の部分を馬の脚に引っかけて転倒させる使い方もある。

 もしリンダが騎乗して挑んできたら一瞬で勝負が着いただろうが当然そのくらいのことは分かっているか。


 俺とリンダは十歩程の間隔で対峙する。


「なあ、教頭とリンダさんどっちが勝つのかな」

「分からん。教頭はあらゆる武器を満遍なく使いこなすがリンダさんは槍に掛けては並ぶ者なしだからな」


 皆が固唾を飲んで見守る中、先に動いたのはリンダだ。

 突き出した左手のゲイボルグをギリギリで躱すとその衝撃が空気を切り裂き俺の後方の地面が抉れてしまった。


「ふう危ない危ない。本気だなリンちゃん」


「まだまだこれからです!」


 リンダは連続でゲイボルグを突き出すとその度に俺の後ろの地面がぼこぼこと抉れる。

 こんなものを食らったらひとたまりもない。

 俺は鉤鎌槍で受け流しながら反撃のチャンスを伺う。


「いつ見てもすごい技だな。畑を耕すのにも使えそうだ」


「ふざけないで下さい!」


 左手のゲイボルグの連続攻撃で隙を作り、ここぞというタイミングで右手の十文字槍宝蔵院を食らわせるのがリンダの必勝パターンだ。

 しかしいつまでも隙を作らせない俺に痺れを切らせたリンダはあっさりとその戦術を捨てて一気に勝負に出た。





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