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第25話 決闘


「我々の言う事が聞けないというのでしたら仕方がありません」


 リンダは右手の手袋を外してルーティラ姫の足元に投げ捨てた。

 ルーティラ姫は一瞬ちらりと手袋を見て直ぐにリンダに視線を戻す。


「……何のつもり?」


「姫様、あなたにチャンスを与えます。我儘を通されたいのでしたら実力で勝ち取りなさい」


 まさかの決闘宣言である。

 俺は今まで十年間騎士団の武芸師範をやっていたが姫様に決闘を申し込む騎士なんて初めて見た。

 リンダは騎士団でも一、二を争う実力の持ち主だ。

 まともに戦えばルーティラ姫に勝ち目はないだろう。

 しかし決闘を断ればシュバルツァリッター全員がルーティラ姫の確保に動く。

 決闘を受ければ相手をするのはリンダひとりですむ。

 実質選択肢はなきに等しかった。

 ルーティラ姫は臆すことなくその手袋を拾い上げた。

 それは決闘を受領したことを意味する。


「結構」


 リンダは馬を後退させ少し離れた位置からルーティラ姫と対峙する。

 そして背中に背負った二本の槍をそれぞれの手に握った瞬間周囲の空気が一気に張り詰めた。

 左手に握っているのはかつてメイクーン陛下から数々の功績に対する褒美として与えられた名槍ゲイボルグ。

 そして利き手である右手に握っているのは東国から伝わる十文字型の槍である秘槍宝蔵院。

 槍術を極めたリンダは槍一本でひとりの達人を圧倒する程の強さを持つ。

 それがそれぞれの手に二本握られているのだ。

 二人の達人を同時に相手にするようなものだ。

 彼女に着けられた二つ名である【双鎗】は二本の槍というだけでなく並び立つ者なしという意味の無双の【双】も兼ねており、【無双鎗】のリンダと呼ばれる事もある。


「あらあら、あの女の人すごい迫力ですわね」


 のんきな言葉と裏腹にドロシーの額から冷や汗が流れている。

 まだ武器を握っただけだというのにリンダの強さを肌で感じたようだ。


 リンダは脚で馬の両脇を挟み、一瞬で騎馬をルーティラ姫の目の前まで走らせる。


「もうやるしかないじゃない!」


 ルーティラ姫はいつも通り二本の斧を構え迎撃態勢をとる。

 そしてリンダが射程に入った瞬間に斧を横に振り回すが彼女の斧は空を切った。

 リンダは斧の一撃を受ける直前に左脚で馬の左脇腹を圧迫してほぼ直角に馬を曲がらせてルーティラ姫の攻撃を躱すと、そのまま姫を中心に輪乗りをしながら左手のゲイボルグを繰り出した。


「くっ!」


 ルーティラ姫はその場で回転しながら斧で槍を受け止め続けるがそもそも彼女は体力に難がある。

 重い斧を振り回す内に次第に息が上がってきた。

 逆にリンダの槍はますます鋭さを増す。


 このままでは危険だ。

 俺がリンダを止めようと飛び出す前にリンダに向けてエリコが弓を引いていた。


「姫様への仕打ち、リンダさんでも許せません!」


 エリコは七本の矢を束ねて躊躇せずに放った。

 五本の矢でも飛竜を打ち落とす程である。

 束ねた矢の数でエリコの怒りの程が伺い知れる。


 しかしエリコの前に一人の騎士が飛び出した。

 【聖盾】の異名を持つ重騎士アーディンである。


 アーディンはその異名の通り人の背丈はあろうかという巨大な鋼鉄の盾を構えてエリコの矢を弾き返した。


「そこをどきなさいアーディン!」


「エリコ殿、これはルーティラ姫とリンダの一対一の決闘です。邪魔をなさらぬよう」


「何が決闘ですか、そんなものは認めません! カインズ、ロッシュ!」


「おう!」


 カインズとロッシュの二人が左右から飛び出してルーティラ姫を助け出そうとするがシュヴァルツァリッターの面々がその前に立ち塞がり前に進めない。


 こうしている間にもリンダの繰り出す槍によってルーティラ姫の体力が徐々に削られていく。

 流石にこれ以上は黙って見ていられない。

 俺は腰に差した剣を抜いてルーティラ姫の加勢に向かおうとすると一人の騎士が俺の前に立ちはだかった。


「教頭、申し訳ありませんが貴方にも手出しをしていただきたくありません」


 騎士団長のエイラムだ。


「エイラム、そこをどけ!」


「例え教頭でも決闘の最中に他の者の加勢を許す訳にはいきません」


「くっ……」


 エイラムはまたの名を【玉獅子】のエイラムと呼ばれている。

 騎士団の団長を務めていただけあってその実力は騎士団の中でも群を抜いている。

 彼もまた俺と同様に武芸十八般を極めた武人であり、俺だって出来れば事を構えたくない。

 それに彼らが一斉に実力行使に出ればルーティラ姫ひとり簡単に捕らえる事ができるだろうがそれをしないのは騎士としての誇りと姫に対する敬意に他ならない。

 そもそも彼らの言い分にも一理ある。

 今回の件はルーティラ姫の我儘が原因なのだ。

 まあリンちゃんの態度には少し問題があるがそれは後でゆっくりと説教してやろう。


 俺は剣を再び鞘に戻した。


「まったく、お前たちがどうしてそこまであの馬鹿皇帝に尽くすのかは理解に苦しむがここはお前たちの顔を立ててやろう」


「ご理解いただき感謝します教頭」


「エリコ、カインズ、ロッシュ。武器を仕舞え。リンちゃんだって騎士の端くれ、分別は弁えている。悪いようにはならないさ」


「……分かりました」


 俺が剣を収めた事でエリコたち親衛隊もしぶしぶ武器を収めた。

 そして再びルーティラ姫とリンダの戦いに注目するとまだ手に汗を握る攻防が続けられていた。

 リンダは先程と変わらずルーティラ姫周りを反時計回りで走りながら左手のゲイボルグを繰り出している。

 劣勢と思われていたルーティラ姫は既にリンダの攻撃に慣れてきたのか、疲労が蓄積されない程度の最低限の動作で斧を動かして槍を受け止め続けている。

 これならもしかするとルーティラ姫にも逆転の目があるかもしれない。

 この戦いを見守る親衛隊達の気が緩んだその時リンダの動きが大きく変化した。









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