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第19話 湖上を往く



 俺達を乗せた漁船団は列を成しながらミノス湖の中央に向かって進んでいく。

 やがて三百六十度どの方向を見ても岸が見えなくなった。

 自分達が今湖ではなく大海原の上にいるのではないかと錯覚してしまう程広大な湖だ。

 湖の様子は穏やかで航跡波のみが湖面を揺らしている。

 僅かに揺れ動く船の上はまるでゆりかごの様に心地よく思わずこのまま眠ってしまいそうになる。


「なあジュンさん、ずいぶん沖まで来たけどこの広い湖のどこに化けナマズがいるんだ?」


「それはこいつで見つけるんだ」


 ジュンが船を漕ぎながら顎でクイッと船の中央に設置された箱のような物を指した。

 その表面を覗いてみると何やらピカピカと光が点滅している。

 どうやら魔道具の類の様だが生憎俺は魔法についての知識は乏しい。

 小首を傾げながらこれは何かと訪ねるとジュンは得意そうに答えた。


「これはソナーっていう魔道具だよ。水中に超音波を発信してその反射で水中の様子を探る事ができるんだ」


「へえ、そんな便利なものがあるのか。ロウゼリアは魔道具の技術が進んでるな。うちの国なんか……いや、何でもない」


 俺は同じ魔道具の集合体であるインセクトのポンコツっぷりを思い出して大きくため息をついた。

 あれだけコキュート伯爵が自信満々に紹介した魔道兵器は初見の時こそ驚いたが蓋を開けてみたらとても実戦で使えるような代物ではなかった。

 あんなガラクタを揃えて帝国の剣だ盾だと得意になっているようではアルテラ帝国の未来が思いやられる。

 我が国のあの惨状を他国の人間に知られるのは恥辱の極みとも言えるだろう。

 しかしそんな俺の心の中を読み透かしたかのようにジュンが話を振る。


「そういえばアルテラ帝国では騎士団に代わって変な魔道兵器が採用されたそうだね」


「うっ……もう耳に入っているのか?」


「ああ、聖都でも話題になっているよ。アルテラ帝国は大陸一とも言われていた騎士団を解体して代わりに子供の玩具の様なお粗末な魔道兵器を配備してるってね。帝国は一体何を考えているんだい? ひょっとしてああやって他国を油断をさせて何かを企んでいるのかい? あんたも騎士団の武芸師範だったなら何か知ってるんだろう?」


「うーん、それはどうだろうな……」


「まあでもそんな国家の機密に関わるような事を部外者にぺらぺらと話せないよな。ははは」


「あ、ああ。そうだな」


 あの馬鹿皇帝がそんなことを考えているとはとても思えないが他国の人間がそうやって勝手に勘違いしてくれるのならそれはそれで戦争の抑止力にはなっているようだ。

 どうかそのままずっと勘違いしていてくれると助かる。


 ピコーン!


 その時ソナーが反応した。

 俺が乗っている船だけではない。

 他の船からも同じような電子音が聞こえる。


「やっと見つけたよ。この巨大な反応、間違いなくナマズ野郎はこの下にいるよ」


 一同に緊張が走る。

 ドロシーがルーティラ姫が乗っている漁船に向かって叫んだ。


「ルーティラさん、先程の技を頼みますわ」


「任せて!」


 ルーティラ姫は二つの斧を両手に持って湖に向けて振り回した。


「うわっとっと……」


 しかしその瞬間船が大きく揺れルーティラ姫はバランスを崩して転倒する。


「大丈夫ですかルーティラ姫?」


「ごめんなさい教頭。船が揺れて……わっ……」


 ルーティラ姫は大きく揺れるの船の上で立ち上がることができずにいる。

 これは不味いことになった。

 誰もが思いも寄らなかった事態だ。

 ルーティラ姫の白い旋風は安定した足場の上でしっかりと足を踏み込む事で初めて放つ事ができる技だが不安定な船の上では下半身の踏ん張りが効かず、無理やり斧を振り回せばこのように船が大きく揺れてしまいつむじ風を起こす事ができない。

 そしてドロシーの魔法はあくまで風を操る魔法であって何もないところから竜巻を生み出すことはできない。

 作戦は失敗だ。


「どうする? 一旦港に戻って作戦を立て直すか?」


 直ちに船上で緊急作戦会議が開かれる。


「じゃあこういうのはどうだい? ここにいる全員の船を鎖で繋ぐんだ。そうすれば船団が一つの大きな船の様に纏まって揺れが小さくなるはずさ」


「なるほど、連環の計ってやつか。確かにそれなら上手くいくかもしれないな。よくそんなこと思いつくなジュンさん」


「へへ、伊達に長年漁師はやってないよ」


「じゃあ早速鎖を……!?」


 皆がジュンの提案に従って船と船を鎖で繋ごうとした時だった。


 ゴゴゴゴ……。


 湖上だというの地鳴りの音が聞こえたかと思うと突然湖面がゆらゆらと波打ち始めた。


「おい、これってまさか……」


「いけない、ヴェルストラフが暴れ始めましたわ!」


 次の瞬間皆が乗っている船が更に大きく揺れ動いた。

 大地を揺らす程の力を持つヴェルストラフだ。

 湖面は嵐の海の様に大きくうねり出した。


「みんな船に掴まれ! 振り落とされるぞ!」


「わ、わ……」


「姫様危ない!」


 ジュンの声で各々が咄嗟に船のあちこちにしがみつく中、ひとり両手に斧を持っていたルーティラ姫は対応が遅れ船に掴まることができないまま湖に落ちてしまった。


「早く助けないと!」


「待ちな!」


 親衛隊がルーティラ姫を助けるべく湖に飛び込もうとするのをジュンが制止した。


「あんた達がこの荒れ狂う湖の中に飛び込んでもミイラ取りがミイラになるだけだよ。姫さんはあたしが助け出してあげるからあんたたちは姫さんが帰る場所をしっかりと守っててやんな!」


 そう言うとジュンは躊躇せずに湖の中に飛び込んだ。





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