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第17話 戦支度


 ドロシーの()()()を出た俺達は聖都の中央にある武器屋へとやってきた。

 店の主と思われる髭面の男がドロシーの姿を見て仕事の手を休めて笑顔で挨拶をする。


「これはこれは花聖女様。本日はどのようなご用件で?」


「ごきげんよう店主さん。今日はこの方達の武器を揃えに来たのです」


 地下室から出た途端淑女のように振る舞うドロシーの姿に思わず吹きそうになると同時に世間体を気にしながら聖都で生活しなければいけないこいつも色々と大変なんだなと同情する心が湧きあがった。


「という事はついに湖の主の討伐に向かわれるのですね。分かりました、お連れさんたちもどうぞこちらへ」


 やはりドロシーはこの聖都では慕われる存在のようだ。

 俺が冒険者だった頃武器屋の親父に散々足元を見られた過去を思い出して軽くジェラシーを覚えた。

 武器屋の奥へ案内された俺達は壁に立て掛けられた多くの武器の数々に目を奪われた。

 剣、槍、斧、弓矢、戟、爪、棒等ありとあらゆる武器がそこにはあった。


「どんな魔獣でも対応できるように様々な武器を揃えております。どれでも好きなものを持っていって下さい。花聖女様、料金はいつも通りエストライア教団にご請求させて頂ければ宜しいですね」


「問題ありませんわ」


「いつも御贔屓にして下さって有難う御座います。それではどうぞごゆっくり見ていって下さい」


 ルーティラ姫と親衛隊の皆は目を輝かせながら自分の得意とする武器を手に取りその質の良さに唸っている。

 俺も彼らと同様にいくつかの武器を手に取って入念に吟味する。

 雷神の槍グングニルにかつての英雄が使用したといわれる聖剣エクスカリバー。

 東国の名工が鍛えたと言われる呪われし銘刀古河公方村雨。

 必中の弓の異名を持つ弓フェイルノート。

 南方の国より伝わる破壊力のみを追及して作られた無骨なメイス、鉄蒺藜骨朶(てっしつれいこつだ)

 なる程どれもこれも相当の業物だ。

 さすがは多くの人が集まる聖都ミノア、皇都でも手に入らないような伝説級の武器が所々に置かれている。

 一通りの武器を使いこなせる俺は討伐する魔獣によって得物を決める。

 湖の主が相手ならやはり斬撃よりも刺突系の武器、例えば銛の代わりにもなる槍だろうか。

 いや待てよ、だとしたら斧しか使えないルーティラ姫は最初から戦力外という事になる。

 それが分かっていてドロシーはどうしてルーティラ姫に協力を求めたのだろう。

 俺の当然ともいえる疑問に対してドロシーは答えた。


「水中で湖の主と戦うような無謀な真似はしませんわ。ヴェルストラフは湖上に浮上させてから叩きます」


「奴は湖の底に生息しているんだろう? まさか巨大な竿で釣り上げるとでもいうのか?」


「くすくす、教頭は冗談がお好きですね」


「……真面目に聞いているんだが」


「それは失礼しましたわ。釣り上げるのではなく吸い上げるのです」


「吸い上げる? そうかお前は魔法も使えるんだったな」


「詳しくは現地で説明しますわ。各々得物が決まりましたら湖へ向かいましょう」


 周りを見ると皆は既に新たな得物を選び終わっていた。


「待ってくれ、俺がまだ決まっていない」


 俺は慌てて武器屋の中の武器を吟味する。

 そして多くの武器の中から一本の矛に目が留まった。

 トライデントと呼ばれる穂先が三つに分かれている矛だ。

 俺はトライデントを両手で持つと目を瞑って脳内物質を分泌させる。

 今俺の脳内ではヴェルストラフとの戦いのシミュレーションが行われている。

 ドロシーの魔法によって湖上に浮上したクジラ大の化けナマズヴェルストラフに飛び掛かってその脳天に矛を突き刺した。

 同時に他の皆も己が得意とする武器で一斉攻撃をする。

 その様子は冒険者だった頃に時々あった多くのパーティーが一堂に会して一匹の強大な魔獣を狩るレイドバトルを思い出す。

 ヴェルストラフは暴れて矛ごと俺を水中に引き摺りこもうとするが俺は咄嗟に頭部に突き刺さったままのトライデントから手を放してその場を離れる。

 ヴェルストラフは湖の中でしばらく暴れた後でついに力尽きて動かなくなった。

 俺は目を開いた。


 よし、いける。


 この矛ならば急所に突き刺す事ができれば充分致命傷を与える事ができる。

 俺は確かな手応えを感じた。 


「教頭、得物は決まりましたか?」


「ああ、俺はこの矛を使わせてもらうよ」


 意気揚々とトライデントを構えて見せる俺をドロシーはまじまじと見つめる。


「何だ?」


「よく似合っていますわ。まるで神話に出てくる海神ポセイドンのよう。そういえば教頭のお名前も海が由来なんですよね」


「ん? ああ、お袋に聞いた事があるが大海原の様に全てを優しく包み込む大きな男になるようにとの願いを込めてオーシャンと名付けたらしい」


「そうだったのですね。今の教頭のお姿を見ればお母様も草葉の陰で喜ばれているでしょう」


「……そうだろうか?」


「そうですとも」


 俺の話を聞いて周囲にしんみりとした空気が流れる。

 なんだか照れくさいな。


「よし皆準備ができたらさっさとナマズ退治に行こうじゃないか。今夜はナマズ鍋だな」



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