59 悪魔の気配
「……」
ナツキの家の周囲を調べていたセイは、その通知を受け取り、ナツキからの想いを感じるとともに、ミクトを衰弱させている悪魔に対しての確信を深めた。
夢魔、淫魔。両方の気配を感じた。それは確かだ。ミクトの取り合いをしているのかと推測したりもしたが、ミクトにだけ、気配が纏わりついていることが、気になっていた。それと合わせ、この情報から、読み取れる限りは。
「混合種か、結託」
珍しいが、無くはない。そして、混合種だった場合、それは、純血種や、二種の結託より、厄介だ。
セイは、なるべく言葉を選びながら、ナツキに情報と対策と、これからの動きを伝える。そのあとに、付け加えて、
『心配して下さって、ありがとうございます。ナツキさんに涙を流して欲しくは無いので、しっかり、気を付けます』
そう、送った。
*
朝ご飯を食べてから、通知を確認した。そしてスマホを仕舞い、朝食の後片付けを請け負う。
終えて、大掃除の続きとして、庭仕事をしながら、セイに返信した。
ミクトはお昼を過ぎても下りてこなくて、ノックして、でも返事が無い。今は緊急事態だからと心の中で断って「開けるよ」と部屋に入る。
「……寝とる」
ウサギのぬいぐるみを抱きしめて、寝ていた。枕元には、三つの石。
この場に悪魔は居ない、筈。ネックレスも、温かくて、細かい色々が動いているだけ。
それに、寝ているミクトの顔。
「…………」
とても、穏やかな顔だ。石のおかげか、セイが来てくれたからか。……どっちにしても、セイのおかげか。
私はそのまま部屋を出て、一応、セイに報告し、庭仕事を再開。
「悪魔め……一発入れてやる……待ってやがれ……」
庭木の選定をしながら、言った。
その夜、十一時半。今から向かうという連絡を受けて、私は玄関先で、セイを待っていた。ミクトは午後の三時に家を出ていて、帰ってきていない。何時に帰る、という連絡もない。
「おまたせしました」
目の前に、パッと、セイが現れた。
「ありがとう、来てくれて。無理言ってごめん」
セイを抱きしめ、言う。セイも、抱きしめ返してくれる。
「いえ、大丈夫です。あなたとミクトさんは、絶対に守ります。ご両親も」
「ありがとう」
今夜、悪魔が現れる可能性が高い。悪魔はミクトを気に入っている可能性が高く、そんなミクトに、悪魔除けを持った私と、セイが接触したから。そう、セイから伝えられた。そして、今夜、様子を見て、悪魔が現れたら、討伐か、もと居た場所に送り返す。そうも、伝えられた。
私も手伝いたい。せめて、一緒に居たい。ミクトを苦しめてる夢魔だか淫魔だか混合種だかの悪魔に、一発入れたい。セイに、そう送った。
セイは、了承してくれた。何があっても守ると、伝えてくれた。
「防音も目眩ましも、気配遮断もしてあります。まずは、ミクトさんの所へ行きましょう」
セイが少しだけ体を離し、私の顔を見て、言ってくれる。
「分かった。転移?」
「いえ、場所が場所なので空へ。良いですか?」
「分かった。前みたいにすればいい?」
「はい。では」
セイが、私を抱き上げる。私はその首に腕を回す。セイはそのまま浮かび上がり、空を飛び、近所の家の、屋根の上で停止。停止というか、空中浮遊。
「この家に、ミクトさんが居ますね。他にも数名。悪魔は居ません。このまま様子を見ます。……それで、良いですか?」
「私はいいけども……セイ、この状態で待つの、辛くない? 大丈夫?」
「辛くも何も無いです。お気遣いありがとうございます。ナツキさんが焼いてくれたクッキーと、……その、飲み物は、僕が入れたお茶がありますけど、どうします?」
少し、不安そうに聞かれる。
「食べる。お茶も欲しい」
即答した。
「では、出します」
直ぐ側の空中に、ゆらりと、私が袋詰めしたクッキーが三袋と、水筒が姿を表す。
「そのまま取って、食べて下さい。腕を外していただいて、大丈夫です。落としたりしません。絶対に」
真剣な顔に目を奪われて、
「……どうも……」
いや今は、そんな場合じゃないし、と、そっと、腕を外す。
「はい。問題ないので、どうぞ」
「うん。ありがとう」
クッキーの袋を、一つ取る。引き寄せ、開け、クッキーを一枚食べて。
そういや、セイはどうやって食べるんだ? 私を抱えてる訳で。両手が使えない訳で。
「……セイ、食べる?」
クッキーを一枚差し出す。セイの口元へ。
セイは驚いた顔をして、その顔を赤くさせて。
「……では、その、いただきます」
私の手からサクリ、とクッキーを食べた。
食べて、食べさせて。お茶も、私が水筒を持って、セイに口をつけて飲んでもらった。
その合間合間に、セイが時間を知らせてくれる。
そして、午前一時過ぎ。
「ミクトさん、玄関らしい場所にいます。そろそろ、出てくるかも知れません」
そして本当に、ミクトが出てきた。
「追いかけたいので、クッキーとお茶、仕舞って良いですか?」
「分かった」
空になった袋と、残りの袋詰めクッキーと水筒が、消える。
「ナツキさん、腕、どうしますか? このままでも、移動出来ますが」
「掴まらせて」
「分かりました」
セイの首に腕を回すと、「では、行きましょう」とセイが空中を移動する。ミクトの歩調に合わせて。
「……これ、家に向かってる?」
「そのようですね。……向かっているというより、引き寄せられている感じが、ありますが」
ミクトはふらふらと、千鳥足まではいかないけど、覚束ない足取りで歩いていく。
……ミクト、別に、酒に弱いとは聞いてないけど。これも悪魔か? おお? 悪魔かこの野郎?
「ご自宅に、入りましたね。悪魔の気配はありません。降ります」
「分かった」
セイが、玄関前に降りる。
「下ろして大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
下ろしてもらって、地面に足を着ける。うん、ふらついてもない。
「また、上がらせて貰いたいのですが」
「オッケーだよ」
鍵を開け、ドアを開ける。ミクトは、見当たらない。
「ミクトさんは、自室に向かいました」
「なるほど。ありがと」
セイに上がってもらう。
「ナツキさん。このまま悪魔と対峙する場合、僕がナツキさんとミクトさんをお守りしますが、ネックレスが妨げになる可能性があります。なので、ネックレスの石の気配を隠すために、結界で覆って良いですか? 悪魔に気取られないために」
「分かった。どうすればいい?」
「そのままで、大丈夫です。石、失礼します」
セイが、ネックレスの石を抓み、握り、離す。
「結界、完了です。あとは、悪魔が現れるかどうか、見張ります」
「了解。私の部屋でいい?」
「分かりました」
セイを連れて、部屋へ。
「失礼します」
「はい、どうぞ。電気、点けないほうが良い?」
「いえ、大丈夫です」
点けたら、ベッドで塊になっていた三匹がもぞもぞと動き出し、私のほうへ。
「ごめんね、起こしたかな」
小声で言いながら、コートを脱いで、ハンガーに。
「ナツキさん、ここからは無言でお願いします」
「?」
小声のセイへと顔を向ければ、コートがどこにもないのはいつものことだとして、それと別に、胸元あたりに、文字が浮かんでる。
『悪魔の気配が漂ってきました』




