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酔い潰れた青年を介抱したら、自分は魔法使いなんですと言ってきました。  作者: 山法師


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58 悪魔除けと悪魔祓い その効果

 なんか、嫌な夢を見た気がする。アラームを止めつつ、そう思う。でも、良く覚えていない。

 セイに、おはようスタンプを送って、着替える。洗面所に行って、身支度を整えて。

 台所に行けば、ミクトが居た。取り分けていた肉団子鍋を食べてる。


「ミクト、おはよう」

「ん」


 こっちをちらりとも見ない。……だいぶ、顔色が悪く見える。目の下のクマも、濃い。


「お母さんとお父さんは?」

「寝てんじゃね」

「そっか」


 ミクトの脇を抜けて、流しに向かおうとして。


「いだっ?!」「?!」


 バチン! と何かに弾かれた。ミクトの側から。悲鳴を上げたのは、ミクトだ。


「……なに? 今の」

「知るか。何だよ? ヤバい静電気みたいだったんだけど?」


 睨まれるけど、私にだって分からない。


「ちょっといい?」


 ミクトに手を伸ばす。


「あ? ──だっ?!」


 また、弾かれた。……幽霊は、見当たらないけど……。


「んっだくそ、手品か? アレに習ったのか?」

「いや、習ってないけど……? なに? この現象?」

「知るか! もう近付くな! 食べらんねぇだろ!」

「ご、ごめん……?」


 私は台所から出て、自分の部屋に戻る。


「どうなってんの……?」


 不安になって、ネックレスの石を握った。……温かい。──温かい?


「? ──?!」


 ネックレスを見れば、その菱形の中で、細かい紋様や魔法陣みたいなのが、光って、動いていて。


「……悪魔除け、悪魔祓い、悪霊除け、悪霊祓い……」


 悪霊なら、私にも気付ける筈で。だとしたら、あれは。


「……悪魔が、ミクトに……?」


 ヤバいだろ。それは。

 セイに連絡、電話しなきゃだ。繋がってくれ……!


『ナツキさん?』


 出てくれた!


「おはよう、朝にごめん。聞いて欲しいことがあって」


 私はさっきのことと、見聞きしたミクトの様子、ネックレスについて話した。


『──ナツキさん、冷静に聴いてください』

「う、うん」


 セイの静かな声に、背ずじを伸ばす。


『お話を聞く限り、悪魔が関わっている可能性が、高いです』


 ……やっぱり、そうなのか。


『御三方も、ナツキさんに何かあったと、察知したようです。今からそちらに向かいます。玄関前に、ナツキさんだけに分かるように。良いですか?』

「分かった。ありがとう。けど、仕事は?」

『まだ七時です。仕事は九時半からなので、大丈夫です。それに、ナツキさんの弟さん──ミクトさんに何かあるなら、そちらを優先したいと思っています。──着きました。玄関前です』


 もう着いた?!


「ちょ、ちょっと待ってて?!」


 スマホをそのままに、玄関を出る。


「おはようございます、ナツキさん」


 セイが居た。そして、


『『『にゃあ』』』


 セイに抱えられた子猫たちも居た。


「お、おはよう……? セイ、アオイは分かるとして、スリーキャッツは、なぜ?」


 駆け寄り、聞く。


「自分たちも、と、仰いまして。ケージを構築する前に、まずは、共に、と」


 家を眺めながら、セイが言う。


「じ、地縛霊なのに……? あ、今は守護霊か。……え? だったらこれからは、どこでも連れて行けるの?」

「未確定部分が強いです。要検証、ですね。それで、ナツキさん」


 子猫たちに登られながら、セイが声を厳しくした。


「悪魔、関わってます。けれど今は、ここには居ません。安心して下さい」

「そ、そうなんだ……? ミクトは、兎も角今は、大丈夫なんだね?」

「はい。……ミクトさんに、会っても大丈夫ですか?」

「え、今から? 周りになんて言えばいい?」

「いえ、失礼になってしまいますが、ミクトさんにだけ、会います。それから悪魔の気配を辿って、出処を探ります。あと少し、失礼」


 セイが私の頭に手を乗せ、離す。


「……ミクトさんの近くに居たからか、ナツキさんにも、ほんの少し、悪魔の気配が絡んでいました。今、それを吹き飛ばしました。それで、会えますか?」


 真剣な顔で、セイが、ミクトの部屋のほうを見る。……これは相当に、緊急事態かもしれない。


「分かった。部屋まで案内する。着いてきて」


 玄関に入り、ミクトの部屋へ直行。ドアをノックする。


「ミクト、居る?」

『んだよ』

「居るね。部屋、入るね」

『は?』


 躊躇わず、開ける。中に入る。


「お前マジ何? 朝っぱらからさぁ」


 ミクトはベッドに腰掛けていて、持っていたウサギのぬいぐるみを横に置いた。私がプレゼントしたものだ。

 ミクトは、可愛いものが好きだ。けどそれを、小さい頃に周りに誂われてから、隠すようになった。人を部屋に呼ぶ時に、大掃除をするように──そういうモノたちを、隠すようになった。

 両親にも、極力見せない。私には、見せてくれる。ミクトを誂った奴らをボコボコにしたから、許している、らしい。


「緊急事態です。車崎アオイさんに来てもらっています。今、目、瞑ってもらってる。そのまま部屋に入ってもらうよ。詳細はあとで説明する」

「はあ?」

「入って、アオイ」


 失礼します、と入って来たアオイに、ミクトは固まった。


「こんな形ですみません。車崎アオイと言います。神永ミクトさんですね」


 目を瞑ったままミクトの前まで来て、セイは片膝をつき、顔をミクトに向ける。目を、閉じたまま。


「ナツキさんの言う通り、詳細は、後日、お話します。……ありがとうございます。大丈夫です。失礼しました」

「……アンタ、目、見えない人?」


 立ち上がるセイに、ミクトが、恐る恐る聞く。


「いえ、見えます。プライバシー保護として、目を閉じているように、と、ナツキさんに言われましたので、こうしています。あなたの生命は保証します。あとこれを、持っていて下さい。優れない体調を、少しですが緩和するものです」


 セイはジャケットのポケットに手を入れ、固まったままの、ミクトの膝の上に、そこ──に繋がる空間からだろうけど──から出した石を複数置く。


「これから、調べ物がありまして、すみません。体調不良の原因は、判明次第、ナツキさんにお伝えします。こんな形での挨拶となってしまいましたが、ご了承を。では、失礼します」


 セイは一礼して、消えた。


「……ファンタジーかよ」


 ミクトが、不機嫌そうに言う。


「ナツキ、お前、詐欺とかよりヤバいもんに引っかかってねぇ? てか、これ、何?」


 ミクトは、膝の上の石たち──青と緑と紫だ──から、紫を抓み、照明に翳す。


「引っかかってはない。それは保証する。アオイはね、朝の謎の件について、調べてもらうために来てもらった」


 そのままの位置で、話す。また弾かれないように。


「あの意味不明な? ビリビリショックのあれ?」

「そう。で、ミクト。気分、どう?」

「驚いてる」

「そうじゃなくて。アオイが言ってたでしょ? 体調不良を緩和するって。緩和されてる?」

「いや、緩和される訳ねぇだろ。ただの石で。……たぶん」


 ミクトが、奇妙な顔をする。効果はあったらしい。


「……ねぇ、ミクト。話せるだけでいいから、最近どうしてたか、教えてくれない? 私もアオイのこと、話せるだけ話すから」


 言っていたら、スマホに通知。


「ごめん、ちょっと待って」


 セイからだ。しかも、


『ミクトさんに関わっている可能性が高い悪魔は、夢魔か淫魔です。ミクトさんから濃密に、その気配を感じました。ミクトさんの周りだけです。だから、ご自宅の写真を見た時も、気付けなかった。すみません。ミクトさんに、最近の生活状況などを、聞いて下さいませんか? 特に、夜の時間帯について。聞ける範囲で構いませんので』


 私は『分かった。ありがとう。聞く』と、送り、スマホを持ったまま、その場に座る。

 夢魔、淫魔。セイが言うなら、間違いないし。ミクトの様子からして、すんごいタチ悪そう、その悪魔。


「今、アオイから連絡があった。調べてくれてるって。で、ミクト。夜、眠れてる?」

「お前もそれかよ。寝てるよ。健康……たい、だし」


 ミクトが顔を背ける。ある意味とても素直だ。


「寝れてるんだね。なら、……夢とか、見てる?」

「夢……。見た気はするけど、あんま、覚えてねぇ」

「なんとなくは、覚えてる? 言える?」

「なんか、良い夢。いつもそう。……帰ってきて、寝て、起きたら、良い夢見たって気分になる。そんな感じ」


 ミクトが、その時の気分を思い出してか、うっとりとしたような表情になる。


「そうなんだね。……良い夢見れるなら、なんであんまり帰らないの?」

「……分かんねぇ。足が向かない。けど、良い夢見たいから、なんとか帰ってる」


 なんか、ドラマとかで見る、ドラッグにハマった人みたいな感じだな。


「そうなんだ、分かった。良い夢見れるようになったのは、いつ頃?」

「……よく、覚えてない。ここ二週くらいは、確実に見れてる、気がする。……なんなん? これ。問診?」


 苛ついてる様子のミクトに「みたないもの」と返す。


「ワケ分かんねぇな。お前もアレ、車崎の話、すんだろ。言えよ」

「分かった。話すね。最初から、話す。アオイとはね、よく行く居酒屋で、偶然会ったんだよ」


 伏せなきゃいけないとこは無理だけど、話せるところは出来るだけ話す。そうしていたら、母に呼ばれた。


「お母さん、呼んでるね。朝の支度、やってもらっちゃった。続きはあとで話すから、下、行こう」


 立ち上がり、言う。


「……先に行ってろ」


 硬い声で言われる。


「分かった。先に行ってるね」


 部屋から出て、自分の部屋へ。行ったら、子猫たちが居て、すり寄ってくれる。


「ありがとう、来てくれて。けど、ちょっと待ってね」


 私はその場でラインを開き、セイに、聞いたことや受けた印象などをなるべく細かく伝え、最後に。


『ミクトのこと、本当にありがとう。でも、セイも危険な感じとかあったら、教えて。無事を知らせて。顔見せて。セイに何かあったら、私、泣くからね』


 心配です、無理しないで、愛してる、LOVE、ハート。使えるスタンプを送りまくって、スマホを閉じた。




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