51 今度はちゃんと
「やっぱ、予約しておいて良かったね」
席に座りながら言う。
平日とはいえ、クリスマスシーズンだからか、中々に混んでいる。
「そうですね。……この時期って、こんなに人、集まるんですね……」
セイがしみじみと言う。
「飲み会とか、クリスマスにしなかった?」
「しましたけど……あまり、周りは見てなかった、見えてなかったです」
セイがまた、しみじみと言う。
「そっかぁ……まあ、それじゃこれからは、一緒に見ていこうね」
セイは、少し驚いた顔になって。
「……はい。あなたとなら」
ふにゃりと笑った。
この笑顔、安心するなぁ。
注文した料理を食べ、デザートを食べ。
ごちそうさまでした、と店を出て。
「……良いですか?」
不安そうに、確かめるように聞いてくるセイに。
「オッケーだよ。教えてくれたしね。楽しみにしてたし」
笑顔で、そう答える。
「……では。……今、目眩しをかけましたので、……失礼します」
セイは、私をひょい、と、抱き上げる。私はセイの首に、腕を回す。てか、安定感ヤバいな。
「それでは、……行きますけど、大丈夫ですか?」
また、不安そうに聞いてくるから、
「大丈夫。楽しみだし、信じてる」
安心してもらえるように、笑顔を向ける。そしたら、セイの顔が一瞬、泣きそうなものに見えて。
「ありがとうございます。ナツキさん」
何か言う前に、それは『ふにゃり』の笑顔になった。
「では、改めまして、行きます」
私を抱えたセイが、浮かび、空に向かう。
ゆっくり、だけど、どんどん上昇していく。
高ぁい。
「周りの環境は調節していますが……息が苦しかったり、体に違和感は?」
「無い。すっごい眺めが良い」
「それは良かったです」
そのまま空の旅で、アパートまで。
「到着です」
ふわり、と、セイが地面に降りたのが分かった。
「ありがと。すっごい楽しめた。さすがセイだね」
セイのほうへ顔を向けて、言ったら。
「ナツキさんのおかげです」
額を合わせてきて、微笑まれた。
くぉ、こ、このぉ……!
「では、下ろしますね」
「う、うん」
そっと下ろしてくれて、足が地面に着く。
「うん、立てたよ。大丈夫」
「……はい、そうですね」
「じゃ、帰ろう」
「……はい……!」
うっれしそうにぃ! 可愛い奴めが!
部屋に帰って、玄関で待ってくれていた子猫たちを撫でて、支度して。
「ほい、じゃ、ケーキの続きをします」
「よろしくお願いします」
子猫たちに登られたセイと一緒に、キッチンで。
また説明しながら、完全に冷めたケーキのスポンジを型から外し、クッキングシートを外し、まっすぐにカット出来る型をセットして横に切って、冷蔵庫へ。いちごも洗ってカットして、冷蔵庫。氷水で冷やしながら、生クリーム──お高めなやつ──を、再び登場のホイッパーで、八分立て。
ケーキといちごを出し、ホイップクリーム、いちご、ホイップクリーム、で、挟む。周りをクリームで真っ白にして、残りのクリームを、口金を付けた絞り袋に投入。冷蔵庫からクリスマスの飾り付けお菓子を出し、いちごと共にクリームでデコって、
「完成です。どう?」
「今すぐにでも食べたいです」
「あは、ありがと。でもこれは夜ね」
ケーキと、余ったいちごとホイップクリームを冷蔵庫へ。
「そして、お片付けです」
「やります」
「お願いします」
やってもらって、そのあとは、ソファでだらだらと。テレビを点けたら、
「あ」
アジュールの話題を出していて、消そうか変えようか、セイに顔を向けて。
「大丈夫です。このままで」
凭れてきたセイに、「そう?」と聞いてしまう。
「はい。最近は、結構大丈夫です。そもそも、お客さんやスタッフの人たち以外の感想や意見は、あまり聞いてこなかったので。勉強になります」
「そっか」
アジュールの話は、バズった動画から、クリスマスショーの話へ。
「これ、観ます?」
「……答えて、大丈夫?」
「聞きたいです。観なくても、観るのだとしても」
「……観る予定。会社のみんなと」
「ありがとうございます。頑張ります」
セイが、穏やかな声で言う。子猫たちは、足元で寝ている。
平和だなぁ、と、そのままだらだら過ごした。
そして、夕方になって。
「作業を始めます」
「よろしくお願いします」
作るのは肉団子鍋である。クリスマスっぽくないけど良いの? と聞いたら。
『……今度は、ちゃんと、食べたいので……』
しゅんとされてしまい、
『分かった。一緒に作ろうね』
と、頭を撫でた。
「この前の作業、覚えてる?」
「なんと、なくは……」
「ならば、最初から説明してくね」
と、土鍋の説明から始める。下準備、野菜やきのこの切り方、処理の仕方、肉ダネの作り方。作りつつ説明して、お鍋が煮えてくる。
「セイ、カセットコンロの準備、お願いできる?」
「分かりました」
セイは、瞬く間にカセットコンロの準備を終えた。
「お鍋、持ってくね」
「はい」
で、カシャン、と置く。位置を確かめ、火を点けて。
「食器、持ってきます」
「おお、ありがとう」
セイは、前回とほぼ同じ食器を、ちゃんと数を揃えて持ってきてくれた。違うのは、セイのお箸。と、ペアグラス。……良いな、こういうの。
「合ってます?」
「合ってる。大丈夫だよ。ちゃんと出来てる」
「良かったです」
そのまま、セイに食器を並べてもらう。今日は隣同士だ。そして、私はお酒──日本酒を持ってくる。
日本酒を開けようとして、
「僕が、僕にやらせて下さい」
「そう? じゃ、お願い」
と、渡す。セイは日本酒を開け、
「注ぎますので」
と、ニコニコしながらグラスを渡してくれた。
「どうも。次は私がセイに注ぐからね?」
「はい。ありがとうございます。では」
日本酒を、グラスの七分目くらいまで、で、ストップをかける。
「はい、私の番」
グラスを置き、手を差し出す。
「お願いします」
日本酒の瓶を渡され、私がセイのグラスに注ぐ。同じくらい注いで、ストップがかからないので、
「もっと?」
「もう少し欲しいです」
なので、八分目強注いだ。
日本酒を置き、グラスを持ち、
「乾杯」
軽く掲げれば、
「……はい。乾杯です」
セイはほわっと笑ってくれて、カチン、と、グラスが合わさった。
「あと、少し早いけど、メリー・クリスマス」
「はい。メリー・クリスマス、ナツキさん」
日本酒を呑んで、お鍋を食べて、
「やっぱり美味しいです」
「良かった。これからの冬の定番かな?」
「これからの……」
セイは手を止め、私に顔を向け、
「今、すごい嬉しいです」
本当に嬉しそうに言った。
 




