38 その魂に、作用する
セイの家に行くからと、少し早めにセットしたアラームで起きる。
結局昨日なんだかんだ、色々あって零時近くに寝たけど。
「んー……!」
少し眠いだけだな、うん。因みに、現在時刻は五時過ぎ。ベッドにはクロとシロ。ミケは、セイのところかな。
「撮らせてねー」
小声で言って、クロとシロの画像を得る。あー、離れてなかったら、二匹一緒のが撮れるのに。
早く三匹一緒に撮って、スマホの壁紙にしたい。
そんなことを思いながら着替え、そっとドアを開ける。
暗いな。カーテン閉めたままか。てか、電気も暖房も消えてるね? ちょっと寒いよ?
暖房を点け、セイを見れば。
……寝とるがな。寝れたんだ。良かった。アラームセットしたって言ってたけど、聴いてないな。切ったのかな。ま、まだ時間あるし、そっとしとこう。で、ミケも、セイにくっつくように寝てる。写真撮りたいけど、我慢しよう。
なるべく音を立てないように支度をして、キッチンに来て、気付いた。
私のと、セイが使ったコップ、洗って片付けてある。
「……ふはっ」
君は本当、いいヤツだ。
五百年生きて、幽霊見えて、それだけでも、私より断然苦労してる筈なのに。悪魔の存在を知ってて、危険性も知ってるってことは、少なからず、そういう経験がある筈で。魔法使いで、隠さなくちゃいけなくて、それにも苦しんでるのに。
私のために、ここまでしてくれて、さ。
どうすれば、君の力になれるかな。
なんてことを思いながら、朝食の準備をする。
ここで食べてから家に向かうことになってるし、セイにはそのあと仕事がある。朝食のリクエストはなかったけど、食べられるなら、しっかり食べてほしい。
で、準備を終えて。
「そろそろ起こしますか」
時刻は五時四十分ほど。出掛ける予定時間は七時。セイにも支度があるだろうし、うん、起こそう。
「おはよう、セイ。朝だよ。朝ですよ」
……なんか笑った。良い夢でも見てるのかな。
「セイー朝だよーカーテン開けるよー」
両方を、全開に。季節が季節だから、光は弱い。
「セイー? 起きないねー?」
電気も点ける。ミケは起きた。
「セイー、セイさーん、セイくーん。おっはよう朝ですよー」
ぺちぺち、と頬を軽く叩く。むにゃむにゃとなにか言っている。
「セイー……どうしたら起きてくれるんだ」
茶色の髪をくしゃくしゃしながら、強硬手段に出るか、と、決意する。
スマホの音量を、最大にセット。
「セイ、最後通告です。おはよう、起きろ。起きないなら、爆音でアラームを鳴らす」
……起きないね。よし。
タップ。同時に耳元へ。
流石に顔をしかめた。そろそろ起きるか?
「んん……」
お、起きるか?
「え」
スマホごと、手を掴まれた。
「起きた?」
アラームの音が消える。え? 何が起きた?
セイに掴まれたままの手を動かして、てか、寝てるのに離さないな。アラームが鳴り続けてるのを確認する。
「防音した? したね? セイ?」
しょうがない。
「コッラ起きろ! 眠いのは分かるけど起きろ! 朝ご飯! 食べないの?! 食べちゃうよ?! 一人で全部、」
「食べます」
ガバッと起きて、目をパチパチさせて。
「……おはようセイ。起きた?」
「お、は、え、あ、……え?」
セイは瞬きしながら私を見て、周りを見て、また、私を見て。
「えっわっえあ?!」
私から手を離して、そしたらまた、アラームが爆音で聴こえ出した。
「起きたねーセイ。おはよう」
アラームを切って、言う。
「お、おはようございます……すみません……」
セイは、布団の上で正座して、縮こまって、ちっさい声で言う。
「大丈夫大丈夫。ちゃんと起きてくれたから。朝の支度、出来そう?」
「あ、はい。はい。それは、はい」
「うん、じゃ、行ってらっしゃい。私は布団をちゃっと片して、朝ご飯の仕上げに取り掛かるから」
立ち上がって、言ったら。
「あ、いえ、布団……その、綺麗に、洗浄させて下さい」
セイは、ワタワタしながら布団から下りて、手をかざす。布団はパッと動いて、今すぐまた眠れるような状態になった。
「洗浄、終わりました。では、支度してきます」
「おお、ありがとう。行ってらっしゃい」
洗面所に向かうセイを横目に、スマホを仕舞い、布団を畳み、寝室へ。
洗浄したって言ってくれたので、それに手触りが良くなっているので、一旦、そのまま仕舞うことにした。
で、キッチンで、料理再開。してたら、セイがキッチンに来た。
「すみません、あの、僕、……寝てました……?」
「私には寝てるように見えたね」
「で、す、よね……すみません、たぶん、寝ぼけて、防音と、その、手を……」
「いーよいーよ。掴まれたのはびっくりしたけど、痛くはなかったし。どのくらい寝れたのかは分かんないけど、久しぶりに寝れたんでしょ? なら、良かったよ」
「……どのくらい……どのくらい……? え……? あれ?」
どういう意味で戸惑ってるのかな。
「セイ」
「あっはい」
「ご飯、出来たから、並べるの手伝ってくれる?」
「あ、はい」
*
朝ご飯は、冷凍クロワッサンをオーブンで解凍したヤツと、ポトフと牛乳。デザートはレンチンプリン。
二人でいただきますをして、食べ始める。一応、クロワッサンは市販品だからと、伝えたら。
『ミャウ』
ミケが鳴いた。因みに、三匹はソファに居る。
「マジですか……」
セイが、ミケのほう、クロワッサン、私へと顔を向ける。
「……ミケはなんて言ったのかな?」
「あ、や、ナツキさんはクロワッサンを作れて、これより遥かに美味しいと」
まじかー。
「ミケー? ミケは、このクロワッサンも私のも、食べたこと無いと思うんだけど、どうしてそう言ってくれるのかな?」
そしたら、三匹がみゃうみゃう言い出して、座面によじ登ってくる。
「ごめん、セイ。翻訳を頼む」
「え、やぁ……」
セイは顔を赤らめつつ。
「えーと、ですね。ナツキさんの作るものは心がこもっているから、大多数に向けた市販品より魂に作用する、と。それと、そもそもとしてナツキさんは料理がお上手で、作りたてのほうが断然美味しいから、だそうです」
「……大体分かったけど、魂に作用って、何?」
聞いて、ポトフの人参を食べる。
「え? あ、ああ、そうですよね。ナツキさんのお近くには、そういうことに詳しい人は居ないんですよね。無生物だと少し違いますが、生物は皆、魂を持ってます。だから幽霊も存在する」
「ふむふむ」
クロワッサンを齧る。
「それで、心は、科学で言う精神とはまた違うんですが、魂にとても影響を与えるんです。良くも悪くも」
「ほう」
牛乳を飲む。
「それで、ナツキさんの心の向け方、だと思うんですが、あの、愛情を込めて作る、というような言葉があるじゃないですか。それがそのまま、魂に良い影響……恐らく、癒やすだとか、活力を与える、そういう意味だと、思います」
三匹が何度か鳴いた。
「…………せ、正解だそうです……」
「そっかぁ」
正解以外もなんか言ってるよね? まあ良いか。
「ミケ、クロ、シロ、教えてくれてありがとね」
三匹に顔を向けて言ってから、セイに顔を向ける。
「セイも、ありがとね」
「いえ……」
「どっかで一緒に作ろうね、クロワッサン」
「えっ、は、……はい。お願いします」
まだ赤い顔で、けどセイは、しっかり頷いてくれた。
そのあと、どうやったらレンジでプリンが作れるのかと、
『この、美味しいのが……? プリンって、なんか、このタイプのは蒸すって、前に、いつだったっけ……』とセイに首をひねられたので、サラッと作り方を説明した。
で、逆に、『このタイプのプリン』の意味を聞いたら。
『あ、それはですね。師匠の故郷では、その、いわゆるケーキのようなものをプリン……pudding……プディングと、呼んでいたそうで』
『あ、あー……本かなんかで見た。そういうの』
『えっ、知ってるんですか?』
『同じものかは分からないけど……時代とか、地域でだいぶ違うらしいし。けど、存在は知ってる』
『はー……そうなんですか……』
みたいな一幕があった。お師匠さん、どこ出身?




