33 自分の不甲斐なさと、あなたへの愛おしさと
「お味はどうですかね」
「美味しいです! とても!」
「そりゃ良かった」
本当に美味しそうに食べてるもんねぇ。気に入ってくれたようで、なによりだ。
それと、子猫さんたちや。いつ、セイから下りるのかな?
「そいやさ、セイ」
「? ……なんでしょう」
「ここに鍋持っていっていいって聞いた時、なんかしてた?」
聞いて、しいたけを食べる。
「ああ、それは、このカセットコンロをいうものの観察……あ! すみません! 事前の承諾もなしに!」
観察。
「んや、別に、大丈夫だよ。観察して、なんか、成果あった?」
「ああ、はい。それはもう、色々と。内部を観察してですね。ガスの種類や機器の構造、この火の点き方は見せてもらったものを思い出しながら、火力などを推測したりしてました。色々とタネに使えそうです。ちょっと買おうかと」
すっごい生き生き語るね?
「そういやセイ、理数系得意って言ってたっけ」
「え? ……ああ、はい。言いましたね」
「私、素人だから分かんないんだけどさ。魔法と機械……理数系ってなんか関係あるの?」
「ありますね。魔法も科学も、あと錬金術もそうらしいですが、ひっくるめて言えば全て、現象なので。何がどうしてどうなっているか、どうしてそうなるのか。みたいなことをきちんと理解していないと、あの、科学の実験でも事故とかあるじゃないですか。魔法もそういうことが起きてしまうんです」
「ほおん……すごすぎて分からない。けど、セイのほうが絶対私より頭良いね」
団子を食べ、ネギを食べ、人参を食べ。
そんな感想を言ったら、セイがまた、ムッとした顔になった。
「そんなことないと思いますけど……」
「どうだろうね。私、文系だったし。大学の偏差値も低いとこだよ。あ、セイはどこ行ってたの?」
「大学ですか? 亰大です」
「……エリートじゃん」
頭良い人が通う大学の三本指じゃん。
「いえ、まあ、大学自体はそういう方針で、通っているのもそういった人たちでしたけど、僕はもう、手品──マジシャンやってましたから。落第生の部類です。論文もギリギリって、覚えてます?」
「覚えてるけども。ん、ごめん。なんか連絡きた」
「いえ」
確認して、母からだった。
「……あー……セイ。ちょっと良いかな」
「はい」
「母からね。あれの他に写真はないかって。今撮っても良い?」
「構いませんが、お母様からもですか?」
「うん。いや、母はね。……私が騙されてるんじゃないかって。はーごめん。協力してもらってる立場なのに」
「……ナツキさん」
そりゃ怖い顔になるよね。
「うん、ごめん」
「いえ、そうではなくてですね。語り口と言いますか、雰囲気といいますか。今まで他にも、こういったことがあったような感じを受けたのですが」
……やっぱ頭良いな。
「うん。あった。伯母さんの興奮具合、覚えてる?」
「はい」
「あのあと周りにね。言って回ったらしいんだ、伯母さん。だから家族も全員把握してるし、……それだけなら良かったんだけど。伯母さんがさ、色々質問してくる訳よ。前に見せた学歴だとか出会いだとか色々と」
汁をすすって、一息つく。
「あんまり突っ込まないでほしいって、かわしながらさ。最低限の内容送ってたんだけど。家族にもその話が流れてね。だんだんどう対応すれば良いかわかんなくなってってさ。やーごめん」
なるべく明るく言えば、今度は、泣きそうな顔になってて。
「ナツキさん。あなたは僕に、頼ってほしいと言ってくれました。頼りたいとも言ってくれました。僕たちは、……恋人です。フリだろうがなんだろうが恋人です。どうして一人でやろうとしたんですか? 僕はそんなに頼りないですか? ここまで悩ませてしまっていたことに気付かなかった僕にも、責任はあると思います。ですけど、……お願いします。頼って下さい」
泣きそうな顔が、本物の泣き顔になった。
「……ごめん。ごめんね、セイ」
立ち上がってティッシュボックスを持って、セイの側に回り込む。
「セイ」
箱を差し出すけど、震えている手は箸と取り皿を持ったまま。指の先が白くなってる。
「セイ、ごめんね」
ティッシュでセイの涙を拭いていく。けど、拭いても拭いても止まらない。
「ごめんね、頼るよ。全力で頼る。セイ、……どうすれば良いかな」
どうすれば涙は止まってくれるかな。君のそんな顔、見たくないよ。
「……いえ、僕も、感情的になりました。すみません」
駄目だ。この声は駄目だ。
「セイ、ちょっとごめん」
返事を待たず、セイの首に腕を回して、力を込める。三匹たちが、するりと下りる。
「セイ、ごめん。そんな顔させてごめん。頼ってなくてごめん。君を苦しませたくないよ。……違うな。こんなふうに苦しんでほしくないんだよ……! セイ……!」
「……ナツキさん」
「うん」
「……抱きしめて、良いですか」
「うん」
そっと、腕が、回されて。肩に頭を置かれたのが分かった。
もっと強くしていいよと、腕の力を強める。
察してくれたのか、どうだかは分からない。けど、腕の力は強まって、肩に乗った頭が震えて、セイが泣いているのが分かった。
けど、さっきの涙と違うような気がして。
泣かせちゃってるのに、嬉しいような、むず痒いような、そんな気持ちになってしまった。
 




