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酔い潰れた青年を介抱したら、自分は魔法使いなんですと言ってきました。  作者: 山法師


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27 アジュール

「あ、神永。アレ、見た?」


 今日は出社日である。そしてお昼の時間である。ルーティンの如く休憩室で弁当を広げようとしていた私に、そこに入ってきた同期の副島(そえじま)──副島リクが、声をかけてきた。

 因みに副島は、ユイちゃんも居た自宅飲み会の、参加者の一人である。写真を撮った人物である。


「あれ、とは」


 ちょうど今、休憩室には私と副島しか居ない。ので、肩肘張らず、普通に聞いた。


「このさ、昨日の夜、バズったやつ」


 私の隣に座りながら、スマホを操作する副島。いつも思うけど、そのゴテゴテギラギラ長めのネイルの指で、よくそんな器用に操作するもんだ。


「バズった? さあ……心当たりはないかな」


 弁当を広げつつ、言う。

 昨日は三匹と遊びまくって、筋トレしてたし。

 そもそもあんまり、SNSとか動画サイトとか、見ないんだよね。写り込んでたりする悪霊に、目をつけられたくないし。


「コレ。ヤバくね?」


 唐揚げを食べつつ、ヒョイ、と間に差し出された画面に目を向ける。それは数十秒ほどの長さが主流の、動画アプリ。

 流れているのは、海中の動画……かと思ったら、違う。

 ショーやミュージカルをするような、ホールに見える場所。そのホール全体がうす青く染まって、沢山の魚やイルカ、クジラ、あ、シャチもカメもいる。の、が、本物みたいに泳いでいる。観客席はざわめいて、それに手を伸ばす人もいる。


「……何? 何かの宣伝?」


 唐揚げを飲み込み、聞く。


「マジックショーだってさ。ほら、まだ伸びてる」


 伸びてる、のは、閲覧の数。二桁万。

 けど、それより気になるのは。


「マジックショー……?」


 その言葉と、到底マジックには見えないそれと、壇上の真ん中に立つ、一人の人。青い髪、顔全体を覆う綺羅びやかな仮面。青系統の豪華な衣装。


「そ。そこに出てるけど、アジュールって人のだってさ」


 副島はテーブルにスマホを置き、袋からカロリーノメイト二箱と、緑茶のペットボトルを出す。


『いかがでしょう。息の出来る海中です』


 スマホから誰かの声がした。仮面をつけ、壇上に立つ人が腕を振る。そしたら、お客さんたちの髪が、ゆるく揺れ動いた。まるで、波を受けたように。


『あと四度、この奇跡を起こせます。それを、体験したいお客様はいらっしゃいますか?』


 そこで動画は終わった。


「あ、終わった。他にもあるけど、見る?」

「ほか?」

「そ。コレ系があと四本。フルがチューブで一本」

「じゃあ、その短いやつ、どれか一個」

「ん。んー、じゃ、これ」


 と、切り替わった画面に映ったのは、色とりどりにキラキラ光る、沢山の……ナニ? コレ?


「なに、これ」


 思わず心の声が出た。


「妖精さんってリクエストで、出た、あ、出した? やつ」


 副島は言って、カロリーメイトを食べる。


「妖精さん……」


 小さい人型で、半透明の羽を動かし、キャラキャラと鈴が鳴るような、音だか声だかを出して飛ぶ、幻想的な『妖精さん』たち。


「すっごいね……?」


 これも、閲覧数が二桁万だ。それも、後半の。


「なー。偶然回ってきたけど、そりゃ偶然でも回ってくるわって思ったわ」

『名残惜しいですが、そろそろ、お時間です。彼らは、自分たちの世界に戻らなければなりません』


 仮面の人の声に、『妖精さん』たちが名残惜しそうな音を出す。


『ですが、再び機会があれば。また相まみえることも、夢ではありません』


 『妖精さん』たちは嬉しそうに動き回り、バイバイ、と伝えるように、腕を振る。


『それでは、また』


 仮面の人が、指を鳴らす。パチン、ととても良く響いて、瞬間、『妖精さん』は、ひとり残らず消えていた。僅かな煌めきが空中を漂い、溶けるように消えていく。

 動画はそこで終わった。


「……気になんならチューブのやつ、送ろうか?」

「え」


 副島の声に、ハッとして。自分が動画に見入っていたのを理解する。


「あ、ああ、うん。お願い。気になる、これは」


 色々な意味で気になる。


「ん」


 と、副島はカロリーノメイトを咥えながら、スマホを操作し始める。

 私は給湯室から持ってきていたお茶を飲み、心を落ち着かせ、


「……びっくりした……」


 ある意味本音を口に出す。


「あんなん見たことないわ」


 言って、ご飯を口に運ぶ。


「同感。送ったからさ、時間ある時見てみ。あれだけでもヤバいけど、全部はもっとヤバい」

「ヤバいってなんだ怖いな」

「まあ見てみ」

「見てみるけども」


 そこに、ノックの音。はいと応えれば「失礼します」と、ユイちゃんが入ってきた。


「あ、先輩。副島先輩も。お疲れ様です」

「お疲れ様です。ユイちゃん、お昼、もう終わったの?」


 壁にかかっている時計では、まだ昼になってから十分も経ってないけども。


「あ、いえ、なんだか今日、混んでて。ゆっくり食べたかったので、こっちに来ました」


 ユイちゃんは、いつもお昼を食べに行くカフェの紙袋を持ち上げ、そう説明してくれた。


「ご一緒して良いですか?」

「私は全然」

「右に同じ」


 君は私の左にいるが? と心の中で突っ込んだ。

 ユイちゃんは副島とは反対の、つまり私の右隣に、腰を下ろす。


「あ、そうだ。先輩がた。アジュールって人の動画、見ました?」


 こっちを見て言うユイちゃんに、ユイちゃんまで話題に出すとは。マジでバズったんだなぁ、と思った。

 けど、その時私は二個目の唐揚げを食べていたので、


「ん」


 と、首を縦に振って、副島を示して、その肩を軽く叩く。


「んあ? ああ、さっき見せた。ちょっとだけど」


 三本目のカロリーノメイトを食べようとしていた副島が、私の意図を察して説明してくれる。


「あ、そうなんですね。あれ、凄くないですか? 私、チューブのほうも見たんですけど、今の技術どれだけ進んだんだろって、思っちゃいました」


 紙袋からカフェオレとバゲットサンドを出しながら、ユイちゃんが言う。


「なんかこう、マジックって分かってても、本物? ていうか、そこにホントに存在してる? みたいに思えちゃって」

「分かる。ちょっと見ただけだけど」


 もの凄く共感する。


「ユイ、なんかめっちゃ興奮してる感じするけど、ハマった?」

「あ、あー、そうですね。そうかも。あれ、昨日寝る前に見つけて。フル、二回見ちゃいました」


 言って、カフェオレを口につけるユイちゃんに、


「フルって二時間あるじゃん。ちゃんと寝た?」


 四本目のカロリーノメイトを持ちながら、副島が言う。


「えっ二時間? 計四時間? で、寝る前? ユイちゃん大丈夫?」

「あ、寝る前に二回じゃなくてですね。昨日は一回、それと、朝起きてから会社着くまで、切れぎれで一回って感じです」


 ユイちゃんはそう言って、サンドイッチを食べる。


「……副島もユイちゃんも知ってて、なんで私は、今まで誰からもその話を聞かなかったんだろ」

「今日スッゲ忙しかったじゃん。だからじゃね?」

「まあ、忙しかったのはそうだけど。……じゃあ、まあ、だからなのか」


 今日は朝イチで、ちょっと面倒くさいミスが発覚し。早急に対応しないといけなくて、お昼の時間も取れないかと危ぶまれた。けど、ギリギリで一旦は収束して。こうやって、いつものようにお昼を食べることが出来ている。けど、まだ完全に収束した訳じゃないから、お昼が終わればまた、バタバタすることになるだろうな。

 まあ、バタバタできるほうが有り難い。今は。

 その動画と、アジュールって人が、気になりすぎる。



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