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酔い潰れた青年を介抱したら、自分は魔法使いなんですと言ってきました。  作者: 山法師


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22 味方

 顎に手を当て、少し斜め下を見ながらセイが言う。


「……えーと……よく分かんないけど、どうぞ」

「あのですね、僕は、人間ではありますが、体内構造は人体のそれとは違うので、本当はほとんど物を口にしなくても生きていけるんです」

「え」

「ならそのほうが楽じゃないかと、拾われたばかりの頃の僕は、師匠に言ったんです。食いっぱぐれる心配がなくなるんだから、断然そっちのほうが良いって。なんですけど、師匠は」


『その生き物は、その生き物らしい生活をしてなけりゃ、自分がなんなのか分からなくなっちまう。自分の心を迷子にさせちまう』


「だからそうならないように、お前は美味いものを食べて、たくさん寝て、手に職を──つまり魔法を覚えて、その生き物らしく、自分らしく生きていけと、言われたんです」


 セイは顔を上げて、笑顔を見せた。少しだけ、寂しげな笑顔を。


「それで、……師匠に拾われるまで、……あまり人らしくはない生き方をしていた僕は、……師匠のご飯はアレでしたけど、仕事のお礼などで貰った食べ物とか、そういうものは、今までと違ってすごく美味しかったので、食べ物はこんなに美味しかったっけと、なら食べてもいいかなと、そうすれば人らしくあれるんじゃないかと、今からでもそうなれるんじゃないかと少し思えたので、それなら師匠の言う通りにしてみようかと、食べる、という行為を受け入れたんです。けど……」


 セイは既に、一缶空けている。けど、発泡酒一缶程度で酔いが回る人じゃない。


「その……」


 そしてまた、セイの視線がまた下へ向かう。


「現在の話に繋がりますが……」


 私は何も言わずに、残りを飲み干してから立ち上がり、


「何を間違えたのか分からないんですけど、もう何年も前からどんどんモノが食べられなくなって。食べようと思えなくなって。睡眠もとれなくなって。……先の通り、人体構造が違うので、死にはしないんですが、師匠の言った通りになってしまってるなと、思ってたんです」

「心が迷子にってやつ?」

「ええ……え?」


 セイの隣、それもセイに顔を向けるように腰を下ろした私は、ローテーブルの上の開いてない缶を取って躊躇わず開け、そのまま飲み干す。


「な、ナツキさん、一気飲みはあまりよろしくないのでは……」


 私を心配してくれてだろう、缶を持っている手のほうへセイの腕が伸ばされ、けど、私はその腕を掴んだ。


「え」

「ねえ、セイ」

「え? は、はい」

「その迷子になっちゃった心は、ちょっとは自分の家に辿り着く道を見つけられそう? それともまだ、迷子で泣いてるのかな。ひとりかな」


 セイは目を見開いて、少し視線を彷徨わせ、少ししてから迷うように口を開いて、とても小さな声で。


「……今は、帰ってこれてると思います……」

「なら良し!」

「えっ?!」


 私はセイの腕を引っ張って、そうされるとは微塵も思ってなかったセイの体は想定通りにこっちに傾いたので、私はそれを危なげなく受け止めた。


「………………え?」


 セイの間の抜けた声が、耳の近くでする。


「君はやっぱり頑張ってたんだよ。そうなっちゃうまで頑張ってたんだよ。その上、そのことを誰にも頼らなかったっぽいね?」

「え、え、え、と……それは、あの、魔法使いと言わないで過ごしてきた……その、そういう理由もありますし……?」

「じゃ、私には頼って」


 私は缶をローテーブルに置いて、セイの背中に腕を回し、ちっちゃい子にするみたいにポンポンと優しく叩く。


「秘密があるから言えないってことなら、君の秘密を知ってる私には頼って欲しい。今みたいに話して欲しい。弱音ってさ、てかストレス? かな? そういうのって、吐き出さずにどんどん溜めてくと、やっぱり体にも心にも悪いんだと思う。だからさ、つらくなったら、そうでなくても、頼って。話して。私は君の味方だから」

「……あの」

「うん?」

「……ナツキさん、酔ってます?」

「軽く酔ってるけど、意識はしっかりしてるつもりだよ。本人に言われても、説得力皆無だろうけど」

「……なら、ナツキさんが酔ってるって思うことにします」

「君ね、」


 からかい混じりに文句を言おうとした。けど、セイのその行動に驚いて、何も言えなくなってしまった。

 だって、セイが抱きしめてきたもんだから。


「えと? セイ?」

「有言実行させていただいてます」


 どゆこと。


「頼ってます。物理的に。変なことはしません。これが嫌なら嫌って言ってくれて構わないです。すぐ離します。……もう、何百年も、こういうこと、してないんです……」

「……嫌じゃないからいいよ」


 震えてる君を突き放すなんて、出来ないよ。


 *


 で、暫くそうしたあと、なんとなぁくお互いに気を読み合って、腕を離して、私は席に戻ったんだけど。


「……」

「……」


 うん。気まずいね。セイに至っては顔を両手で覆って、か細い声で「すみません……」って言ってるし。


「いや、先に手? 出したのは私だし。セイが謝る必要はないよ。てか私が謝るべきだね、ごめん」

「いえ……それは……その……と、とても、嬉しかったので…………」

「……えっと、まあ、嫌じゃなかったなら、良かった……のか、な……?」


 あ、てか。


「料理冷めちゃったね。温め直してこようか」

「あ、は、」

「セイは座ってていいよ。ちゃちゃっとやっちゃうから」


 私はそう言って、セイがなにか言う前に立ち上がって、お盆に乗せられるだけ料理を乗せて、キッチンに向かった。

 ……いや、私も結構、時間差で恥ずかしくなってきた。

 レンジで料理を温めながら、冷静になれ、とゆっくり呼吸する。

 別にやましい行為じゃないし。そういう考えのもとでやったもんじゃないし。私には恋人もいない──


「あっ! セイ! ちょ、ちょっと確認させて!」


 ちょっと慌てちゃったけど、レンジからローテーブルの方へしっかり顔を向ける。


「え? はい、何を……?」

「セイ、付き合ってる人、いる?」


 聞いたら、セイが固まった。




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