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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第7章 会員戦編
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97 次のステージ



 王暦七百六十一年、晴の月七日。

 今日から新年度の授業が始まり、俺の二年生としての生活がスタートする。



「二人とも、準備はできましたか?」


「もちろん! 早く行こー!」


「いきましょう!」



 朝、授業を受けに、俺たちは五〇九号室を出発する。


 そこに、カヤ先輩の姿はない。


 初めのうちは騒がしさに少し物足りなさを感じていたが、一ヶ月も経つとそれにも慣れてきた。

 今や五〇九号室では、この三人でいることが新しい日常となっていた。


 俺たちは寮から出ると、校舎へ向かう生徒たちの大きな流れに合流する。その中には、俺よりも幼い生徒がちらほら見える。今年入ってきた三百四十九期生──ピカピカの一年生たちだ。彼らは上級生に連れられ、一生懸命に歩いている。


 一年前は俺もあの立場だったんだよな、と懐かしく思うと同時に、入試がもう一年前であることに驚きを隠せない。


 時間の流れは速いな!



「じゃあね、フォル~」


「頑張るのですよ」


「ではまた、フローリー先ぱい、レイ先ぱい」



 俺は二人と階段の前で別れると、少し遠くなった自分の教室へ向かう。その途中で、後ろから俺の名前を呼ぶ声がした。



「フォル、おはよ」


「おはようジュリー。ひさしぶりだね」



 俺の隣に来たのはジュリー。会うのは旅行前以来だから、約二ヶ月ぶりだ。



「そういえば、うわさになってるね」


「え、なにが?」


「『竜』がドルディアでたおされたってこと」


「ああ〜」



 やっぱり噂になっているんだ。

 そりゃそうか。竜の死体は王都に移送された、って聞いているし、噂が立っていても全然おかしくはない。


 ま、さすがに俺が斃した、ってことまではさすがに知らないだろうけど。



「で、フォルがたおしたんでしょ? 『竜』」



 見事なまでの一瞬での伏線回収だった。



「……だれがいってたの、それ?」


「だれもいってないよ。ただ、『幼女が斃したらしい』って。でも、そんなことできるのって、フォルくらいでしょ?」



 なるほど、そういうふうに噂になっているわけね……。


 そして、ジュリーは俺のことをよーくわかっているようだ。



「で、フォルがたおしたんでしょ?」


「……うん、まあ、そうだよ」


「やっぱり! さすが『竜殺し』だね!」


「『竜殺し』⁉︎」


「うん。うわさではそうよばれてるけど」



 『爆殺幼女』に続き、またスゴい二つ名を獲得してしまったな……。

 これからまた、事情を知っている人には『竜殺し』って呼ばれるんだろうなぁ……。


 嬉しいような、恥ずかしいような、呼ばれたら心の中で悶えてしまいそうだ。



「……ジュリー」


「なに?」


「わたしがりゅうをたおしたってこと、いわないでね」


「え、なんで?」


「はずかしいから」


「いいじゃん。フォルがつよいのはすごいことなのに」


「ダメ。はずかしいからいわないで」


「え〜」


「あと、『竜殺し』ってよぶのもやめてね」


「……わかった」



 少し不服そうに、ジュリーは頷いた。


 その直後、俺たちは教室に到着する。

 ドアの上には、二年生の魔法科と書かれたプレートがあった。


 よし、今日も一日頑張りますか!

 俺は新たな気持ちで、教室のドアを開けたのだった。






 ※






 新年度初日の授業が終わってジュリーと別れた後、俺は寮には帰らず、そのままクリークに直行する。


 年度が変わったとはいえ、ここには夏休み中も毎日欠かさず来ていたので、あまり新鮮な感じはしない。



 いつもなら、建物に入ってそのまま練習場に直行するところだが、今日はその手前の通路を曲がって階段を上る。そして、廊下を進み、本部のドアを開けた。



「しつれいします」


「……来たか」



 ドアを後ろ手で閉める中、ジェラルド先生が、ふーっ、と細長く白い煙を吐いた。



「先生、きょうはいったいなんのようですか?」


「慌てるな……まあ、座れ」



 俺は先生に言われるまま、近くの席に座る。



「……そういえば、忘れないうちに聞いておこうと思っていたんだが」


「なんですか?」


「お前、どうやって竜を殺した?」



 いろいろすっ飛ばした、単刀直入な質問だった。

 俺が竜を斃したのだと、既に知っているかのような言葉だ。

 いや、実際に既知なのかもしれない。



「……しってるんですか? わたしがりゅうをたおしたってこと」


「ああ」


「……どうやってしったんですか?」


「宮廷魔導師団の中に、ジークフリートっていうマッチョな奴がいただろ? 赤色のエンブレムの。この前ソイツと飲みに行った時に聞いた」



 そうか、先生の前職は宮廷魔導師団なんだっけ。それなら、現職の人と繋がっていてもおかしくはない。



「んで、どうやって斃した?」


「えーっと……」



 俺は『レーザー』など自分で開発した魔法の説明を交えつつ、先生に竜との戦いの様子を話す。



「……というかんじで、たおしました」


「なるほどなぁ。それなら確かに、竜がほぼ完全な形で残っていたのも頷ける。

 普通、大型の強い魔物を斃すときは、大出力の魔法で焼き尽くすだとか、頭と体をちぎるとか、そういう手段をとりがちだからなぁ」



 なんともワイルドな手段だ……。力には力を、といった感じだろうか。



「それと、魔物に使用するのはいいが、対人戦だとか集団戦で『レーザー』は使うなよ。人に当たるととんでもねぇことになるだろ、それ」


「あ、はい……」



 今回の戦いでは、『レーザー』が竜の目を通じて脳を焼けるくらいの威力を出せると判明した。もしそれが人の目に当たったら、一瞬で失明させるだろうし、目じゃなくて体に当たったとしても火傷を負わせることになる。


 先生の言う通り、使う場面は慎重に選択しないと、大変なことになってしまうだろう。



「気をつけます」


「そうしてくれ。……まあ、雑談はこれくらいにして、本題に入るか」



 一拍置いて、先生は話題をガラッと変えてきた。



「『魔力視』の訓練は順調か? もうすぐ開始から一年になるわけだが」


「はい。まいにちれんしゅうしたおかげで、かなりできるようになりました」


「そうか。確かに、お前は休みの間もかなりの頻度でここに来ていたみたいだしな。

 で、何がどのくらい視えるようになった?」


「とりあえず、あるていどつよいまりょくは、みえるようになりました。あと、まほうのけいとうも、なんとなくは……」


「なるほど。フォルゼリーナ、オレの手を見ろ」



 そう言って、先生は右手をパーにして、顔の前に突き出した。



「これは、何本に視える(・・・・・・)?」



 五本! と反射的に答えそうになったが、そういうことじゃない、とすぐに思い直す。

 話の流れというものがあるだろう。それを踏まえれば……。



 俺は魔力視を発動する。すると、先生の手を覆うように、素の魔力が放出されているのが見えた。

 そして、特に人差し指、中指、小指の三本の先からは勢いよく魔力が放出されていて、魔力だけに注目すれば、まるで指が三本の手のように見えた。



「……三本です」


「よし、いいだろう」



 先生は、口角を僅かに上げた。



「練習の成果が出ているみたいだな。これなら、もうテストを受けても大丈夫そうだ」


「テスト?」


「あぁ。お前を今日ここに呼んだ理由は、そのテストが受けられるかどうか見極めるためだ。

 どうだ、今日受けてみるか?」



 どんなテストかわからないが、俺はそれを受ける条件を満たしたらしい。

 こういうのは、受けられる時にとっとと受けるに限る! このクリークに入ったときだって、そうだった。次のチャンスはいつ巡ってくるかわからないからな。



「……やります!」


「じゃあついてこい」



 きっと魔力視に関するテストなのだろうが……。どんな内容なんだろう?


 俺は、席を立つと先生についていき、練習場に入った。


 練習場の中央には、一人の生徒がこちらに背を向けて立っていて、魔力を素のままで放出する訓練に励んでいた。


 俺は彼女の姿に見覚えがあった。最初に、先生に魔力視の訓練をするように言われた日に、ローガン先輩と一緒に練習場にいた人だ。その長い赤髪が特徴的だったのをよく覚えている。



「キャサリン」



 先生の声に反応して、彼女は魔力の放出をやめると、こちらを振り返った。



「……先生、何の用?」



 その言い方や態度から、ツンツンした人だなぁ、と心の中で思う。


 すると、先生は俺の頭の上に手を置いた。

 


「コイツの魔力視のテストの相手をしてやってほしい」


「……ははぁーん、なるほどね。それであたしを呼んだってことね」



 彼女はつり目を細めて、あまり面白くなさそうに言った。



「というか、本当にできたの? そこのちびっ子、まだ魔力視の練習を初めて一年くらいじゃない?」


「さっきオレが出した簡単なテストはクリアした」


「ふーん……なかなかやるわね」



 そして、ジーッと彼女は俺を見つめてくる。



「……あんた、名前は?」


「……フォルゼリーナ・エル・フローズウェイです」


「フォルね。あたしはキャサリン・ジザール。六年生よ」



 最初から俺の名前を略してきたなこの人! いや、別にいいけどさ……。

 六年生ということは、俺の四つ上、つまりローガン先輩やレイ先輩の一つ上の学年か。



「で、やってくれるのか、キャサリン?」


「いいわよ。相手になってあげる」


「そうこなくちゃな」



 先生は、ポケットから何かを取り出すと、先輩に向けてそれを軽く投げた。先輩はそれをキャッチすると、自分の胸ポケットにはめる。


 それは白色無地の丸いバッジだった。



「テストって、なにをするんですか?」


「魔力視の実戦テストよ」



 すると、先生ではなく、先輩が答える。



「戦いの中で、きちんと魔力視が使えているかどうか、テストするのよ」


「……ぐたいてきには、なにをやるんですか?」


「単純なことよ。あんたには、あたしのこのバッジを奪ってもらうわ。あたしは取られないようにする。それだけ」



 そう言って、先輩は自分の胸のバッジを指差した。


 すると、砂時計の横に移動していた先生が説明を引き継ぐ。



「制限時間は、この砂時計の砂が全部落ち切るまで。それまでにキャサリンのバッジを奪い取れたら、テスト合格だ」


「わかりました」


「準備はいいか、二人とも?」


「はい!」


「もちろんよ」



 そして、先生は砂時計を勢いよくひっくり返した。



「それでは、テスト始め!」



 2024/06/07 更新

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