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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第6章 ドルディア編
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90 フォルvs竜



 ゴオオオオ! とものすごい勢いのブレスが空中を切り裂いていく。

 地面に対してほぼ水平に放っているので、重力の影響を受けて軌道が下へ曲がりそうなものだが、あまりにも勢いが強すぎるために、遥か彼方までずっと真っ直ぐになっている。



「ふっ、ふうぅぅ……」



 脳内でそんなふうに冷静に考えている一方、俺はあまりにもギリギリな回避に、うまく呼吸ができなくなっていた。



『フォル⁉︎ 大丈夫⁉︎』


『あ、危なかったっス……』



 竜がブレスを放つとほぼ同時に、ルビとエルが『マニューバ』を俺の判断を待たずに自ら発動したことで、俺は間一髪、ブレスの軌道上から体を移動させることに成功した。

 その結果、俺の体からわずか一メートルといったところを、ものすごい勢いのブレスが通過したのだ。



 た、助かった……。マジでありがとう、ルビ、エル。


 それにしても、あのブレスの正体は一体なんなんだ? それがわかれば、少しは避けたり防いだりする糸口が掴めそうなものだが……。



『フォルゼリーナ様、あのブレスの正体ですが、おそらく水かと』



 水?



『ええ。正確には海水でしょう。体内に溜め込んだ海水を、魔法を利用して高圧で噴射しているものと思われます』



 なるほど……。つまり、超でっかいスケールの『ウォーターカッター』みたいなものなのか。


 俺は念のため、身体強化魔法を発動する。気休めでしかないが、あのブレスが直撃したらときに少しでも耐えられる可能性があるのなら、やるに越したことはないだろう。


 しかし、今ので確信したが、真正面からやりあうのは無謀だ。あんなものがバンバン飛んでくるなんて正気の沙汰ではない。


 ここは姿を眩ませて、俺の居場所を掴みづらくするのが得策か。



 レナ! よろしく!



『承知なのじゃ!』



 俺はレナの力を借りて、『インビジブル』と『ソナー』を発動する。これで、少なくとも竜の目からは見えなくなったはず……。


 だが次の瞬間、竜がこちらに頭を向けた。


 ヤバい! と直感した俺は、先程の二の舞を避けるべく、『マニューバ』を発動して避ける。


 数秒後、先程まで俺が居た場所に、ブレスが直撃する。

 ホッとしたのも束の間、竜はまたもやこちらを向いて、ブレスを発動する。


 幸いにも、ブレスとその予備動作の間に若干のラグがあるため、気を抜かなければ避けることは容易い。

 だが、これらの竜の動きから、容易には信じられない仮説が浮かび上がる。



「まさか……みえてる……?」



 どう考えても、竜は俺の姿を視認しているようにしか思えない。だが、それは俺の『インビジブル』の効果上、あり得ないことである。


 なぜなら、『インビジブル』は俺の体に当たるはずだった光をすべて迂回させるからだ。反射する光が無いので、観測のしようがないはずだ。


 ……いや、待てよ。もしかしたら……。


 俺は『インビジブル』にある細工をしてから、三連続で『ファイヤーボンバー』を、バラバラな方向に撃つ。しかし、竜はそれに反応はするものの、やはり俺だけを狙ってブレスを放ってきた。



 実は、『インビジブル』にも弱点はある。それは、俺の体にぶつかるはずだった光を無くすだけで、俺から発せられる光には何もしていない、ということだ。


 つまり、自らが光源となっていた場合、その光は『インビジブル』では隠しきれないということだ。


 もちろん、俺は現在光源となるようなものは持っていない。魔法を発動したときの残滓となる光もできるだけ抑えるようにしている。


 しかし、一つだけ俺の体が発生源となっているものに心当たりがあった。



 赤外線だ。



 やろうと思えば、『インビジブル』は可視光のみならず、あらゆる波長の光をシャットアウトできる。先程、俺はそのように『インビジブル』を強化した。


 その状態で、『ファイヤーボンバー』を三つ発動した。これらは、離れたところで熱源を発生させることで、戦闘機におけるフレアのように、俺の体から発せられる赤外線を隠した。


 そのため、もし竜が俺の体から発せられる赤外線を感知できるのであれば、俺がどこにいるのかわからなくなるはずだった。


 だが、そのような様子は観察されなかった。つまり、竜は別の方法で俺を観測している可能性が高い。



 音か? いや、だったら『ファイヤーボンバー』の音につられて俺には反応できないはず。となると……。



 『魔力視』だ。



 俺の魔力を感知して、位置を把握しているに違いない。



 そうなると、かなりマズいぞ……。こうして浮遊するためには魔法を使い続けなければならない。その間、魔力はずっと消費しっぱなしだ。


 魔法の発動をやめたら、そもそも戦いにすらならない。せっかく拳銃を持っているのに、それを自ら放棄するようなものである。



 とにかく、竜を撒くための方法を今のうちから考えないと……。


 魔力は無限ではない。いつかは尽きてしまう。強大な魔物を相手にする以上、なるべく先の手を考えて行動しなければならない。



 俺は『インビジブル』を解除すると、『マニューバ』で適当に動き回る。



 潜水するのはどうだろう? だが、カヤ先輩の話によると、竜は海に生息しているらしいから、潜水すると今よりも素早くなって、むしろ逆効果かもしれない。確かに、竜がずっと宙に浮いて過ごしているわけないもんな……。


 かといって、このまま永遠に『マニューバ』を続けられるわけではない。残念なことに魔力電池は部屋の中だし、魔力量はあと半分ちょっとしか残っていない。


 その間に四人が十分遠くへ逃げられるとは思えないし、かといって俺が脱出すれば四人に矛先が向かいかねない。



 ……もしかして、逃げ回るんじゃなくて、竜を斃すことが、一番いい方法ってこと?



 しばらくの思考の後、俺はかなり無茶な結論に到達してしまった。

 だが、このままではジリ貧で、状況が良くない方向へ転がってしまいそうなのは確かだ。



 ……やるしかないのか。



 俺は一旦竜から距離を取ると、奴の全体を視界に捉え、魔力視を発動する。


 次の瞬間見えるのは、奴の体全体を覆う凄まじい量の魔力。どうやら自分に浮遊魔法を使用することで、宙を移動しているようだ。


 あんな巨体をずーっと支えられている上に、あの威力のブレスを何発も放てるほどの魔力量があるのか。数字にしたら、俺の何十倍、いや、何百倍、ひょっとしたら何千倍もあるかもしれない。


 こうして見ると、俺が相手をしようとしているのは、とんでもない化け物なんだな……。


 だが、どんな生物にも弱点は存在するはずだ。俺が勝つには、それをうまいこと利用するしかない。


 そのためにはまずは観察だ。俺は竜の視界に入らないように慎重に移動し、その体に近づいていく。


 近づくにつれ、奴の体が鱗に覆われているのがはっきりと視認できた。

 濃い青色をした光沢のある鱗だ。それが背中から腹まで、体全体をびっしりと覆っている。一つ一つの大きさは七十センチ四方くらいと、かなり大きめだ。


 正面からやり合うのはさすがに無謀だ。だから、まずは側面への攻撃を試みる。



「『ファイヤーボンバー』!」



 俺は大きめの火球を生成すると、竜の体に向けて発動する。

 ビューンとすっ飛んでいった火球は、竜の体に当たると、バフン! と鈍い音を立てて消えた。



「……きいてなさそう」



 確かに当たったはずなのに、鱗には焦げ目ひとつついていないようだ。

 威力が足りないのかな? それなら……。



「『レーザー』!」



 次に、レナの力を借りて、レーザーを発射する。

 すると、鱗に当たったレーザーはジジジという音を立てた。その場所から火花が散る。



「ギャオオオオオオ!」



 お、ちょっと効いているっぽい!



『フォル、気をつけて!』



 次の瞬間、暴れた竜の尻尾が勢いよくこちらに飛んできて、俺は慌てて回避する。それにより、『レーザー』の発動は終わってしまった。


 さっきよりかは多少効果があったようだ。だが、レーザーを当て続けるのは至難の業だ。こちらも相手も動いている上に、レーザーが当たったら当たったで竜が暴れ出すのだ。



 しかし、どうやら高温の熱は竜の鱗には有効らしい、ということがわかった。問題は、それを当て続けるだけのチャンスと魔力があるかどうかだ。



 あー、刀を持っていたらなぁ……。それなら素早く接近して、刀に魔力をこめて振り抜くだけで、熱で鱗を一瞬で融かしてダメージを与えられただろうに……。残念ながら、俺の部屋の中だ。


 かといって、爆発系の魔法を使うには、もう魔力が足りない。

 『バースト』の魔力消費量は二千五百。しかもこれは全くロスがない時の数値だから、実際はこれよりも一割程度多めに必要になる。

 それを考慮すると、もし発動できたとしても、その後はほぼ魔力切れのような状態になってしまって、やられてしまうかもしれない。



 ……となれば、鱗をなんとかするのではなく、鱗のない場所を探した方がいいかもしれない。



 俺は再度、引いた視点から竜全体を観察する。


 その結果、俺は鱗に覆われていない部分を一つ発見した。


 頭部である。



 しかし、頭部はブレスを発射する口があるところだ。近づけば近づくほど、ブレスから逃れるのは困難になる。


 でも、やるっきゃない! そこしか突破口は残されていないのだから。


 俺は竜の体の背中側から慎重に近づくと、その体から一メートルほどの距離にピッタリとつく。


 そして、体の動きに合わせて頭の方へ進んでいく。



 竜は俺を追いかけて、ぐるぐると体を回転させ、空中にとぐろを巻くような格好になる。かなりのスピードで短い半径の円を描くように飛んでいるため、遠心力で自分の体にかなりの力がかかる。



「ぐっ……」



 それをなんとか耐え忍び、俺はやっと竜の頭部へ、背後から到達した。片方の角の枝分かれした先を、右手でガシッと掴む。身体強化魔法を強化して、振り払われないようにする。


 しかし、竜は俺が自分の角を掴んだのを察したのか、急に暴れ始める。



「うわぁぉおおぁぁおおぁぁおお!」



 俺を振り払おうと、上下左右に激しく動き回る。それに合わせて、俺の体は上下左右に振り回される。



 ヤバい! 肩が脱臼しそう! 俺は振られる勢いをうまいこと利用して、足を絡み付かせ、体全体で竜の角にしがみつく。


 次の瞬間、右肩に激痛。



「いいいっっっっ、あああああ!」



 肩が脱臼したのだ。痛すぎて力が入らない。しかし、直前に角にしっかりと体を固定していたため、体がすっ飛んでいくのは防がれた。


 『ヒール』ですぐにでも治療したいところだが、肩が外れている状態でそうしてしまうと、その状態で固定されてしまって後々面倒なことになりかねない。それに、今は戦いのために魔力を保存しておきたい。放置したからといってすぐに死ぬわけではないのだから。


 痛みと慣性力で視界がグラグラしながらも、一方で俺はかなりの好感触を掴んでいた。


 この状態では、竜は俺にブレスを放つことはできない。それに、体の一部分で俺を振り払おうとすると、角や、自分の頭部にダメージを与えてしまう。


 竜が暴れているのはこのためだ。逆に言えば、竜が暴れていることこそが、竜にとってとても嫌なことをできている証拠である。



 さて、あとは竜を斃すだけだ! この辺りには俺の攻撃を防ぐ強固な鱗はない。


 だが、どんな攻撃を仕掛けても良い、というわけではない。できるだけ少ない魔力で、一撃で葬れるような攻撃にしなければならない。



 やはり熱系の攻撃がベストだろう。できるだけ魔力を直接エネルギーに変換して、ピンポイントで当てられるような、そんな攻撃がいい。


 俺は足を絡めている竜の頭部を見る。硬そうな角、長い口髭、金色の瞳、大きな口。



 そして、俺は悪魔的な攻撃方法を思いついてしまう。


 これなら一撃で竜を斃せるだろう。なおかつ、魔力の消費も抑えられる。

 しかし、かなり残酷な攻撃方法のように思える。そのことが、すぐに行動へ移せない理由になっていた。


 だが、俺は頭を振る。躊躇ってはいけない。時間を伸ばせば、それだけ俺は不利になる。


 もはや、俺も竜も、引き返せないところまで来てしまったのだから。



 俺は角を足場に振り子のように体を振って、文字通り竜の目の前に現れる。竜からしたら、左目に急に俺の姿が現れたかのように見えるだろう。


 竜がそれにリアクションをしようとする。だが、俺の攻撃動作は、その時点ですでに終了していた。



「『レーザー』!」



 俺の合わせた手の指先から、真っ直ぐな光が放たれる。膨大なエネルギー密度を持つそれは、一瞬にして竜の目の中に入っていった。



 レーザーポインタの注意書きには、こんな文言がある。


『人に向けて使用しないでください。失明のおそれがあります』


 俺が考えついた方法は、強力なレーザーでそれをやる、ということだった。


 おそらく、最低でも失明はするだろう。だが、俺が狙っているのはその先だ。


 ジューと何かが焦げるような音がする。次の瞬間、竜が今までで一番大きな声で咆哮した。そして、頭を動かしまくる。


 俺は振り払われないように、必死に足でしがみつく。そして、『レーザー』を目から外さないように、必死に保ち続ける。



 俺の狙いは、高出力の『レーザー』で眼球を通じて脳を焼くことだった。


 これはある種の賭けでもある。竜の体の構造が、ヒトと同じとは限らないからだ。もしかしたら、全身に広がる神経ネットワーク全体が脳の役割をしているのかもしれない。


 だが、この様子を見ると、俺の読みは当たっているようだった。


 三十秒ほど経過しただろうか。突然、竜がこれまでにないほどデカい咆哮を上げた。



「ギャアアオオオオォォォォ……」



 尻すぼみになるそれを聞き、俺はそれが、竜の断末魔であることを直感的に理解した。


 そして、竜の体が下方向にぐんと引っ張られる。魔力視をすると、いつの間にか体全体を覆っていた浮遊魔法の魔力が綺麗さっぱり無くなっていた。


 ヤバい、このままでは俺も一緒に墜落してしまう!


 俺は急いで竜の角から足を外すと、頭部を蹴って『マニューバ』を起動し、勢いよく離れる。

 そして、安全な距離まで移動すると、浮遊魔法に切り替えた。


 眼下には、自由落下を続ける竜。あれだけ悠々と浮いていたのに、あっけなく地面に吸い込まれるように落ちていく。


 その先には俺たちが宿泊していた保養施設の建物があった。



 重苦しい衝撃音。



 竜の体は、建物の倉庫部分を押し潰し、ド派手な土煙をあげた。



「……た、たおしたのか……な?」



 何秒待っても竜はピクリとも動かない。



 どうやら、俺は竜を斃すことに成功したみたいだった。



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