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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第6章 ドルディア編
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83 いざドルディアへ



 転移施設を出ると、そこは白亜の街だった。


 降り注ぐ太陽光が、地面の白いタイルに反射して眩しい。

 辺りを見回すと、真っ白な建物が軒を連ねている。鮮烈な空の青がそれらに映え、また空の青は建物の白に映えていた。


 どこからか風が吹いてくる。それには、微かな潮の匂いが乗っていた。

 真上では、カモメのような海鳥が鳴きながら飛んでいる。



 この情景を一言で表すのならば、夏の海沿いの街。そして、実際にそれは正しかった。


 次の瞬間、カヤ先輩が俺たちの後ろから前に出てきて、嬉しそうに声をあげる。



「ようこそ、ドルディアへ!」






 ※






 アークドゥルフ王国は、五つの州で構成されている。


 俺の故郷、ラドゥルフがある西部のラドゥルフ州。

 その東にある王国の中心、王都のある王国直轄州。

 その二つと隣接する北部の砂漠地帯、テクラス州。

 王国北西部にある、大きな湖を持つラルカス州。


 そして、海に面した王国東部のドルディア州だ。


 カヤ先輩が手紙を受け取ってから約四週間後。俺たちはカヤ先輩の故郷である、ドルディア州の州都・ドルディアへ、王都から転移魔法陣を乗り継いで転移してきたのだった。



「目が痛いくらい真っ白だー!」



 レイ先輩は大はしゃぎしている。以前、生まれてから一度も王都から出たことが無いと言っていたので、ここで見るものすべてが彼女にとって新鮮に映るはずだ。



「あ、暑いですわね……」



 対照的に、大きな麦わら帽子を被ったフローリー先輩は、テンション低く暑そうに自身に手で風を送っていた。



「フローリーせんぱいは、あついのにがてなんですか?」


「ええ……。寒さにはある程度耐えられるのですが……」



 まさに、北の帝国出身の人である。

 もしテクラスに行ったら、あまりの暑さに溶けてしまうかもしれないな。



「じゃあ、ひやしましょうか?」


「……そんなことができるのですか?」


「はい」


「……では、お願いします」


「わかりました。『アイスウィンド』」



 俺はフローリー先輩に向けて、魔法を発動する。

 水系統初級魔法の『アイス』と風系統初級魔法の『ウィンド』の複合魔法、『アイスウィンド』。冷たい風を吹かせる魔法で、魔力消費量は百だ。


 冷ややかな一陣の風が、フローリー先輩の服を揺らす。



「おお……」


「どうですか?」


「とても涼しいです。ありがとうございます、フォルゼリーナ」


「みんなー! 馬車に乗るよー!」



 見ると、馬車の前でこちらに手を振るカヤ先輩。どうやら、迎えの馬車は既に来ていたようだ。


 荷物とともに乗り込むと、馬車は早速動き出して郊外へと向かう。



「この街、とっても活気があるね!」



 レイ先輩が、車窓にかじりつきながら楽しそうに言う。



「ドルディアの街は、漁業に加えて貿易の拠点にもなっているからね~」


「そういえば、カヤ先輩のお父様は貿易会社に勤めていらっしゃるのですよね」


「そうそう。この街は外国との貿易の窓口になっているからね。お父さんの会社含め、貿易会社はいっぱいあるよ。だから、この街には外国人も結構住んでいるんだ」



 国際的な貿易港あるあるだな。



「もちろん、帝国の人もいるんじゃないかな。というか、フローリーはここを経由して王都に来たんじゃないの?」


「ええ、そうですね」



 船旅は大変でしたが、と付け加えて、フローリー先輩は目を逸らした。彼女にとっていい思い出ではなさそうだった。


 俺は話題を変える。



「こんかいとまるところは、どんなところなんですか?」


「お父さんの会社の建物だよ。昔は社員向けの保養施設だったんだけど、今は倉庫を増設して、主に物品の保管場所として使っているみたい」


「……本当に泊まって良いのですか?」


「まあ、お父さんが言っているんだし、いいんじゃないかな」


「どのくらいで着きますかー?」


「うーん……この馬車はゆっくりだから二時間半くらいかな? お昼頃には着くと思うよ」



 俺たちの乗る馬車は、街を抜けると海沿いの街道をひたすら南東へ走っていく。

 雑談をしながら揺られていると、やがて馬車は大きな建物の敷地の中に入っていき、止まった。



 俺たちは荷物を持って馬車を降り、これから十日間泊まることになる建物を見る。


 建物の前には、これまで見たことのない、いかにも熱帯に生えていそうな木が一列に並んでおり、建物は市街地と同じく、真っ白な石が使われている。


 シンメトリーな二階建ての豪華な建物だ。これを見るに、きっとカヤ先輩のお父さんの貿易会社は、相当儲かっているのだろう。



「は、早く中に入りましょう」



 暑がりなフローリー先輩が急かし、俺たちは正面玄関から中に入る。



「すずし〜!」



 大きなドアを開けると、冷気がブワッと俺たちを包み込んできた。レイ先輩が思わず声を出した。


 期待を裏切らず、エントランスも豪華だった。

 天井から下がるシャンデリアには明かりが灯り、レッドカーペットが床に広がっている。正面には豪邸によくある、二階へ続く階段。


 王都のフローズウェイ家のホテルと、全然引けを取らない華やかさである。



「ちょっと待っててね」



 カヤ先輩は、エントランス横にある受付に向かうと、何かを話す。

 そして、戻ってきたその手には鍵束。二つの鍵が輪に通されてまとめられている。



「よし、じゃあ部屋に行こっか」



 俺たちは泊まる部屋へ移動を始める。



「今回は二人ずつ同じ部屋に泊まることになるんだけど……誰と組みたいとか、希望とかある?」


「あたしは誰でもいいよー」


「わたくしも、特に希望はありません」


「わたしもです」


「……うーん、じゃあじゃんけんでいいか」



 この世界にも、じゃんけんのような三すくみのゲームが存在する。

 それで戦った結果、俺とレイ先輩、フローリー先輩とカヤ先輩がそれぞれ同室となった。


 俺たちにあてがわれたのは、二階の端の二部屋だった。



「はい、これ鍵」



 俺は、カヤ先輩から部屋の鍵を受け取ると、早速あてがわれた部屋に入る。



「「おおー!」」



 まず目に入るのは大きなダブルベッド。真っ白なシーツは綺麗に保たれていて、とても清潔感がある。

 冷暖房も当然完備されていて、壁面には部屋を冷やす魔法陣を起動するためのスイッチがあった。


 部屋の中の調度品は少ない。それがかえって落ち着いた雰囲気を醸し出している。


 しかし、俺が一番注目しているのは、一番奥のカーテン、その向こうだった。



 レイ先輩も俺と同じ気持ちだったらしく、部屋に入ると真っ先に窓に駆け寄ると、カーテンをシャーと開いた。



「わぁ……」


「すごーい!」



 窓をも開け放つと、目の前には美しいドルディアの海。近くは真っ白な砂浜になっていて、奥にかけてエメラルドグリーンの遠浅の海が広がっている。


 まさに保養所というにぴったりの景色だった。王家の別荘だと言われても、普通に信じてしまうレベルである。


 とりあえず、俺たちは荷物を部屋の隅っこに降ろした。


 さて、やりたいことはいっぱいあるけど、まずは何をしようかな……。



「フォルー! レイー!」



 すると、開けっぱなしのドアからカヤ先輩が入ってきた。



「景色すごくない⁉︎ こんなに綺麗だとは思わなかったんだけど!」


「ですよねー! あたし、初めて海を見てかんどーしてます!」


「じゃあさ、早速海に遊びに行かない⁉︎」


「いいですねー! 行こう行こう!」



 二人はわー! とドタドタ足音を立てながら、早速部屋を出ていってしまった。


 二人が出ていくと、今度はフローリー先輩がやってくる。



「……あの二人は、元気いっぱいですわね」


「そうですね……」



 呆れ気味な表情をしながら、フローリー先輩はベッドに腰掛けた。


 すると、さっき出て行ったばかりのカヤ先輩とレイ先輩が戻ってきた。



「部屋に水着忘れたー!」


「ほら、フローリーも、フォルも!」


「みんなで遊ぼうよ!」


「二人とも、水着は持ってきたでしょ?」


「はやくはやくー!」



 カヤ先輩は、フローリー先輩が何かを言う前に彼女の手を引っ張って、自分の部屋へと引っ込んでいった。



「フォルも、早く水着に着替えよー!」


「……わかりました」



 どうやら拒否権は無さそうだ。


 俺は自分の荷物から水着を引っ張り出すと、早速着替え始めるのだった。



 2024/04/02 更新

 2024/09/18 更新

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