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俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第5章 学園入学編
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80 虹の濫觴



「お疲れ様でした。次回もぜひ、挑戦しにきてください」



 試験終了後、魔法陣のシールを剥がされ、麻痺状態から回復した受験者が次々と帰っていく。

 ある人は肩を落とし、ある人は人目も憚らず泣き、ある人は悔しそうに叫び、ある人は他の人とお喋りをしながら、三々五々に出口へ進んでいく。


 そんな受験者の様子を見ながら、俺は傍に立つローガン先輩に問う。



「なんで……わたしは、ごうかくなんですか?」



 嬉しいことには嬉しい。が、正直に言って、全然納得できない。



「ん? 何か気になることでもあったかい?」


「もちろんです! だって、わたしはせいげんじかんないに、せんぱいにシールをはりつけられなかったし、それどころか、シールをつけられてまひさせられたし……」



 多少、他の人とは違う動きができていたかもしれないが、それが合格に足りうるものだとは、俺にはどうしても思えなかった。



「……たぶん、君は勘違いしているんじゃないかな?」


「かんちがい?」


「うん。僕は、『最初に僕にシールを貼った人は入会試験に合格とする』とは言ったけど、それができなかったら不合格、とは言っていないはずだよ」



 ……確かに、思い返してみれば、貼れなかった人が不合格だ、とは一言も言っていなかった。



「で、でも、いまかえっているひとは……」


「ああ、その人たちは不合格だよ、残念ながらね」



 つまり、合格基準がローガン先輩の言ったもの以外にも、存在しているっていうことなのか? それを満たしていたから、俺は合格だったっていうことか?



「じゃあ、なんでわたしはごうかくなんですか?」



 最初の質問に戻ってしまった。他の人が不合格で、俺が合格になった、その判断基準を知りたい。



「……そろそろ行こうか」



 周りを見ると、この空間には俺とローガン先輩以外、誰もいなくなっていた。

 そして、先輩は振り返ると、砂時計の横にあるドアを開け、上に続く階段を指差した。



「これから君を本部に案内するよ。歩きながら、君の質問に答えよう」



 俺たちはゆっくりと階段を上り始めた。



「……さて、どうして君が合格で、その他の人が不合格になったのか、だけど」



 歩きながら先輩は話し始める。



「結論から言えば、『あの場では、唯一君だけに見込みがあった』から、だね」


「みこみがあった……?」


「そもそも、どうして僕たちが入会試験を行うか、わかるかい?」


「……にゅうかいしたいひとを、しぼりこむため?」


「もちろん、それもあるさ。だけど、一番の目的は、試験を通して有望な生徒を見つけ、勧誘することなのさ。というよりもむしろ、有望だと判断した生徒に、『合格』という証をあげているんだよ」


「じゃあ、もし、さいしょにせんぱいがいったじょうけんをみたしたひとがでたら……?」


「もちろん、その人に合格をあげて、勧誘していたよ」



 とりあえず、俺を合格とした意図は理解できた。しかし、まだわからないことがある。



「それなら、どうしてわたしにはみこみがある、とおもったんですか?」


「いくつか理由はあるけど、一番大きいのは、あの場で唯一、僕のことが見えていたからかな。実際、見えていたんでしょ?」


「……はい」


「それに、周りの人とは全然動きが違ったよね。僕の追い詰め方も見事だったし、してやられたよ」



 ハハ、とローガン先輩は笑った。


 ここで、俺たちは階段を上り終えた。目の前の廊下の突き当たりには、大きなドアが待ち構えている。


 このドアの向こうが、本部の部屋だろうか。


 そして、先輩はドアを開いて中に入っていく。



「終わりましたー」


「おお、お疲れ、ローガン。入会試験はどうだった?」


「一名合格です」



 続いて部屋に入ると、中には一人の男性が座っていて、パイプをふかしていた。


 その男性に、俺は見覚えがあった。そして、相手も俺に見覚えがあったようだ。



「ジェラルドせんせい⁉︎」


「お前は……フォルゼリーナ⁉︎ ローガン、今年の合格者って……」


「彼女ですよ。受験者の中で唯一、僕のことが見えていたんです」


「なるほどなぁ……。ま、不思議ではないか……」



 フー、と先生は白い煙を細く長く吐いた。



「先生は彼女を知っているんですか?」


「ああ。魔法科の一年で、筆記・実技ともに入試の首席だ。それに、『魔法実技』で授業を受け持っている」


「なるほど、そうだったんですね」


「しかし、まさかここに合格できるほどの実力があるとぁ、思わなかったな」


「……せんせいは、どうしてここに?」


「オレはこのクリークの顧問だ。ついでに言うなら、ここのOBでもある」



 そういえばカヤ先輩が、学校の先生が顧問をしているクリークもあるって言っていたな。



「とりあえず、座って座って」


「あ、ありがとうございます」



 俺は先輩に勧められるまま、部屋の真ん中にある長テーブルの片側の席に座る。

 ローガン先輩は机を挟んでちょうど反対側の席に座った。ジェラルド先生は少し離れたところで、相変わらずパイプをふかしている。



「さて、改めて、合格おめでとう。フォルゼリーナさん」


「ありがとうございます」


「これで君は、『虹の濫觴』に入れるようになった。もちろん、今すぐに入会してもいいんだけど、その前に改めてこのクリークについて説明した方がいいかな?」


「おねがいします」



 元々はローガン先輩にお礼をしに行っただけだった。それが、まさか入会試験に合格してしまうなんて思いもしなかった。


 虹の濫觴について知っている情報は、カヤ先輩やレイ先輩に教えてもらったものだけだ。入る前に、会員であるローガン先輩から、改めて説明してもらった方がいいだろう。決断するのはその後でも遅くはない。



「『虹の濫觴』は、今からおよそ百年前に結成された歴史あるクリークさ。当初は、宮廷魔導師団への入団を目的とした生徒の集まりだったらしい。だから、こんな名前をしているわけさ」



 なるほど、『虹』っていうのが、宮廷魔導師団の団員に割り振られる七つの色を表していて、『濫觴』は、団員を輩出するということを表しているのか。



「もちろん、OBやOGには宮廷魔導師団に入った人がたくさんいる。そこのジェラルド先生もその一人だね。

 ただ、現在は単に、実践的な魔法を極めた魔導師になりたい、っていう人もかなり在籍しているよ」



 それでも、宮廷魔導師団にゆくゆくは入りたいと思っている俺には、このクリークはぴったりのように思える。



「現在の在籍者は十二人。十年生が三人、九年生が一人、八年生が三人、七年生が二人、六年生が一人、五年生が一人、四年生が一人だね。まあ、僕が最年少というわけだ。もし君が入れば、最年少になるけどね」


「……歴史的にも、おそらく最年少だがな」


「そりゃすごい。大記録だよ」



 ジェラルド先生の言葉に、ローガン先輩は手を叩いた。



「入会方法は……まあ、さっきやったように、年に一度入会試験をやって、有望そうな人を合格にしている。ウチは基本的に少数精鋭なんだ。あんまり人数を増やし過ぎても、先生が指導するのが大変になってしまうからね」



 ローガン先輩がチラッと目をやると、ジェラルド先生は目を閉じて、パイプから煙を出しているのみだった。



「普段の活動は、基本的にこの建物で、放課後にやっているよ。下の練習場──さっき試験を受けたところで練習することが多いかな。

 練習する曜日とかは特に決まっていないから、自由に鍛錬する感じだね。でも、皆熱心だから、最低でも週に一度は顔を出しているよ」


「な、なるほど……」


「ここまでで、質問はあるかな?」


「あ、あの」



 俺はずっと気になっていたことを質問する。



「にじいろのうでわって……」


「ああ、これか。これは会員証みたいなもので、入会すると一人一つもらえるんだ。内側に自分の名前が刻まれている特別製なんだよ!」


「おお……」



 かっこいいし、スペシャルな感じが滲み出ている……。これをつけていたら承認欲求が一瞬で満たされそうだ。



「……それをいつもつけているのは、お前くらいなものだぞ、ローガン」


「え、みんなつけていないんですか?」


「あぁ。コイツが特別、見せびらかしたすぎなんだよ」


「やだなー先生、人聞きの悪い。いいじゃないですか、つけていたって別に何か減るもんじゃないですし」



 まあ、とにかく、とローガン先輩は俺に向き直る。



「『虹の濫觴』についての説明はこんなものかな。他に質問は大丈夫?」


「はい」


「そっか。じゃあ改めて聞くよ。


 フォルゼリーナさん、君は『虹の濫觴』に入りたい?」



 もう、俺の心は決まっていた。迷わずに頭を下げる。



「はい。よろしくおねがいします」


「こちらこそ、歓迎するよ。ようこそ、『虹の濫觴』へ!」



 こうして俺は、『虹の濫觴』に所属することになったのだった。



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