表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の転生×転性ライフ  作者: 卯村ウト
第4章 シャルゼリーナ編
60/140

59 暴走、そして決着



 フリードリヒは素早く詠唱した。



「『ファイヤーボンバー』!」



 フリードリヒの周りに三つの火の玉が出現した。


 火系統中級魔法『ファイヤーボンバー』。魔力消費量は二百。火球を打ち出す魔法だ。

 しかも、ただの『ファイヤーボンバー』ではない。同一魔法の三重発動(トリプルキャスト)だ。



「伏せろ!」



 ハルクさんが叫んだ瞬間、火球は三方バラバラに発射された。


 そのうちの一つがこちらにまっすぐ飛んでくる。だが、ルーナが再度発動した風魔法のバリアによって、それは阻まれた。



 もう一つの火球は、前へと飛んでいく。しかし、ハルクさんにではない。シャルにだ。



「避けろ!」


「うおおおぁああ! 危なっ!」



 シャルはコケそうになりながらも、なんとか避ける。剣術で鍛えた反射神経と、身体強化魔法のおかげだろう。


 残りの一つは、後方へ飛んでいく。幸いにも人がいないところに着弾したが、木製の椅子が勢いよく燃え盛った。



「イヤアアァァァアア!」


「うわああぁぁあああ!」



 周囲にいた人が悲鳴をあげる。そして、一斉に式場の後ろにある入り口に殺到した。


 最初に入り口に到達した人が、ドアを開けようとする。しかし、開かない。いくらドアノブをひねってもガチャガチャいうだけで開かない。



「あ、開かない!」


「くそっ、体当たりだ!」



 大柄な男性が、最初に到達した人を押し除け、思いっきりドアにタックルする。しかし、それでも開かない。バァン! と凄まじい音を立て、多少ドアがたわむが、開かない。



「無駄だよ」



 そこに、フリードリヒの声。



「僕が入場する時に、ドアに『ボンド』の魔法陣を貼り付けておいたのさ」



 『ボンド』。地系統の中級魔法で、魔力消費量は三百。ものを接合する効果を持つ。俺が魔力電池を作る際、リンが魔水晶を接合した魔法と同じものだ。


 そういえば、フリードリヒがかつて話していた。スイッチとなる魔法陣と実際に発動する魔法陣を分離して、遠隔で操作することができる、と。もしかしたら、それを使っているのかもしれない。



「てめええええ!」



 すると、出席者のうちの一人の男性がフリードリヒに殴りかかりに走り出した。しかし、彼の拳が奴に届く遥か前に、誰かがその行手を阻んだ。



「フウゥゥンッッ!」


「グホゥァアッッ!」



 ディートリヒだ。彼は躊躇なく、向かってきた男性を殴り倒した。



「アニキを倒そうとするヤツは、オイラがぶっ倒す!」



 ニヒ、と不適な笑みを浮かべ、奴はボキボキと指を鳴らした。



「『ファイヤーボンバー』」



 フリードリヒが、再び火球を複数発射する。

 その結果、式場のあちこちで、『ファイヤーボンバー』による火の手が上がり出した。



「『ウォーター』!」



 そのうちのいくつかは、魔法を使える人によって消火が試みられていた。俺も、近くの火の手に『ウォーター』を浴びせて消化する。



 だが、このままでは被害は拡大する一方だ。遠からず死人も出るだろう。それに、フリードリヒを倒そうにも、ディートリヒが邪魔してくる。


 どうにかして、奴を無力化できる方法はないものか……。

 ああ、結界を張る魔法が使えたらなぁ……。



 いや、待てよ……。


 ここにもともとあるじゃないか、結界魔法陣!


 俺は身を屈めると、長椅子の下の小さな隙間を潜り抜けて、急いで前方へ向かう。



「フォル! どこに……!」


「けっかいをふっかつさせる!」



 俺はそれだけ答えると、壇上へ向かう。

 幸いにも、フリードリヒは後方に集まっている人に気を取られているみたいで、俺の動きには気づいていないようだ。だが、早くしないと後ろの人たちの中から死傷者が出てしまう!


 俺は壇に上ると、端っこの方でうずくまっている司祭に声をかける。



「ねえ、ききたいことがあるんだけど!」


「は、はひぃ……?」


「けっかいまほうじんは、どこ?」


「け、けっかいまほうじん……?」


「このしきじょうのけっかいまほうじん! しってたらおしえて!」


「は、はぁ……でもなぜそれを?」


「いいから! はやく!」


「わ、わかりました……」



 司祭は這いつくばりながら壇上を移動する。腰を抜かしてしまっているのかもしれない。


 そして、ちょうどハルクさんとシャルが指輪を交換していた場所のカーペットを指差した。



「こ、この下です」


「ありがとう」



 俺はカーペットをひっぺがす。すると、司祭の言ったとおり、そこには結界魔法陣が薄い光を放っていた。


 だが、普通の魔法陣とは明らかに状態が違った。本来、設置されていた魔法陣に加えて、強引に後から回路が付け足されている。


 その回路に繋がれている魔法陣の図形に、俺は見覚えがあった。



 これは『反転』を表す図形だ。つまり、『範囲内で魔法を使えなくする』という結界魔法の効果を反転させることで、結界を無効化しているのだ。



 タネがわかれば話は早い。これをもう一度反転してやれば、元に戻って結界が正常に発動するはずだ。


 付け足された回路を除去するのは難しいだろう。それならば、もう一度反転の図形を強引に付け足してやればよい。


 普通、媒質にはミスリルを溶かした塗料を使用する。付け足された回路も、それで描かれている。


 当然、この場にはそんなものは都合よく存在しない。


 しかし、それ以上に、この場には魔法陣を描くのに適した材料がある。



 俺は近くに転がっていたガラス片を手に取ると、右手の指先に当てた。


 鋭い痛みと同時に、指先から血が滲む。叫び出したい衝動をグッと堪えながら、血がポタポタと垂れるまで、指を傷つけた。



「なにを……!」



 司祭の驚く声を無視して、俺は指先を魔法陣になすりつける。


 血は魔力をよく通す。それゆえ、倫理的な問題を無視すれば、最も効率の良い魔法陣の媒質となる!


 俺は結界の魔法陣に、もう一つ反転を付け足す。ミスったらやり直しの効かない作業だったが、俺はそんなことを意識する暇もなく、魔法陣を必死に描いていた。



「できた!」



 その瞬間、魔法陣は別の意味を付け足され、その効果を指示通りに変えていく。



 次の瞬間、フリードリヒが放っていたファイヤーボンバーが、突如として空中で霧散した。



「あれ? 『ファイヤーボンバー』!」



 フリードリヒは間抜けな声を出すと、慌てて詠唱する。

 だが、魔法は発動しない。


 同時に、式場の入り口を塞いでいた『ボンド』の魔法も効果を失う。人々の体重により、ギイイとドアが開く。



「おい、ドアが開いたぞ!」



 そのことに気づいた人々が、われさきに、と式場の外へ飛び出していく。



「あっ、おい、待ちやがれ!」


「待て、追うな! ディートリヒ!」



 慌てて追いかけようとするディートリヒを、フリードリヒが静止する。

 そして、奴はこちらに振り返った。



「そうか、君の仕業か……」



 睨まれて一瞬竦むが、俺は気を取り直して睨み返す。

 どうやらフリードリヒは、魔法が使えなくなった理由と俺のしたことを理解したようだ。



「フォルには触れさせないよ!」



 すると、俺の前にシャルが立ち塞がる。


 フリードリヒの魔法が使えなくなったが、それは俺もルーナも同じ。この会場での強さの指標は、暴力の強さに切り替わった。


 その点で言えば、優勢なのはいまだにフリードリヒらだ。この場に残っているものの中で、一番腕力の強いだろうディートリヒを擁しているからだ。


 こちらにもハルクさんやシャル、バルトなどがいるが、彼らは剣を使ってこそ真の力を発揮するのであって、拳での戦闘はディートリヒには敵わないだろう。



 式場が静寂に包まれる。


 だが、次の瞬間、予想外の方向から状況は動き出した。



「ハルク・ヴァン・フロイエンベルク殿はこちらにいるか?」



 式場内に残った人間の視線が、一斉に式場の後方へ向けられる。


 いつの間にか、そこには三つの人影があった。

 真ん中の人影が先陣を切り、三人が中に足を踏み入れる。


 左から、ガタイのいいおじさん、イケメンな若い男の人、そして二人に比べて背の低い女の人……? だ。


 全員同じような服装をしている。簡素だが威圧感を与えるローブだ。胸のところには、王冠と杖、そして剣が意匠されたエンブレム。


 違うのは、エンブレムの色だ。左から、赤、水色、緑である。



「……自分だ」



 ハルクさんが応答すると、真ん中の、水色のエンブレムの若い男が口を開いた。



「宮廷魔導師団、『水色』のリュード・シュタークだ。此度の、メディラム共和国軍による侵攻計画の告発に感謝する。先程、共和国軍による侵攻を我々が阻止したことを報告する」


「なっ……なぜ、宮廷魔導師団がっ……ここに⁉︎」



 フリードリヒはさっきとは異なり、明らかに声を出して驚き、動揺していた。



 宮廷魔導師団。名前から考えると、国王に使える直属の魔導師の軍団……だろうか?


 彼らがどんな立場の人か詳しくは知らないが、一つだけわかることがある。



 この三人……とんでもなく強い……!



 ディートリヒのような、見た目からわかるようなものではない。何か強大な力を体の中に秘めていて、それが漏れ出ているように感じるのだ。


 言うなれば、『オーラ』。圧倒的なそれにより、この距離からでも気圧されそうだ。



 リュードと名乗った男性は、フリードリヒの声を無視し、奴の方を向くと、言葉を続ける。



「もしや、彼がフリードリヒ・ヴィル・フロイエンベルクか?」


「……ああ。隣にいるのが、ディートリヒだ」


「成程……式場の騒ぎを聞き、駆けつけたが、どうやら好都合だったようだ。

 メディラム共和国と内通し、我が国への武力行使を誘発した容疑……また、ハルク殿の暗殺容疑……それ以外に結婚式の参加者への殺人未遂、式場の建物の破壊容疑等々により、フリードリヒ・ヴィル・フロイエンベルク及びディートリヒ・ヴィル・フロイエンベルクを、只今を以て拘束する」



 そう言うと、そのまま横の二人と一緒に、リュードさんは前へ足を踏み出した。



「動くなぁ! 動いたらたおぶべりゃぁぁっっ!」



 ディートリヒが、フリードリヒの前に飛び出して何かを言おうとしたが、次の瞬間、奴は吹っ飛んだ。


 遠く離れた長椅子に叩きつけられ、変な声をあげた後、彼は動かなくなった。


 最初、何が起こったのか理解できなかった。だが、ディートリヒがいたところに、赤色のエンブレムの人が拳を握って立っているのを見て、この人がディートリヒを殴ったのだと直感的に理解した。


 だが、その過程がどうしても理解できない。ディートリヒと彼らの間は少なくとも十メートル以上はあった。

 その距離を、瞬きすらしていない人間の知覚を超えるようなスピードで移動した、というのか⁉︎



「ひっ……やめろっ……うわああぉうごぶっ⁉︎」



 そして、赤色の人は間髪入れず、フリードリヒを殴って、KO。そして、倒れている二人を担いだ。



「二人の身柄の確保を完了した。ハルク殿へは後ほど連絡しよう。それでは、ご機嫌よう」



 リュードさんは、呆然とする俺たちにそう声をかけると、残りの二人を引き連れて、何事もなかったかのように式場を去っていった。



 2024/03/25 更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ